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第2章 聖なる乙女の騎士
第6話 まさかの第三勢力
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「それで、デイジーさんのほうはどうなんだい?」
「なんの話かしら?」
「ほら、デイジーさんも同じ『聖なる乙女の学園』だと思ってたのかい? それともわたしみたいに教えられたタイプなのか……」
「デイジーに前世の知識はないでしょ?」
首をかしげると、リリーがびっくりした顔で私を見た。シスルも唖然とした表情で口をあんぐりと開けている。
デイジーはにこにこ笑っていた。
リリーが横目でデイジーをちらちら見ながら言った。
「いや、待ってくれないかな……。でも彼女、さっきプリムさんが引き合いに出した『長いお別れ』に反応してたよね? もしかして地球の本やゲームの知識について教えたのかい?」
「いえ、教えてない……あれ、そういえばそうね」
「今、気づいたのかよお前!?」
シスルが仰天した様子でテーブルに手をつき、身を乗り出した。
「そ、そうだわ……! 思い返せば十年前――!」
「さかのぼりすぎだろ」
「はじめて会ったとき……!」
「初対面のときから!?」
「私のシェイクスピアネタに反応してた!」
デイジーを見やると、彼女はゆっくりとココアを一口飲んだ。
「気づいていなかったのですね、お嬢さま」
「どうして言ってくれなかったの、デイジー?」
「いえ、正直わかっててスルーされているのかと」
「それで済ませるのはさすがにおかしくねぇか……?」
呆然とするシスルを無視して、私はデイジーの手を握った。
「まさか、こんな近くに前世の知識持ちがいたなんて……! 迂闊だったわ!」
「迂闊の一言で済ませていいレベルじゃねぇだろ!?」
「落ち着いてくれ、シスル」
リリーが言った。
「それで、結局デイジーさんはどっちなんだい? 『学園』か『騎士』か」
「どちらでもありません。私が知っているのは『聖なる乙女の英雄』というRPGなんで」
「まさかの第三勢力!?」
コーヒーを飲もうとしていたシスルが叫んだ。
「ちょっと待てよ! ただでさえこんがらがってるのに、まだ増えんのか!?」
「百合要素は! デイジー、百合要素はちゃんとあるの?」
「真っ先に訊くことそれか!? ほかにあんだろ!?」
「重要なことよ! だってこの流れだと、主人公の名前『リリー・リリウム』でしょ!」
「サブイベントでデートとかありますね。あと好感度の隠しパラメータがあって、誰と一緒のエンディングになるかが決まります。主人公も含めて、仲間キャラは全員女の子ですけどね」
「マジで百合なのかよ!?」
叫ぶシスルを無視して、リリーが訊いた。
「で、主人公は?」
「デフォルトネームはリリー・リリウムです。性別以外は色々変えられますから、見た目とか種族とかはプレイヤー次第ですね」
「三作品とも、わたしが主人公なんだね……。何も知らないのに」
リリーは困惑した様子だった。私はデイジーに向き直った。
「どうして黙っていたの?」
「お嬢さまにとっては、悲しい知らせになるので」
「私のため?」
「『聖なる乙女の英雄』って、魔王を倒す物語なんですよ」
私は耳をふさいで、長く鋭い悲鳴を上げた。
「お嬢さまはばっちり仲間キャラに入ってますよ。序盤に加入します」
「イヤよ! 魔王討伐なんてしたくない!」
「でも『英雄』では頼れるキャラでしたよ? 物理攻撃も魔法攻撃もできて、回復はできませんけど、五属性の魔術剣で弱点属性が突けて、しかも火水地風の四属性を上級魔術まで、闇属性は大魔術まで使えるんですよ!」
「まんま今の私じゃないのぉ!」
「ぶっちゃけ専用装備をのぞけば、主人公よりも強かったと前世の『私』が評してます。ステータスと使い勝手的に」
「わたしは使いづらかったの?」
リリーが自分を指さしながら訊いた。
