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Holy Valkyrie【起】

1 はじまり

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 豪ノ国にアリアがやってきたり、そのまま他の国を回ったりした年から2年経ったある日、私は行政局にある召喚の間にいた。
 目の前には召喚の魔方陣、その周りには国中から集められた腕利きの魔法使いが並んでいる。その中にはお世話になった傭兵団の魔法使いもいて、国中をあげた一大事だということがうかがえた。

 訓練を積んだ魔法使い達が一糸乱れぬ詠唱をする。末席だが、私もその魔法使いに混ざって詠唱していた。
 魔方陣が白く輝き、体からエネルギーが抜けていくのを感じる。力が抜けそうになるのをこらえ、踏ん張って詠唱を続けた。

 長い詠唱の後、光が収まる。

「え……? 何なの!?」

 そこには、1人の女の子が……

「あれ……?」


 輝きを失った魔方陣の上には、2の女の子がいたのだった。

 ………………ちょっと待て。

 いやいやいやいや、あり得ないから!


 一度整理しよう。

 この世界には数十年に1人、聖女とか戦乙女と呼ばれる異世界人が現れる。
 それがおとぎ話とかで語られる内容なんだけど、現れる、というのは語弊がある。
 正確には、この世界の人たちがのだ。

『異世界人は自分たちと同じ人間ではない』
 それがこの世界の人間の常識であり、異世界人は“特殊な条件下でのみ召喚が可能な特殊個体”という認識なのだ。

 同じ人型である悪魔と違って、一時の契約期間が終われば帰ってしまうのではなく、呼び出された世界に留まる。その上義理堅く、信頼を得ることができれば大きな利益を与えてくれるとされている。カーバンクルとか、ケサランパサランとか、前世でも“捕まえると幸運が訪れる”みたいな伝説の生き物がいたけれど、それに近い。
 いや、“空想上の生き物”ではなく“実際にいるもの”として認識されているところは別物か。

 問題なのが、世界が受け入れられるエネルギーには限界があるということだ。
 悪魔や天使、召喚獣なんかは、次元が違ってもに住んでいる。
 しかし、異世界人となると話は別で、別の世界からの大きすぎるエネルギーを世界が受け付けないために、十年単位の時間を空けないと召喚できないのだ。

 その“数十年に一度の幸運”を手に入れるために、長年の記録から導き出された“召喚可能なタイミング”で、各国が一斉に召喚魔法を使うのだ。


 要するに、呼び出される異世界人は1
 世界は、異世界人2人分のエネルギーを受け入れられないはずなのだ。

『どこか、召喚に成功したところはある?』
地ノ国うちはだめだった』
和ノ国うちも』

 混乱の最中で、アリアからの念話が入った。
 続いて、ユナとアカリが答えるのが聞こえる。

『レミーの所は?』
『召喚には成功した』
『それはよかっ……』
『けど、2人いる』


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