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第1章 聖なる乙女の学園
第10話 祀られる竜の力
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案内されたのは、山の頂上だった。
もともとは火口があった場所なのだろう。闘技場のように丸くくぼんでいた。端から端まで三〇〇メートル弱の距離で、中央が一番低かった。ゆるやかに傾斜している。
火口の周りには、少ないながらも低木や草花があった。
だが、くぼんだ頂上に木々はなく、草も生えていない。岩石がむき出しになっていて、地面は砂利を固めたように石くれがいくつも転がっている。
貴婦人は火口の中央に立ち、私とデイジーは五メートルほど離れた位置にいた。
「では、始めるとするか」
「竜の姿にはならないのですか?」
「なってどうする?」
貴婦人は笑った。
「竜になったところで、別に強くなるわけではない。パワーやスピードはもちろん、魔力もそのままだ。何も変わりはしない」
瞬間、貴婦人の姿が残像のようにゆらめいて消え、巨大な竜が現れた。
水色の竜だ。大きな翼が生え、口からは巨大な牙がのぞき、私たちを見下ろしている。巨体で太陽が隠れ、私たちのいる場所が日陰になった。
竜の姿がゆらめいた。残像のようにブレたと思った瞬間、貴婦人が現れ、竜が消えた。貴婦人は愉快そうに口許を隠して笑った。
「やはり意味がないな。怯えてくれるなら竜の姿になるのも一興だが……お主たち相手では、的が大きくなって助かるだけであろう?」
確かに、と私は言った。
「竜の姿のほうが攻撃を当てやすそうですわ」
「無駄なことはせぬ。人の姿でやらせてもらおう。ゆくぞ」
貴婦人の魔力が跳ね上がるのを感じた。すさまじい威圧感に思わず顔をしかめる。地響きが鳴り、小石が浮かび上がっている。
「こういう場合、先手を譲ってくださるものでは?」
「お主たち相手にか? 面白い冗談だ」
貴婦人が口を開いた途端、強大な力を感知した。
反射的に避けた瞬間、先程までいた場所に強烈なブレスが放たれた。人型でも使えるらしい。私は貴婦人の背後にまわった。距離二〇メートル。同時に前方――さっきまでいた場所が消し飛ぶ。
すさまじい激流に飲まれてリバ山の頂上が削られ、隣の山まで砕いていた。
私は数十個の石を作り出し、射出した。地の下級魔術だ。直径四センチから五センチくらいの石を超音速で飛ばす。が、それは普通の使い手の場合……私の魔力は高い。速度が上がり、破壊力は跳ね上がっている。
効くはずもないが、牽制にはなるだろう。
秒速八キロで突き進む石くれを追って私は走った。空気の壁を突き破って進む。一歩、二歩、三歩……貴婦人は振り返らない。
ブレスを撃ち終えた姿勢のままだ。四歩、五歩。石くれが貴婦人に激突した。
石は砕け散った。貴婦人にはなんの変化もない。私は抜剣して斬りかかった。刃に火の魔力をまとわせる。同時に速度と筋力が増した。デイジーの強化魔術だ。
貴婦人は私の一撃を左手で受け止め、さらに右手をひっかくように振るった。私は一歩下がった。なにもない空間を竜の爪が切り裂いた。地面がえぐれる。私は避けた。
だが、衝撃波で三十メートルほどふっ飛ばされた。転びそうになる。大気が悲鳴を上げていた。
貴婦人の周りに水球がいくつも出現した。私が体勢を整えるのと、水球が襲いかかるのと同時だった。無数の水球を、私は剣で斬り裂いた。動く。
貴婦人の周りを走りながら、私は火の上級魔術を使った。
向かってくる水球が蒸発し、炎がふくれ上がった。火炎は巨大な狼の形となり、貴婦人にむけて飛ぶ。直撃し、火口のど真ん中で火柱が上がった。
竜巻のように強烈な熱波と火の粉を撒き散らす。噴火のような爆音が響いた。大地が揺れ、地面が何十メートルも赤く、ぐつぐつと煮えたぎった。
