元・宿屋の娘は美人冒険者の恋路を応援したい

紫野

文字の大きさ
2 / 30
宿屋の娘は美男美女に付き合ってほしい

2 彼女にどうですか?

しおりを挟む
 カランカラン

「たっだいまー!」
「おっ?今日はいつになく上機嫌だな。良い食材が手に入ったんだな」
「うん!はいどうぞー!」

 主に料理を担当する父さんに食材を渡し、受付にいた同年代のアルバイトの子の所に向かう。

「ミィちゃんお疲れ様!テオフィルスさん達来てる?」
「まだだよー」
「まだかあ」

 お目当ての方はいなかったので、私に連れてこられたまま呆然としていたリリーさんに駆け寄り、聞いてみる。

「朝ご飯は食べました?」
「い、いや、食べてないけど……」
「じゃあうちで食べてってください!味は保証しますよ」
「う、うん、分かった……」
「苦手な物は?」
「ない、かな?」
「父ーさーん!朝食一人前!」

 食材の供給が安定していないこの世界で、宿の食堂にメニューなんて立派なものは無い。その日ある食材でできるご飯を作り、客はそれに見合った料金を払う。
 ちなみに、料理担当の父さんはゴツいおっさんだ。その見た目に似合った豪快な料理は冒険者に大人気だ。主に宿の管理をするのが母さんで、こっちは可憐な美人さん。宿の名前を付けたのは母さんだ。


 少しして運ばれてきた食事を一口食べた美人さんは驚いた顔をして、その後美味しそうに食事を続けたのだった。


「美味しかったわ!これ、いくらくらい払えば良いのかな?」
「15ゴールドくらいですかね」
「え!?安いね!?」

 彼女が驚くのも無理はない。そこらの屋台で売っている串焼きが一本10ゴールドといったところだ。結構しっかりとした朝食を出して15ゴールドは食堂としてはかなり良心的と言えるだろう。

 これは父さんの料理の腕と母さんの経営手腕によるところが大きいが、私はこの宿の娘としてドヤ顔で「今後ともごひいきに」と言うのだった。



 カランカラン

「おやじさん、朝食三人前頼みます」
「おお!テオにラスター、ジィールじゃねえか!三日ぶりか?」
「ええ。三人で組んで受けた仕事を今朝完遂したので、後は休息です」
「何時もよりは少し遅いが朝食取ってからゆっくりしようってことになってな」

 テオフィルスさん達がよく来る時間になっても姿を現さず、今日は来ない日かもと話し始めた頃に、慣れた様子で三人組が入ってきた。

「わっあれって、────っ!」

 うちの父さんに声をかけながら入ってきたテオフィルスさんを見て、リリーさんが口元に手をやって声にならない悲鳴を上げていた。目がキラッキラしている。まさに、アイドルを見たファンの反応だ。
 いや、良かった。転生者に出会った感動とか驚きとかで変なテンションになって連れてきましたからね、私。これで本人が嫌がってたらいい迷惑でしたよ。


「テオさん、テオフィルスさん」
「やあ、マリアちゃん。どうしたんだい?」

 この宿の娘である私は常連の冒険者さんのほとんどと知り合いだ。たとえゲームキャラであっても、彼らは常連さんである。他の常連さんと同じくらいには知り合いで、話しもする。

 私が意気揚々と話しかけると、爽やかに答えたテオさんこと、テオフィルスさん。それに対して、私は早速本題に入る。

「こちらの美人さん、彼女にどうですか?」

「………………え?」

 話しかけた私に返事をした顔のまま、まるでバグでも起きたかのように完全停止するテオフィルスさんなのでした。



しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした

まるまる⭐️
ファンタジー
【第5回ファンタジーカップにおきまして痛快大逆転賞を頂戴いたしました。応援頂き、本当にありがとうございました】「アルテミス! 其方の様な性根の腐った女はこの私に相応しくない!! よって其方との婚約は、今、この場を持って破棄する!!」 王立学園の卒業生達を祝うための祝賀パーティー。娘の晴れ姿を1目見ようと久しぶりに王都に赴いたワシは、公衆の面前で王太子に婚約破棄される愛する娘の姿を見て愕然とした。 大事な娘を守ろうと飛び出したワシは、王太子と対峙するうちに、この婚約破棄の裏に隠れた黒幕の存在に気が付く。 おのれ。ワシの可愛いアルテミスちゃんの今までの血の滲む様な努力を台無しにしおって……。 ワシの怒りに火がついた。 ところが反撃しようとその黒幕を探るうち、その奥には陰謀と更なる黒幕の存在が……。 乗り掛かった船。ここでやめては男が廃る。売られた喧嘩は徹底的に買おうではないか!! ※※ ファンタジーカップ、折角のお祭りです。遅ればせながら参加してみます。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...