聖なる乙女の××

笠原久

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第2章 聖なる乙女の騎士

第4話 学園ファンタジーバトル漫画

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「詳しい話はあとでしましょう」

 デイジーがそう提案し、私たちは了承した。入学式の時間が迫っていたからだ。

 やることは偉い人の話を聞いて、新入生と在校生、それぞれの代表が挨拶するだけだ。サボってもよかったが、皆の模範となるべき(とされる)貴族令嬢がすっぽかすのは、いかにも体裁が悪かった。

 私たちは校舎に向かって歩き出した。

 おそらく、アルファ王国でも屈指の異質な建築物だろう。王都の建物は、すべてヨーロッパふうだ。赤茶けた三角屋根にクリーム色の外壁、一定の大きさで並ぶ窓……もちろん建物の形はそれぞれ異なっているが、それでも統一感がある。

 アルファ王国に、高層ビルのようなものは存在していなかった。

 だが、この校舎は高層ビルを思わせた。高さはそれほどでもない。

 しかも明らかに鉄筋コンクリート製だ。外壁がガラス張りになっている箇所も多く、鏡のように日の光を反射させている。そして、入学式が行なわれる講堂も、どことなく公民館っぽい外観だった。

 講堂の床も、リノリウム製だ。

 イスが並べられ、在校生も新入生もそれぞれ席についている。壇上には、来賓としてやってきた宰相や騎士団長の姿があった。私たちは言われるままに座り、終わると同時にさっさと講堂を出た。

 そして、校舎内にある空き部屋をひとつ借りると、互いに向かい合った。せまい部屋で、丸テーブルにイスが四脚、壁には戸棚が並んでいた。

「で、いったいどういうことだよ?」

 口火を切ったのはシスルだ。

「どうも様子がおかしいってのは?」

「そのままの意味さ」

 リリーが答えた。

「シスル、君は言ったね。この世界は学園ファンタジーバトル漫画『聖なる乙女の騎士』という作品にそっくりだって。わたしはその漫画を知らなかったけど、君の言うとおり、十二歳のときに赤黒い魔獣エリュトロン・メランが村に来た。そして、そこでわたし以外の村人が皆殺しにされる」

「そうだぜ。でも、それは防いだろ? 最初はあたしも見捨てようかと思ったけどさ、実際に村に行ったら……うん、やっぱ見捨てんのはねぇよなって」

「感謝してるよ。わたしは何も知らなかったからね」

「おう! あれはびっくりしたぜ! こいつさぁ、最初はエロゲーとかエロマンガの世界かもしれない、とか考えてたんだぜ!」

 だいぶ落ち着いたらしく、シスルはリリーを指差し、陽気な笑顔を浮かべた。リリーはため息と一緒に肩をすくめた。

「別にエロゲーやエロマンガだと断定してたわけじゃないよ。ただ、前世の情報をあさっても、なんの作品か断定できなかったからね」

 リリーはテーブルに肘をついた。

「前世の知識の中には、ゲームや漫画の世界に転生してしまう物語もあった。正直、今のわたしに前世の人格がいっさい引き継がれてないのが意外だったけど――」

 そこでシスルが口をはさんだ。

「ああ、確かに不思議だったよなー。ああいうのって、たいていは人格も元のままなんだけど、あたしらの場合は痕跡すらねぇもんな」

「とにかく前世の知識のおかげで、この世界の言語と日本語の共通性に気づけた。だからこそ、ゲームや漫画の世界に生まれ変わったんじゃ……? という疑惑が生まれた。でも該当する作品がわからない。そこで、わたしは最悪の事態を想定して行動することに決めた」

「それがエロゲーやエロマンガですか?」

 デイジーが問うと、リリーは首を横に振る。

「いや、あくまでも可能性の一つとして考慮していただけだよ。危険度は背負わされた役割次第だ。普通の漫画やゲームだったとしても、役どころによっては相当危ない」

 リリーには苦笑した。

「ひょっとしたらヤバいのに捕まって、陵辱されたり拷問されたり殺されたりするかもしれないんだから。抵抗するには、剣や魔術を身につけて、ちゃんと鍛えておく必要がある。そう思ったんだよ」

「それについては本当に助かったぜ。やっぱ一人だと心細いし、ラスボスの割に呆気なかったけど、負けたらあたしも死んでたもんなぁ……」

 シスルは感慨深げに言った。

「でも、この二人はどうやら違うみたいだよ」

 リリーが私たちに目を向ける。シスルは怪訝な顔をした。

「違うって何がだよ?」

「この二人は――『聖なる乙女の騎士』を知らない」
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