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国軍少佐期
2 地ノ国です
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「ではキャンベル大尉。後は任せました」
「了解」
引き継ぎも終わり、声をかけると、敬礼を返された。
「あなたも移動が多くて大変ですね」
「主にレミー少佐のせいでありますがね」
生真面目な反応に軽口をたたくと、ジェイソンは疲れたように言い返してきた。
「じゃあ、オリバー。君も彼の側でいろいろ学ぶと良い。名家の人間の仕事ぶりを間近で見られる機会なんて、ただの新兵には滅多にないものだからね」
「はい!精進いたします!」
次に声をかけたオリバーはヒロインにとっては攻略対象者だが、私にとっては未来の部下だ。
部下は有能であるに越したことはない。『お使い』の準備期間中に、丁度良く新兵の登用試験に通ったオリバーをジェイソンの部隊に推薦し、彼に付けることで多くを学んでもらおうと思ったのだ。
攻略対象なだけあって、戦闘のセンスは素晴らしかったので、是非ともその他の面でも成長していただきたい。
そんなこんなで、ちょこちょことゲームの開始に向けた準備をしつつ、特別任務が始まったのだった。
そして、地の国に入って数時間が過ぎた頃。
「……地ノ国ってこんなに治安が悪かったんですか?」
私は足下に気絶した男達を転がしていた。
「そりゃそうよ。この国はある意味本物の自由主義。きちんとした決まりのある大きな町以外は無法地帯だもの」
「良かった。大きな町には決まりがあるんですね」
馬車から顔を出したアリアの言葉にほっとしながら、男達を縛って道路の端に転がし、馬車に戻る。
「当然じゃない。決まりがないと国が破綻するわ。『決まりが嫌だったら別の所に住め』ってことで自由が保証されているそうよ」
「それはなんとも……」
「上が大変よね。一歩間違えると住人は激減。積み上げてきたものが全部無くなることだってあるんだもの」
私が言いかけた言葉をアリアが引き継ぎ、その内容に思わず顔をしかめてしまった。
「まあ、そんなことも知らない国民の一部が『支配されたくない』とか言って野党になっているわけだけど」
「やっぱり、無理にでも転移魔方陣を使うべきでしたね」
転移魔方陣は町から町へと瞬時に移動できる魔方陣だ。安全面と、移動に使う時間が少なくてすむことが大きな利点である。
ただし、動かすには出発点と目的地の両方から魔力を注がなくてはならず、他の国への転移には面倒な手続きが必要になる。
私は打ち合わせの時から、この転移魔方陣での移動を提案していたのだが、アリアに却下されたのだ。
「嫌よ。それをすると町の外の様子を知れないじゃない」
「危険な道を通ってでもすることなんですか、それは……」
「実際に目にしないと分からないことだってあるじゃない」
それに、と、アリアが自信満々に付け加える。
「あなたがいるんだから、道中は安全でしょう?」
何度目か分からないこのやりとりに、大きくため息を吐いた。
「はあ……分かってやってますね……」
“レミー”は信頼されると弱いのだ。
こうやって全面的に信頼されてしまうと、自分にできることは聞き入れてしまう。
そもそも護衛任務だから、行動の決定権は基本的にアリアにあるわけなのだが……。
「もちろん、お姫様の期待に応えないわけにはいきませんからね」
私は“レミー”になることをやめたつもりはない。“レミー”らしく、相手の期待通りの答えを返したのだった。
「了解」
引き継ぎも終わり、声をかけると、敬礼を返された。
「あなたも移動が多くて大変ですね」
「主にレミー少佐のせいでありますがね」
生真面目な反応に軽口をたたくと、ジェイソンは疲れたように言い返してきた。
「じゃあ、オリバー。君も彼の側でいろいろ学ぶと良い。名家の人間の仕事ぶりを間近で見られる機会なんて、ただの新兵には滅多にないものだからね」
「はい!精進いたします!」
次に声をかけたオリバーはヒロインにとっては攻略対象者だが、私にとっては未来の部下だ。
部下は有能であるに越したことはない。『お使い』の準備期間中に、丁度良く新兵の登用試験に通ったオリバーをジェイソンの部隊に推薦し、彼に付けることで多くを学んでもらおうと思ったのだ。
攻略対象なだけあって、戦闘のセンスは素晴らしかったので、是非ともその他の面でも成長していただきたい。
そんなこんなで、ちょこちょことゲームの開始に向けた準備をしつつ、特別任務が始まったのだった。
そして、地の国に入って数時間が過ぎた頃。
「……地ノ国ってこんなに治安が悪かったんですか?」
私は足下に気絶した男達を転がしていた。
「そりゃそうよ。この国はある意味本物の自由主義。きちんとした決まりのある大きな町以外は無法地帯だもの」
「良かった。大きな町には決まりがあるんですね」
馬車から顔を出したアリアの言葉にほっとしながら、男達を縛って道路の端に転がし、馬車に戻る。
「当然じゃない。決まりがないと国が破綻するわ。『決まりが嫌だったら別の所に住め』ってことで自由が保証されているそうよ」
「それはなんとも……」
「上が大変よね。一歩間違えると住人は激減。積み上げてきたものが全部無くなることだってあるんだもの」
私が言いかけた言葉をアリアが引き継ぎ、その内容に思わず顔をしかめてしまった。
「まあ、そんなことも知らない国民の一部が『支配されたくない』とか言って野党になっているわけだけど」
「やっぱり、無理にでも転移魔方陣を使うべきでしたね」
転移魔方陣は町から町へと瞬時に移動できる魔方陣だ。安全面と、移動に使う時間が少なくてすむことが大きな利点である。
ただし、動かすには出発点と目的地の両方から魔力を注がなくてはならず、他の国への転移には面倒な手続きが必要になる。
私は打ち合わせの時から、この転移魔方陣での移動を提案していたのだが、アリアに却下されたのだ。
「嫌よ。それをすると町の外の様子を知れないじゃない」
「危険な道を通ってでもすることなんですか、それは……」
「実際に目にしないと分からないことだってあるじゃない」
それに、と、アリアが自信満々に付け加える。
「あなたがいるんだから、道中は安全でしょう?」
何度目か分からないこのやりとりに、大きくため息を吐いた。
「はあ……分かってやってますね……」
“レミー”は信頼されると弱いのだ。
こうやって全面的に信頼されてしまうと、自分にできることは聞き入れてしまう。
そもそも護衛任務だから、行動の決定権は基本的にアリアにあるわけなのだが……。
「もちろん、お姫様の期待に応えないわけにはいきませんからね」
私は“レミー”になることをやめたつもりはない。“レミー”らしく、相手の期待通りの答えを返したのだった。
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