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第2章 聖なる乙女の騎士
第24話 妖精にも知られる悪名
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「う、うるせーな! お前らが規格外なだけだろ!?」
「この場合はシスルさんも、でしょう?」
デイジーが片目を閉じて、ふふっ、と笑った。
「さっきから歩き方に迷いがありませんでしたよ? 見えてますよね? 完璧に?」
「ま、漫画だともっと強固だったんだよ! 絶対見つからない感じの!」
「現実の結界はそこまで強力じゃなかったんですね」
デイジーは妖精の里にむかって飛んだ。シスルは世にも悔しそうな顔をしていたが、無言であとを追った。
妖精たちの一部が、近づいてくる私たちに気づいた。最初は戸惑いと困惑の表情を浮かべていたが、はっきりと目が合い、私が手を振ってみせると、怯えた様子で散っていった。
「おい、ビビらせんじゃねぇよ」
「そんなつもりはないんだけれど……」
「しれっと結界を無効化してるアピールしてて、なに言ってんだよ」
私たちは木々を避けながら妖精の里に足を踏み入れた。
魔法の霧が晴れ、さわやかな日の光が降りそそぐ。妖精たちの家は、小さなログハウスだった。一般的な妖精は一メートル程度、大きいものでもデイジーと同じくらいの背丈だから、家屋も人間より小さめに作られてあった。
私たちはきれいに手入れされた芝生を歩いた。妖精たちは遠巻きに私たちを見ている。近づこうとするものは誰もいなかった。
「完全に招かれざる客ですね。どうします?」
デイジーがため息をつくと、シスルはがしがしと頭をかいた。
「ビビらせるつもりはなかったんだがなぁ。まぁ無事ならこのまま帰っても――」
「それはまずいんじゃないかな」
リリーが言った。
「さすがに結界を突破しといて、特に何もせずに帰るんじゃ、不気味すぎないかい?」
「んなこと言ったってさぁ……」
シスルはなにげなく周囲に目を向けた。猫耳が探るようにあちこちに動いている。妖精たちは、目が合うと同時に小さく悲鳴を上げて逃げていく。
シスルはため息をついた。息と一緒に、耳としっぽも下がる。
「どうすっかな、これ……」
「あの人に説明してみれば?」
私は近づいてくる若い女の妖精を手で示した。武装している。ヘルメットをかぶり、胸当てや肩当て、前腕甲など鎧をつけ、手に槍を持っていた。緊張した面持ちで、私たちに近づいてきた。
「アルファ王国の方とお見受けします。我らの里に何用でしょうか?」
若干こわばっていたが、凛々しい声だった。
「あー、えーとだな……」
シスルが頬をかいて、困った顔で私を見た。私は息をついて、一歩前に出た。
「はじめまして、可憐な妖精さん。私はアルファ王国フリティラリア公爵家の娘、プリムローズですわ」
名乗った途端、周囲から悲鳴が聞こえた。
耳をそばだてると、「あの伝説の……!」とか、「魔神の生まれ変わり……!」とか、「世界を破壊する悪夢……!」とかいった言葉が色々と聞こえてきた。
「私じゃなくて、デイジーが名乗ったほうがよかったんじゃない?」
「私が名乗っても、たぶん反応は変わらないと思いますよ?」
デイジーは愉快そうに笑った。私は、明らかに警戒を強める目の前の妖精にむけて、できるだけ物腰やわらかく話しかけた。
「まず、最初に言っておきますと、私たちはこの里をどうこうしようと思って来たのではありませんわ。害意はありません。あなたたちをどうにかするよう命令を受けたわけでもありません」
「では……なぜです?」
女の妖精は、槍を構える一歩手前だった。私たちには害意も敵意もないのに、一触即発のような緊迫した雰囲気になっていた。
「様子を見に来ただけ、ですわ。ここは王国から自治を認められた里でしょう?」
事前調査ではそうなっていた。私はデイジーを抱き寄せた。
「ほら、私の従者も妖精族ですから。どんな塩梅かと思いまして」
「恥ずかしながら、私はずっと町暮らしでしたから、いわゆる妖精の里での暮らしぶりを知らないのです」
私に合わせて、デイジーがにこやかに口を開いた。
「ちょうど王立学園で合宿がありまして、下調べをしているうちにこの里のことを知ったのですよ。で、せっかくですから、里暮らしの妖精族はどういうふうに過ごしているのかと思いまして……」
「先触れを出さず、唐突な訪問になってしまったことは謝罪しますわ。どうか許してくださいませ」