「強いのは強いみたいですよ。専用装備の聖剣がぶっ壊れ性能で……。ただ、アタッカーとしては光属性しか使えないので、敵の弱点属性つけるって意味では多機能なお嬢さまのほうが強かったと……。正直、盾役と回復役を兼任させてた人がほとんどじゃないかと前世の『私』は思ってます」
「あたしは?」
シスルが自分を指さした。
「仲間キャラですよ。全体物理攻撃ができるんで雑魚戦で活躍、補助魔法が強力なのでボス戦でも活躍、という感じだったようです。補助魔法で武器に属性つければ、相手の弱点も突けて使い勝手よしと評してます」
「デイジーさん自身は?」
リリーが訊いた。
「私も仲間キャラですね。物理攻撃スキルのない典型的な魔法使いキャラ、火水地風の大魔術で攻撃するアタッカーです。治癒も補助も大魔術まで使えたので、リリーさんをアタッカーにしてた変わり者は、ヒーラー系のスキルを覚えさせてたそうです」
「うん? 自分でスキルを覚えるタイプのゲームなのかい?」
リリーの言葉に、デイジーはうなずいた。
「スキルツリー形式だったんですよ。レベルアップするとスキルポイントが増えて、それ使って自分の好きなようにスキルを覚えていくんです。なのでプレイ次第で同じキャラでもだいぶ変わりますね。まぁレベルマックスまで上げて、ドーピングアイテムも使えば全スキルコンプリートできましたが」
「ってことはレベル九九になっても全スキル覚えらんねぇのかよ、面倒くせータイプだな」
頬杖をつきながらシスルは言った。
「前世の『あたし』は、その手のゲームあんまり好きじゃなかったんだよなー。スキルの取り方間違えると悲惨なことになるやつだろ? それに全スキル取りたい派だったんだよな、前世の『あたし』は。レベルマックスまで上げるかどうかはともかくとして」
「スキルリセット自体は簡単にできましたよ。それにドーピングアイテムも結構簡単に集まるんで、お気に入りのキャラのスキルをコンプリートするくらいなら楽勝だとか……まぁ好きだったからこその感想でしょうけどね、これ」
「現世の自分だったら絶対にやんねーわ、的な感想だな」
「そうですね。今の私なら絶対やらないでしょう。普通に一回クリアして終わりです」
「なんの話かしら?」
「ほら、デイジーさんも同じ『聖なる乙女の学園』だと思ってたのかい? それともわたしみたいに教えられたタイプなのか……」
「デイジーに前世の知識はないでしょ?」
首をかしげると、リリーがびっくりした顔で私を見た。シスルも唖然とした表情で口をあんぐりと開けている。
デイジーはにこにこ笑っていた。
リリーが横目でデイジーをちらちら見ながら言った。
「いや、待ってくれないかな……。でも彼女、さっきプリムさんが引き合いに出した『長いお別れ』に反応してたよね? もしかして地球の本やゲームの知識について教えたのかい?」
「いえ、教えてない……あれ、そういえばそうね」
「今、気づいたのかよお前!?」
シスルが仰天した様子でテーブルに手をつき、身を乗り出した。
「そ、そうだわ……! 思い返せば十年前――!」
「さかのぼりすぎだろ」
「はじめて会ったとき……!」
「初対面のときから!?」
「私のシェイクスピアネタに反応してた!」
デイジーを見やると、彼女はゆっくりとココアを一口飲んだ。
「気づいていなかったのですね、お嬢さま」
「どうして言ってくれなかったの、デイジー?」
「いえ、正直わかっててスルーされているのかと」
「それで済ませるのはさすがにおかしくねぇか……?」
呆然とするシスルを無視して、私はデイジーの手を握った。
「まさか、こんな近くに前世の知識持ちがいたなんて……! 迂闊だったわ!」
「迂闊の一言で済ませていいレベルじゃねぇだろ!?」
「落ち着いてくれ、シスル」
リリーが言った。
「それで、結局デイジーさんはどっちなんだい? 『学園』か『騎士』か」
「どちらでもありません。私が知っているのは『聖なる乙女の英雄』というRPGなんで」
「まさかの第三勢力!?」