まるで本物の火口のようだ。黒煙が巻き上がる。私は風魔法で煙をちらした。
貴婦人の姿はない。まばたきよりも早く、私は走り出した。上空から恐ろしいほどの魔力を感じたからだ。火口を離れた途端、空から大河が降りそそいだ。
直径三〇〇メートルの火口は、あっという間に水で埋め尽くされる。山は大金槌でぶっ叩かれたように標高が少しばかり下がった。衝撃で地面が大きく揺れた。
水しぶきが盛大な霧を作り出した。
空中に向けて、私は風の上級魔術を放った。無数の竜巻が、霧を飛ばしながら貴婦人に迫る。貴婦人は上空にいた。背中からは竜の翼が生えている。
彼女は渦巻く水流を放った。
魔術の撃ち合いだ。互いの風魔術と水魔術がぶつかり合う。だが、私は付き合う気などなかった。体を風魔術で浮かせ、迫り来る水流をかわしながら貴婦人に突っ込んだ。弾丸のように加速し、剣を振りかぶって斬り結ぶ。
相手は素手だ。見た目はか細く、美しい手だ。
だが、その腕、その爪はまぎれもなく竜のもの。硬く、鋭く、恐ろしい。デイジーの強化魔術がかかった私と、ほぼ互角の打ち合いだった。火の魔力を帯びた刃と、貴婦人の腕が激突し合う。
衝撃波で空間が揺らめいた。
私は剣で斬りかかり、空中機動で避け、前腕甲で防いだ。鎧にヒビが入る。貴婦人は両腕のほか、時たま背中の羽根を使った。
大きさも動きも変幻自在、私の一撃を防ぐ盾にもなれば、死角から攻撃する武器もなった。だが、彼女の武器はそれだけではなかった。
私は牽制の蹴りを放った。相手は羽根で受け止める。本命は袈裟懸けだ。斬りつけようとした瞬間、私は横っ腹を叩きつけられ、ふっ飛ばされた。見れば竜の尻尾が生えている。強烈な一撃の正体だ。
私は風魔法で軌道を変え――ることなく、そのままふっ飛ばされた。
全力で風を噴出し、急速離脱する。どんどん距離が離れていく。貴婦人の顔色が変わった。予想外の動きに戸惑っている。だが、これでいい。
時間稼ぎは十分だ。
もともとは火口があった場所なのだろう。闘技場のように丸くくぼんでいた。端から端まで三〇〇メートル弱の距離で、中央が一番低かった。ゆるやかに傾斜している。
火口の周りには、少ないながらも低木や草花があった。
だが、くぼんだ頂上に木々はなく、草も生えていない。岩石がむき出しになっていて、地面は砂利を固めたように石くれがいくつも転がっている。
貴婦人は火口の中央に立ち、私とデイジーは五メートルほど離れた位置にいた。
「では、始めるとするか」
「竜の姿にはならないのですか?」
「なってどうする?」
貴婦人は笑った。
「竜になったところで、別に強くなるわけではない。パワーやスピードはもちろん、魔力もそのままだ。何も変わりはしない」
瞬間、貴婦人の姿が残像のようにゆらめいて消え、巨大な竜が現れた。
水色の竜だ。大きな翼が生え、口からは巨大な牙がのぞき、私たちを見下ろしている。巨体で太陽が隠れ、私たちのいる場所が日陰になった。
竜の姿がゆらめいた。残像のようにブレたと思った瞬間、貴婦人が現れ、竜が消えた。貴婦人は愉快そうに口許を隠して笑った。
「やはり意味がないな。怯えてくれるなら竜の姿になるのも一興だが……お主たち相手では、的が大きくなって助かるだけであろう?」
確かに、と私は言った。
「竜の姿のほうが攻撃を当てやすそうですわ」
「無駄なことはせぬ。人の姿でやらせてもらおう。ゆくぞ」
貴婦人の魔力が跳ね上がるのを感じた。すさまじい威圧感に思わず顔をしかめる。地響きが鳴り、小石が浮かび上がっている。
「こういう場合、先手を譲ってくださるものでは?」
「お主たち相手にか? 面白い冗談だ」
貴婦人が口を開いた途端、強大な力を感知した。
