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宿屋の娘は美男美女に付き合ってほしい
5 リリーについて
しおりを挟む「そういえばお嬢。朝の話に戻るが、お嬢は何でリリーをテオに紹介しようと思ったんだ?」
話の途中でそう切り出したのはラスターさんだった。
「まあ、『紅の女帝』だって知らなかったんだし、どうせ食堂でむさい野郎ばかり見飽きて美人を引き込みたかったとかだろうが……」
「ラスターさん……」
呆れたように言い重ねるラスターさんに私は目を向け──
「ナイス推理です!」
「お、おぅ……」
──勢いよく親指を立てた。
「だが惜しい!私はテオさんとセットで観賞したいのです!美男美女のイチャイチャが見たい……って、え?」
私の言葉に大きなため息を吐いたラスターさんは徐に手を伸ばし、私の顔を鷲掴みにしてきた。それもしっかりと握力を込めて。
「ちょっ、痛いです!何するんですか!?」
「何してるはこっちの台詞だ。お前はそんな軽い気持ちでテオに女を紹介したのか?」
爽やかイケメンの実力派冒険者であるテオさんは、非常にモテる。そのせいでいろいろと苦労があったとか。
まあ、そんな仲間に見ず知らずの女性を押しつけるのは心配ですよねー。
「大丈夫ですよ!彼女の民族の気性は穏やかで、細やかな気遣いを好みます。外聞を気にする性質なので嫌がる男性に突撃なんてまねも簡単にはしませんし!」
「はぁ?……もし、仮に、それが本当だとして、何でそこまで詳しいんだ?」
私の説明に、ラスターさんは疑問符を浮かべながら手を緩めた。頭を掴んだままなのは変わらないのですが、離していただけないでしょうか……。
「大体、どこにそんな特徴の民族いるんだ?」
「います。まあ、特殊な方ですから、知らなくて当然ですが」
「じゃあ、なんでお嬢がそんなことを知っているんだ?」
私の言葉に、訝しげに首を傾げるラスターさん。
たしかに、宿屋の娘風情がそんな情報を持っているのもおかしいか。でも、前世がどうとかは言いづらいし、親とも知り合いの相手に、今世の経験で嘘は言えないし……。
「んー。内緒で……って痛い痛い痛いです!」
答えたとたんに、頭を掴む手に力が入った。
「ん?何か言えないようなことでもあるのかー?」
「良いじゃないですか!テオさん今彼女いないって聞きましたもん!リリーさんはきっといい人ですよー!放してください!」
「女で苦労してるやつに今日会った女を紹介するか、普通!?」
目の前には説教モードのワイルド系イケメン。その顔は好みだけど、掴まれた頭が痛い!
この世界の人間は体が強いからこのくらいではなんともならないけれど、痛いものは痛いんです!
リリーさんを推す私と、テオさんを心配するラスターさんとの攻防は続いた。
しかしそれは、私たちを落ち着かせようと声を掛けていたテオさんが痺れを切らし、ラスターさんの頭を漫才のツッコミよろしくすぱーんとたたいて止めたことで、収束したのであった。
「ぅあたた……ありがとうございます、テオさん」
「いいえ。こっちこそラスターがごめんね。気安い相手には少し乱暴になるところがあるから。大体、ラスターは俺を信用しなさすぎだよ、まったく……」
カランカラン
「あっ、いらっしゃ……って、リリーさん!お帰りなさい!」
「た、ただいま……」
テオさんの説教が始まったところで宿の扉が開き、入ってきたのはリリーさんだった。
私たちを見て少し気まずそうな顔をしたけれど、さすがは日本人。それも優しい部類だな。律儀に答えてくれた上に、呼んだら来てくれた。
「リリー殿、あんたは『紅の女帝』だろう?」
「うわあ……そう呼ばれることもあるけど、その呼び方はあまり好きではないわ」
「なんでだ?良い二つ名じゃないか」
「嫌よ。むず痒くなるじゃない」
ラスターさんの質問に答えるリリーさんは苦い顔をしていて、本当に二つ名を辟易しているようだった。
他人がするのは良いけど自分がイタいことをするのはきついんだそうだ。
その後ラスターさんから出身の話を聞かれたリリーさんは、それはもうさらっと「日本人よ」と答えた。日本という国を知らないラスターさん達に「海の向こうのさらに遠くにある島国だから、この国では知る人はいないでしょうね」と説明していた。
旅をしていると出身を聞かれることもあるから、このような受け答えには慣れているそうだ。リリーさんが言うには、この国はどんな人種でも受け入れるから、多少変わった出自でもそこまで気にされないらしい。
治安がよく差別も少ない。この町は良い町なのだ。
カランカラン
「ようこそ『ウサギの巣穴』亭へ!ご宿泊ですか?」
大荷物のお客さんが来て、ずいぶんと話し込んでいたことに気付く。
三人に声をかけて仕事に戻ることにした。
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