コーヒーを飲もうとしていたシスルが叫んだ。
「ちょっと待てよ! ただでさえこんがらがってるのに、まだ増えんのか!?」
「百合要素は! デイジー、百合要素はちゃんとあるの?」
「真っ先に訊くことそれか!? ほかにあんだろ!?」
「重要なことよ! だってこの流れだと、主人公の名前『リリー・リリウム』でしょ!」
「サブイベントでデートとかありますね。あと好感度の隠しパラメータがあって、誰と一緒のエンディングになるかが決まります。主人公も含めて、仲間キャラは全員女の子ですけどね」
「マジで百合なのかよ!?」
叫ぶシスルを無視して、リリーが訊いた。
「で、主人公は?」
「デフォルトネームはリリー・リリウムです。性別以外は色々変えられますから、見た目とか種族とかはプレイヤー次第ですね」
「三作品とも、わたしが主人公なんだね……。何も知らないのに」
リリーは困惑した様子だった。私はデイジーに向き直った。
「どうして黙っていたの?」
「お嬢さまにとっては、悲しい知らせになるので」
「私のため?」
「『聖なる乙女の英雄』って、魔王を倒す物語なんですよ」
私は耳をふさいで、長く鋭い悲鳴を上げた。
「お嬢さまはばっちり仲間キャラに入ってますよ。序盤に加入します」
「イヤよ! 魔王討伐なんてしたくない!」
「でも『英雄』では頼れるキャラでしたよ? 物理攻撃も魔法攻撃もできて、回復はできませんけど、五属性の魔術剣で弱点属性が突けて、しかも火水地風の四属性を上級魔術まで、闇属性は大魔術まで使えるんですよ!」
「まんま今の私じゃないのぉ!」
「ぶっちゃけ専用装備をのぞけば、主人公よりも強かったと前世の『私』が評してます。ステータスと使い勝手的に」
「わたしは使いづらかったの?」
リリーが自分を指さしながら訊いた。
「強いのは強いみたいですよ。専用装備の聖剣がぶっ壊れ性能で……。ただ、アタッカーとしては光属性しか使えないので、敵の弱点属性つけるって意味では多機能なお嬢さまのほうが強かったと……。正直、盾役と回復役を兼任させてた人がほとんどじゃないかと前世の『私』は思ってます」
「あたしは?」
シスルが自分を指さした。
「仲間キャラですよ。全体物理攻撃ができるんで雑魚戦で活躍、補助魔法が強力なのでボス戦でも活躍、という感じだったようです。補助魔法で武器に属性つければ、相手の弱点も突けて使い勝手よしと評してます」
「デイジーさん自身は?」
リリーが訊いた。
「私も仲間キャラですね。物理攻撃スキルのない典型的な魔法使いキャラ、火水地風の大魔術で攻撃するアタッカーです。治癒も補助も大魔術まで使えたので、リリーさんをアタッカーにしてた変わり者は、ヒーラー系のスキルを覚えさせてたそうです」
「うん? 自分でスキルを覚えるタイプのゲームなのかい?」
リリーの言葉に、デイジーはうなずいた。
「スキルツリー形式だったんですよ。レベルアップするとスキルポイントが増えて、それ使って自分の好きなようにスキルを覚えていくんです。なのでプレイ次第で同じキャラでもだいぶ変わりますね。まぁレベルマックスまで上げて、ドーピングアイテムも使えば全スキルコンプリートできましたが」
「ってことはレベル九九になっても全スキル覚えらんねぇのかよ、面倒くせータイプだな」
頬杖をつきながらシスルは言った。
「前世の『あたし』は、その手のゲームあんまり好きじゃなかったんだよなー。スキルの取り方間違えると悲惨なことになるやつだろ? それに全スキル取りたい派だったんだよな、前世の『あたし』は。レベルマックスまで上げるかどうかはともかくとして」
「スキルリセット自体は簡単にできましたよ。それにドーピングアイテムも結構簡単に集まるんで、お気に入りのキャラのスキルをコンプリートするくらいなら楽勝だとか……まぁ好きだったからこその感想でしょうけどね、これ」
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