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宿屋の娘は美男美女に付き合ってほしい
6 酔っぱらい
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この町には時の塔と呼ばれる建物があって、決まった時間に鐘が鳴る。塔の上の方に十個の鐘があって、時間に合わせた音を奏でる。
鐘が鳴るのは一日五回。日の出と日の入り、太陽が真上に来たとき、その間に一回ずつ。それぞれ夜明の鐘、朝の鐘、昼の鐘、夕前の鐘、夜の鐘と呼ばれ、町民の日常に馴染んでいる。
夕前の鐘は、時計だと午後の三時とか四時くらいだろうか。この鐘が鳴ったくらいから、宿に入ってくるお客さんが増えてくる。それからさらに時間が経つと、食堂が賑やかになり始めるのだ。
学校のチャイムに似た夕前の鐘の音を聞きながら受付に座り、宿泊客の対応をする以外はバイトの子や常連さんと世間話をする。
「姉ちゃん!ビール追加頼むぜ!」
「はいはーい!空いたカップは持って行きますねー!」
空が茜色に染まる頃には食堂も騒がしくなり、母さんに受付を交代してもらってからバイトの子と一緒に食堂を駆け回っていた。
「やめてください!」
バイトの子が叫ぶのが聞こえてそちらを見ると、明らかに酔った男に腕を掴まれていた。
「良いじゃねえか、減るもんでもないんだしよお!」
「嫌です!放してください!」
最近宿にやってきた冒険者の客だ。前から態度はよろしくなかったが、どうやら酒癖も悪かったらしい。
止めに入った駆け出しの冒険者が軽くあしらわれたところを見ると、多少は腕が立つらしい。
間の悪いことに、リリーさん達はすでに解散していて食堂にはいないし、周りを見渡しても男を止めてくれそうな知り合いはまだ来ていないかすでに帰っている。
私はため息を吐いて騒ぎの中心に向かった。
「お客様、うちの店員にちょっかいを出すのはやめてください」
男とバイトの子の間に入り、男に声を掛ける。
「なんだぁ?姉ちゃんが代わりに相手してくれるのか?」
「ここはそういう店ではありません。『接待』がお望みなら別の店に行かれてください」
「あ゙ぁん?客に向かって何言ってやがる!?」
男がそう凄んで腕を振り上げたところで、私はお盆に乗っていた空のカップを男に投げつけた。
「こんなんで攻撃した気になってんのか、嬢ちゃん?」
木のカップは狙い通り、男の額に向かっていったが、簡単に受けられる。
だが、そんなことは予想が付いている。カップを投げたのはただの八つ当たりだし、物にあたるのは良くないよね。そこは反省。
でもねぇ、こっちが客のすることじゃないって言ってるのに「客に向かって」っていうのはどうなんでしょうって、ああ、一旦口が滑ると止まらないのはどうしてでしょうか。
「店の子に危害を加えようとした人の話も聞かない人が客?『お客様はどんな人間であっても神様です』っていうことですか。面白いギャグですね?大体、何人もの常連さんに迷惑を掛けるマナーの悪い客に必要以上のサービスをしろと?あなたはどこの石油王ですか?」
「馬鹿にしやがってこのぁぐっ!?」
男の声が不自然に途切れたのは、後ろから襟首をひっつかまれたからだった。
「てめぇ……うちの可愛い娘に何してんだ!」
結局男は、バイトの子の報告を受けてやって来た父さんに放り出されたのだった。うちの父さんはなぜか、並の冒険者なんかは目じゃないくらいには強い。
明日には男の荷物も宿の外に出されることになるだろう。
鐘が鳴るのは一日五回。日の出と日の入り、太陽が真上に来たとき、その間に一回ずつ。それぞれ夜明の鐘、朝の鐘、昼の鐘、夕前の鐘、夜の鐘と呼ばれ、町民の日常に馴染んでいる。
夕前の鐘は、時計だと午後の三時とか四時くらいだろうか。この鐘が鳴ったくらいから、宿に入ってくるお客さんが増えてくる。それからさらに時間が経つと、食堂が賑やかになり始めるのだ。
学校のチャイムに似た夕前の鐘の音を聞きながら受付に座り、宿泊客の対応をする以外はバイトの子や常連さんと世間話をする。
「姉ちゃん!ビール追加頼むぜ!」
「はいはーい!空いたカップは持って行きますねー!」
空が茜色に染まる頃には食堂も騒がしくなり、母さんに受付を交代してもらってからバイトの子と一緒に食堂を駆け回っていた。
「やめてください!」
バイトの子が叫ぶのが聞こえてそちらを見ると、明らかに酔った男に腕を掴まれていた。
「良いじゃねえか、減るもんでもないんだしよお!」
「嫌です!放してください!」
最近宿にやってきた冒険者の客だ。前から態度はよろしくなかったが、どうやら酒癖も悪かったらしい。
止めに入った駆け出しの冒険者が軽くあしらわれたところを見ると、多少は腕が立つらしい。
間の悪いことに、リリーさん達はすでに解散していて食堂にはいないし、周りを見渡しても男を止めてくれそうな知り合いはまだ来ていないかすでに帰っている。
私はため息を吐いて騒ぎの中心に向かった。
「お客様、うちの店員にちょっかいを出すのはやめてください」
男とバイトの子の間に入り、男に声を掛ける。
「なんだぁ?姉ちゃんが代わりに相手してくれるのか?」
「ここはそういう店ではありません。『接待』がお望みなら別の店に行かれてください」
「あ゙ぁん?客に向かって何言ってやがる!?」
男がそう凄んで腕を振り上げたところで、私はお盆に乗っていた空のカップを男に投げつけた。
「こんなんで攻撃した気になってんのか、嬢ちゃん?」
木のカップは狙い通り、男の額に向かっていったが、簡単に受けられる。
だが、そんなことは予想が付いている。カップを投げたのはただの八つ当たりだし、物にあたるのは良くないよね。そこは反省。
でもねぇ、こっちが客のすることじゃないって言ってるのに「客に向かって」っていうのはどうなんでしょうって、ああ、一旦口が滑ると止まらないのはどうしてでしょうか。
「店の子に危害を加えようとした人の話も聞かない人が客?『お客様はどんな人間であっても神様です』っていうことですか。面白いギャグですね?大体、何人もの常連さんに迷惑を掛けるマナーの悪い客に必要以上のサービスをしろと?あなたはどこの石油王ですか?」
「馬鹿にしやがってこのぁぐっ!?」
男の声が不自然に途切れたのは、後ろから襟首をひっつかまれたからだった。
「てめぇ……うちの可愛い娘に何してんだ!」
結局男は、バイトの子の報告を受けてやって来た父さんに放り出されたのだった。うちの父さんはなぜか、並の冒険者なんかは目じゃないくらいには強い。
明日には男の荷物も宿の外に出されることになるだろう。
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