元・宿屋の娘は美人冒険者の恋路を応援したい

紫野

文字の大きさ
5 / 30
宿屋の娘は美男美女に付き合ってほしい

5 リリーについて

しおりを挟む

「そういえばお嬢。朝の話に戻るが、お嬢は何でリリーをテオに紹介しようと思ったんだ?」

 話の途中でそう切り出したのはラスターさんだった。

「まあ、『紅の女帝』だって知らなかったんだし、どうせ食堂でむさい野郎ばかり見飽きて美人を引き込みたかったとかだろうが……」
「ラスターさん……」

 呆れたように言い重ねるラスターさんに私は目を向け──

「ナイス推理です!」
「お、おぅ……」

 ──勢いよく親指を立てた。

「だが惜しい!私はテオさんとセットで観賞したいのです!美男美女のイチャイチャが見たい……って、え?」

 私の言葉に大きなため息を吐いたラスターさんは徐に手を伸ばし、私の顔を鷲掴みにしてきた。それもしっかりと握力を込めて。

「ちょっ、痛いです!何するんですか!?」
「何してるはこっちの台詞だ。お前はそんな軽い気持ちでテオに女を紹介したのか?」

 爽やかイケメンの実力派冒険者であるテオさんは、非常にモテる。そのせいでいろいろと苦労があったとか。
 まあ、そんな仲間に見ず知らずの女性を押しつけるのは心配ですよねー。

「大丈夫ですよ!彼女の民族の気性は穏やかで、細やかな気遣いを好みます。外聞を気にする性質なので嫌がる男性に突撃なんてまねも簡単にはしませんし!」
「はぁ?……もし、仮に、それが本当だとして、何でそこまで詳しいんだ?」

 私の説明に、ラスターさんは疑問符を浮かべながら手を緩めた。頭を掴んだままなのは変わらないのですが、離していただけないでしょうか……。

「大体、どこにそんな特徴の民族いるんだ?」
「います。まあ、特殊な方ですから、知らなくて当然ですが」
「じゃあ、なんでお嬢がそんなことを知っているんだ?」

 私の言葉に、訝しげに首を傾げるラスターさん。
 たしかに、宿屋の娘風情がそんな情報を持っているのもおかしいか。でも、前世がどうとかは言いづらいし、親とも知り合いの相手に、今世の経験で嘘は言えないし……。

「んー。内緒で……って痛い痛い痛いです!」

 答えたとたんに、頭を掴む手に力が入った。

「ん?何か言えないようなことでもあるのかー?」
「良いじゃないですか!テオさん今彼女いないって聞きましたもん!リリーさんはきっといい人ですよー!放してください!」
「女で苦労してるやつに今日会った女を紹介するか、普通!?」

 目の前には説教モードのワイルド系イケメン。その顔は好みだけど、掴まれた頭が痛い!
 この世界の人間は体が強いからこのくらいではなんともならないけれど、痛いものは痛いんです!



 リリーさんを推す私と、テオさんを心配するラスターさんとの攻防は続いた。
 しかしそれは、私たちを落ち着かせようと声を掛けていたテオさんが痺れを切らし、ラスターさんの頭を漫才のツッコミよろしくすぱーんとたたいて止めたことで、収束したのであった。


「ぅあたた……ありがとうございます、テオさん」
「いいえ。こっちこそラスターがごめんね。気安い相手には少し乱暴になるところがあるから。大体、ラスターは俺を信用しなさすぎだよ、まったく……」



 カランカラン

「あっ、いらっしゃ……って、リリーさん!お帰りなさい!」
「た、ただいま……」

 テオさんの説教が始まったところで宿の扉が開き、入ってきたのはリリーさんだった。
 私たちを見て少し気まずそうな顔をしたけれど、さすがは日本人。それも優しい部類だな。律儀に答えてくれた上に、呼んだら来てくれた。


「リリー殿、あんたは『紅の女帝』だろう?」
「うわあ……そう呼ばれることもあるけど、その呼び方はあまり好きではないわ」
「なんでだ?良い二つ名じゃないか」
「嫌よ。むず痒くなるじゃない」

 ラスターさんの質問に答えるリリーさんは苦い顔をしていて、本当に二つ名を辟易しているようだった。
 他人がするのは良いけど自分がイタいことをするのはきついんだそうだ。


 その後ラスターさんから出身の話を聞かれたリリーさんは、それはもうさらっと「日本人よ」と答えた。日本という国を知らないラスターさん達に「海の向こうのさらに遠くにある島国だから、この国では知る人はいないでしょうね」と説明していた。
 旅をしていると出身を聞かれることもあるから、このような受け答えには慣れているそうだ。リリーさんが言うには、この国はどんな人種でも受け入れるから、多少変わった出自でもそこまで気にされないらしい。
 治安がよく差別も少ない。この町は良い町なのだ。



 カランカラン

「ようこそ『ウサギの巣穴』亭へ!ご宿泊ですか?」

 大荷物のお客さんが来て、ずいぶんと話し込んでいたことに気付く。
 三人に声をかけて仕事に戻ることにした。



しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした

まるまる⭐️
ファンタジー
【第5回ファンタジーカップにおきまして痛快大逆転賞を頂戴いたしました。応援頂き、本当にありがとうございました】「アルテミス! 其方の様な性根の腐った女はこの私に相応しくない!! よって其方との婚約は、今、この場を持って破棄する!!」 王立学園の卒業生達を祝うための祝賀パーティー。娘の晴れ姿を1目見ようと久しぶりに王都に赴いたワシは、公衆の面前で王太子に婚約破棄される愛する娘の姿を見て愕然とした。 大事な娘を守ろうと飛び出したワシは、王太子と対峙するうちに、この婚約破棄の裏に隠れた黒幕の存在に気が付く。 おのれ。ワシの可愛いアルテミスちゃんの今までの血の滲む様な努力を台無しにしおって……。 ワシの怒りに火がついた。 ところが反撃しようとその黒幕を探るうち、その奥には陰謀と更なる黒幕の存在が……。 乗り掛かった船。ここでやめては男が廃る。売られた喧嘩は徹底的に買おうではないか!! ※※ ファンタジーカップ、折角のお祭りです。遅ればせながら参加してみます。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

処理中です...