元・宿屋の娘は美人冒険者の恋路を応援したい

紫野

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宿屋の娘は美男美女に付き合ってほしい

1 転生者達の出会い

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 カランカラン

 私はベルの音に顔を上げると、立ち上がり、笑顔で案内する。

「ようこそ『ウサギの巣穴』亭へ!お食事ですか、ご宿泊ですか?」



 私の名前はマリア。ありがちな名前でしょう?

 でも、それは当然と言えば当然。なんて言ったって私はただのモブでしかないのだから。ヒロインでも悪役令嬢でも、なんなら貴族のお嬢様ですらないただの宿屋の娘。

 そんな私にも一つ変わったことがある。それは、この世界と似た世界を舞台にしたゲームをプレイしていた記憶があること。
 まあ、有り体に言えば前世の記憶があるということだ。
 とは言ってもゲームの種類はアクション主体のRPG。冒険者が主人公の話の中で、宿屋の娘である私にできることといえば、町に来た冒険者を歓迎して自分の両親の宿屋を紹介することくらい。

 ただ、ここはゲームの中心になる大きな町なので、ゲームに出てくるきれいなキャラクター達を見かけることが多いのです!
 図書館では500年以上生きているという魔人の青年も見かけたし、広場によくいるという設定の情報屋の吟遊詩人は、本当に広場によくいる。
 そしてうちの宿は食堂もやっていて、それが安くてうまいと評判なので、国中を廻っているキャラクターが泊まったこともあるし、チュートリアルイベントで選べば仲間になる先輩冒険者さん達に至っては常連だ。

 あのゲームは絵がきれいで仲間になるキャラクター達も美形が多くいた。
 今までゲームの記憶があって一番良かったことと言えば、ゲームで設定を知っているからキャラクター達の人柄が察せられて楽しいということだろうか。



 食堂もやっているので当然買い出しもある。小さい頃から父さんと朝市に来ているから、食材の目利きも値切りも慣れたものだ。
 その日は良い食材が安く手に入って気分が良かった。前世で好きだったのであろう、記憶に残る歌を鼻歌で歌いながら町を歩く。

「わあ!久しぶりに聞いたわね、その歌」
「……え?」

 声がした方を見ると、冒険者らしい格好をした美人さんがいた。

 そう、美人さん。なんというかこう、サバサバ系?さっぱりした感じの美人さんです。
 癖のある赤い髪をポニーテールにしていて、装備もしっかりとした動きやすそうなものだ。


「あら?止めちゃうの?その歌久々に聞いたのに」

 首を傾げながら言う美人さんは、その発言からするとつまり……

「……転移、いや、転生者?」
「うん、転生者。やっぱりあなたもかぁ!」
「ゲームは?」
「やりこんだわよー。この格好もプレイてしたときの設定そのものだったし」

「ちなみに最推しはテオフィルス」

 呆然としていた私は最後の推し発言で覚醒して、柔らかく彼女の手を握った。

「……よくぞそこに目を付けてくれました」
「おっ同担?」
「チュートリアルのお兄さん達は皆好きです」
「箱押し?良いねー」
「あれ?でもテオフィルスさんまだ正規パーティー組んでないって……」


 ゲームのチュートリアルでは先輩冒険者の一人が操作方法などを教えてくれる。五人いるうちの一人が選べて、チュートリアルをクリアするとその冒険者が仲間になってくれるのだ。
 どの人もチュートリアル新人の指導を任されるだけあって面倒見が良いのだが、テオフィルスさんはその中で最年少の18歳。髪は焦げ茶の猫っ毛で青い瞳、柔らかい印象の好青年だ。


「ああ、それはゲームの中に入り込んだ時、自分のステータスはそのまま仲間だけ全員いなくなってて……って、うん?何でテオフィルスのパーティー事情を知ってるの?」

 話しはじめてから、私の発言が気になったらしい彼女は首を傾げる。

「うちの食堂は冒険者の常連が多いからです」
「えっそれって……!」
「常連さんなので話しはしますよ」
「う、うらやましい……」
「まあ、客に対する会話以上の話はしないですけどね」
「ええ~……もったいない」
「私はあくまで宿屋の娘ですから」

 何を期待したのかきらきらした表情の彼女に事実を伝えたら、残念そうな顔をされた。

「えー?私だったら絶対お近づきになりたいと思うのに……」

 それを聞いて、思わず彼女と彼女の推し(テオフィルスさん)がいちゃいちゃしているところを思い浮かべてしまった。

 そして私は──


「…………何それ超似合う」


──テンションが上がってしまいました。

 なんといっても彼女は美人なのだ。そしてはじめから一貫して私みたいな小娘に対しても好意的かつ活発な印象。

 私は思ったのです。

 これは主人公タイプの方なのではないかと!

 そして、そんな美人が爽やかテオフィルスさんと並んでいたら……?

 爽やかお兄さんに頬を染める勝気な美女?
 逆に主人公タイプの一人でがんばりがちな美女に甘えて欲しくてがんばるイケメン?
 いや、設定そんなものがなくてもただ並んでいるだけで眼福な光景であることは間違いない……!


「……私はマリアといいます。あなたは?」
「え?リリーだけど……」
「リリーさんですね。さあ、行きましょう」
「えっ?どこに?」

 困惑する美人さんに構わず腕を掴む。

「うちの宿の食堂です。彼らは朝食をとりによく来ますから」
「えっ?本当にどうしたの?」
「大丈夫です!テオフィルスさんには私から紹介しますから!朝会えなくても夕方にもチャンスはありますから!なんなら会えるまで泊まってってください!!」
「紹介?はい!?本当にどういうことー!?」

 テンションがマックスになった私は、ほとんど引きずるようにして、彼女を宿に連れて帰ったのだった。

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