私も笑顔を意識して言った。
「歓迎の挨拶などは不要ですわ。ただ、少しばかり見学させていただければ満足して帰りますので」
「この場合はシスルさんも、でしょう?」
デイジーが片目を閉じて、ふふっ、と笑った。
「さっきから歩き方に迷いがありませんでしたよ? 見えてますよね? 完璧に?」
「ま、漫画だともっと強固だったんだよ! 絶対見つからない感じの!」
「現実の結界はそこまで強力じゃなかったんですね」
デイジーは妖精の里にむかって飛んだ。シスルは世にも悔しそうな顔をしていたが、無言であとを追った。
妖精たちの一部が、近づいてくる私たちに気づいた。最初は戸惑いと困惑の表情を浮かべていたが、はっきりと目が合い、私が手を振ってみせると、怯えた様子で散っていった。
「おい、ビビらせんじゃねぇよ」
「そんなつもりはないんだけれど……」
「しれっと結界を無効化してるアピールしてて、なに言ってんだよ」
私たちは木々を避けながら妖精の里に足を踏み入れた。
魔法の霧が晴れ、さわやかな日の光が降りそそぐ。妖精たちの家は、小さなログハウスだった。一般的な妖精は一メートル程度、大きいものでもデイジーと同じくらいの背丈だから、家屋も人間より小さめに作られてあった。
私たちはきれいに手入れされた芝生を歩いた。妖精たちは遠巻きに私たちを見ている。近づこうとするものは誰もいなかった。
「完全に招かれざる客ですね。どうします?」
デイジーがため息をつくと、シスルはがしがしと頭をかいた。
「ビビらせるつもりはなかったんだがなぁ。まぁ無事ならこのまま帰っても――」
「それはまずいんじゃないかな」
リリーが言った。
「さすがに結界を突破しといて、特に何もせずに帰るんじゃ、不気味すぎないかい?」
「んなこと言ったってさぁ……」
シスルはなにげなく周囲に目を向けた。猫耳が探るようにあちこちに動いている。妖精たちは、目が合うと同時に小さく悲鳴を上げて逃げていく。
シスルはため息をついた。息と一緒に、耳としっぽも下がる。
「どうすっかな、これ……」
「あの人に説明してみれば?」
私は近づいてくる若い女の妖精を手で示した。武装している。ヘルメットをかぶり、胸当てや肩当て、前腕甲など鎧をつけ、手に槍を持っていた。緊張した面持ちで、私たちに近づいてきた。
「アルファ王国の方とお見受けします。我らの里に何用でしょうか?」
若干こわばっていたが、凛々しい声だった。
「あー、えーとだな……」
シスルが頬をかいて、困った顔で私を見た。私は息をついて、一歩前に出た。
「はじめまして、可憐な妖精さん。私はアルファ王国フリティラリア公爵家の娘、プリムローズですわ」
名乗った途端、周囲から悲鳴が聞こえた。
耳をそばだてると、「あの伝説の……!」とか、「魔神の生まれ変わり……!」とか、「世界を破壊する悪夢……!」とかいった言葉が色々と聞こえてきた。
「私じゃなくて、デイジーが名乗ったほうがよかったんじゃない?」
「私が名乗っても、たぶん反応は変わらないと思いますよ?」
デイジーは愉快そうに笑った。私は、明らかに警戒を強める目の前の妖精にむけて、できるだけ物腰やわらかく話しかけた。
「まず、最初に言っておきますと、私たちはこの里をどうこうしようと思って来たのではありませんわ。害意はありません。あなたたちをどうにかするよう命令を受けたわけでもありません」
「では……なぜです?」
女の妖精は、槍を構える一歩手前だった。私たちには害意も敵意もないのに、一触即発のような緊迫した雰囲気になっていた。
「様子を見に来ただけ、ですわ。ここは王国から自治を認められた里でしょう?」
事前調査ではそうなっていた。私はデイジーを抱き寄せた。
「ほら、私の従者も妖精族ですから。どんな塩梅かと思いまして」
「恥ずかしながら、私はずっと町暮らしでしたから、いわゆる妖精の里での暮らしぶりを知らないのです」
私に合わせて、デイジーがにこやかに口を開いた。
「ちょうど王立学園で合宿がありまして、下調べをしているうちにこの里のことを知ったのですよ。で、せっかくですから、里暮らしの妖精族はどういうふうに過ごしているのかと思いまして……」
「先触れを出さず、唐突な訪問になってしまったことは謝罪しますわ。どうか許してくださいませ」
私も笑顔を意識して言った。
「歓迎の挨拶などは不要ですわ。ただ、少しばかり見学させていただければ満足して帰りますので」
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