反射的に避けた瞬間、先程までいた場所に強烈なブレスが放たれた。人型でも使えるらしい。私は貴婦人の背後にまわった。距離二〇メートル。同時に前方――さっきまでいた場所が消し飛ぶ。
すさまじい激流に飲まれてリバ山の頂上が削られ、隣の山まで砕いていた。
私は数十個の石を作り出し、射出した。地の下級魔術だ。直径四センチから五センチくらいの石を超音速で飛ばす。が、それは普通の使い手の場合……私の魔力は高い。速度が上がり、破壊力は跳ね上がっている。
効くはずもないが、牽制にはなるだろう。
秒速八キロで突き進む石くれを追って私は走った。空気の壁を突き破って進む。一歩、二歩、三歩……貴婦人は振り返らない。
ブレスを撃ち終えた姿勢のままだ。四歩、五歩。石くれが貴婦人に激突した。
石は砕け散った。貴婦人にはなんの変化もない。私は抜剣して斬りかかった。刃に火の魔力をまとわせる。同時に速度と筋力が増した。デイジーの強化魔術だ。
貴婦人は私の一撃を左手で受け止め、さらに右手をひっかくように振るった。私は一歩下がった。なにもない空間を竜の爪が切り裂いた。地面がえぐれる。私は避けた。
だが、衝撃波で三十メートルほどふっ飛ばされた。転びそうになる。大気が悲鳴を上げていた。
貴婦人の周りに水球がいくつも出現した。私が体勢を整えるのと、水球が襲いかかるのと同時だった。無数の水球を、私は剣で斬り裂いた。動く。
貴婦人の周りを走りながら、私は火の上級魔術を使った。
向かってくる水球が蒸発し、炎がふくれ上がった。火炎は巨大な狼の形となり、貴婦人にむけて飛ぶ。直撃し、火口のど真ん中で火柱が上がった。
竜巻のように強烈な熱波と火の粉を撒き散らす。噴火のような爆音が響いた。大地が揺れ、地面が何十メートルも赤く、ぐつぐつと煮えたぎった。
まるで本物の火口のようだ。黒煙が巻き上がる。私は風魔法で煙をちらした。
貴婦人の姿はない。まばたきよりも早く、私は走り出した。上空から恐ろしいほどの魔力を感じたからだ。火口を離れた途端、空から大河が降りそそいだ。
直径三〇〇メートルの火口は、あっという間に水で埋め尽くされる。山は大金槌でぶっ叩かれたように標高が少しばかり下がった。衝撃で地面が大きく揺れた。
水しぶきが盛大な霧を作り出した。
空中に向けて、私は風の上級魔術を放った。無数の竜巻が、霧を飛ばしながら貴婦人に迫る。貴婦人は上空にいた。背中からは竜の翼が生えている。
彼女は渦巻く水流を放った。
魔術の撃ち合いだ。互いの風魔術と水魔術がぶつかり合う。だが、私は付き合う気などなかった。体を風魔術で浮かせ、迫り来る水流をかわしながら貴婦人に突っ込んだ。弾丸のように加速し、剣を振りかぶって斬り結ぶ。
相手は素手だ。見た目はか細く、美しい手だ。
だが、その腕、その爪はまぎれもなく竜のもの。硬く、鋭く、恐ろしい。デイジーの強化魔術がかかった私と、ほぼ互角の打ち合いだった。火の魔力を帯びた刃と、貴婦人の腕が激突し合う。
衝撃波で空間が揺らめいた。
私は剣で斬りかかり、空中機動で避け、前腕甲で防いだ。鎧にヒビが入る。貴婦人は両腕のほか、時たま背中の羽根を使った。
大きさも動きも変幻自在、私の一撃を防ぐ盾にもなれば、死角から攻撃する武器もなった。だが、彼女の武器はそれだけではなかった。
私は牽制の蹴りを放った。相手は羽根で受け止める。本命は袈裟懸けだ。斬りつけようとした瞬間、私は横っ腹を叩きつけられ、ふっ飛ばされた。見れば竜の尻尾が生えている。強烈な一撃の正体だ。
私は風魔法で軌道を変え――ることなく、そのままふっ飛ばされた。
全力で風を噴出し、急速離脱する。どんどん距離が離れていく。貴婦人の顔色が変わった。予想外の動きに戸惑っている。だが、これでいい。
時間稼ぎは十分だ。
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