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元・宿屋の娘は推しカプを守りたい
2 サルーシャ
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「えっと、どなたですか?」
混乱気味に問うた私に、オジサマは綺麗な微笑みで返す。
「私はサルーシャの兄、ジオルド・トルネだ。君はこの絵の人物に心当たりがあるんだね?」
「は、はい。母にとても似ているのですが、名前も違いますし、ただの領民ですし別人かと……」
「ふむ。ちなみに、ご両親の名は?」
「父がジルバ、母がルーシーです」
ズサッ……
父の名前に少し眉を動かしたジオルド様は、母の名前を聞いたとたん、膝から崩れ落ちた。
「あんの腐れ軍人!よくも、よくもルーシーをッ!」
地面に拳をたたきつけ、綺麗な顔を歪ませるジオルド様。砦の床が少しえぐれているのは気のせいでしょうか。
「だ、大丈夫でしょうか?」
少し落ち着いた様子のジオルド様に声をかけると、ガバッと顔を上げ、立ち上がったジオルド様は勢いよく距離を詰めてきた。
「ああ、さすがは私の妹の子。気遣いのできる良い子だ!そうだ、どうせならあんなやつのところではなく私の娘に───」
ジオルド様が私の肩に手を置いたとたん、ポンッと音がして、母さんにもらった杖から鳥が出てきた。
頭は青色だけど尾に向かって緑色になるグラデーションの鳥。
「あ。伝言インコ」
伝言インコはゲームでも出てきた、空飛ぶ録音機だ。精霊なのだそうだが、魔力を使って呼べば来て伝言すれば消える、非常に便利な生き物(?)だ。
『この録音を聞いていると言うことは、そこに兄様がいらっしゃるわね?』
伝言インコが口を開くと、母さんの声が聞こえてきた。
「ああ、ルーシーの声だ!兄様はここにいるよ!」
なぜだろう、はじめはあんなに堂々とした立ち居振る舞いだったのに、この短時間でここまで印象が崩れるとは……
『どうせ気持ち悪い振る舞いをしていらっしゃるのでしょうけれど、マリアに変な勧誘とか縁談を勧めたりとかしないでくださいね』
「そんな!」
『当然ですよねえ?私はすでにトルネ家を出ております。それなのに兄様がマリアに必要以上の干渉をする権利はありませんから』
「しかしルーシー、」
『これ以上ごちゃごちゃ言うのであれば兄様とは絶縁します』
母さんの言葉にショックを受けて、ジオルド様の動きが止まった。
ちなみにここまで、母さんの声の方は録音である。まるで全部見えているかのような話し方だった。母さん凄い。
『そういえば兄様は線の細い殿方ばかり勧めていらしたけれど、全くもって私の好みではなかったわ。私はジルバと幸せに暮らしているのでご心配なく』
最後に追い打ちをかけて、伝言インコは消えていった。打ちひしがれた様子のジオルド様を残して。
「……ええとつまり、奥さんがサルーシャ様ってことでいいのかな?」
沈黙の後、テオさんが呟く。
「あ、やっぱりそうなりますか?」
「そうなるわね……」
一宿屋に設定を盛りすぎな気がするのですが。
「ていうかジルバさんは何者だよ。現陛下の婚約者かっさらっといて宿屋経営とか……」
「ほんと、よく殺されたりしなかったですね」
「それはサルーシャと陛下が合意の上で、正式な手続きを踏んで婚約解消したからな……」
やっと復活したらしいジオルド様は説明を始めた。
「ルーシーというのはサルーシャの愛称だ。昔から可愛くて頭が良くて、魔法の才能まで高い自慢の妹だった」
ジオルド様はどこか遠い目をして語り出した。
「だから私はサルーシャに見合う地位も性格も、妹の隣に並ぶのにふさわしい容姿も、全て揃った相手と結婚させてあげたかったのだ。それなのに、あのごつい軍人が……」
父さん嫌われてるなあ……。母さんは一目惚れだったって言ってたんだけどなあ。
またもや我を失いかけたジオルド様を宥めすかして話を聞く。
サルーシャ……母さんはジオルド様が最高の相手だと思って婚約を勧めた王太子と仲良くしていたらしい。恋愛感情ではなく婚約者として。
しかし、この国の将軍であった父さんと出会って恋に落ちた。
そして王太子の方も隣国の姫に一目惚れしたらしく、利害が一致した2人はさっさと婚約解消してそれぞれ好きな相手と結婚したということだった。
2人とも、相手との結婚に問題は無かったはずだったが、母さんの方はジオルド様の大反対にあい、半ば駆け落ちのようにして家を出て行ったのだそうだ。
「あれ?でもそれならなんで王命で探されてたんですか?婚約は円満に解消してるじゃないですか」
「そうでもしないと会ってくれなかったんだ!」
「何したんだよ……」
呆れたラスターさんの疑問に対して、ジオルド様は半泣きになりながら説明していたけれど、要は反対し別の人を薦めていたら会ってくれなくなり、宿に向かえば使いの者すら入れない結界を張られたらしい。
「限りなく自業自得ですね……」
「それにしたって、あんなごついのと……」
「さっきから見た目のことしか言ってないわね」
「お嬢のズレた恋愛脳はこの人譲りか」
ジオルド様に呆れた目を向ける周囲。
というかズレた恋愛脳ってなんですか!
私は外見だけでなくちゃんと中身も見てますから!
混乱気味に問うた私に、オジサマは綺麗な微笑みで返す。
「私はサルーシャの兄、ジオルド・トルネだ。君はこの絵の人物に心当たりがあるんだね?」
「は、はい。母にとても似ているのですが、名前も違いますし、ただの領民ですし別人かと……」
「ふむ。ちなみに、ご両親の名は?」
「父がジルバ、母がルーシーです」
ズサッ……
父の名前に少し眉を動かしたジオルド様は、母の名前を聞いたとたん、膝から崩れ落ちた。
「あんの腐れ軍人!よくも、よくもルーシーをッ!」
地面に拳をたたきつけ、綺麗な顔を歪ませるジオルド様。砦の床が少しえぐれているのは気のせいでしょうか。
「だ、大丈夫でしょうか?」
少し落ち着いた様子のジオルド様に声をかけると、ガバッと顔を上げ、立ち上がったジオルド様は勢いよく距離を詰めてきた。
「ああ、さすがは私の妹の子。気遣いのできる良い子だ!そうだ、どうせならあんなやつのところではなく私の娘に───」
ジオルド様が私の肩に手を置いたとたん、ポンッと音がして、母さんにもらった杖から鳥が出てきた。
頭は青色だけど尾に向かって緑色になるグラデーションの鳥。
「あ。伝言インコ」
伝言インコはゲームでも出てきた、空飛ぶ録音機だ。精霊なのだそうだが、魔力を使って呼べば来て伝言すれば消える、非常に便利な生き物(?)だ。
『この録音を聞いていると言うことは、そこに兄様がいらっしゃるわね?』
伝言インコが口を開くと、母さんの声が聞こえてきた。
「ああ、ルーシーの声だ!兄様はここにいるよ!」
なぜだろう、はじめはあんなに堂々とした立ち居振る舞いだったのに、この短時間でここまで印象が崩れるとは……
『どうせ気持ち悪い振る舞いをしていらっしゃるのでしょうけれど、マリアに変な勧誘とか縁談を勧めたりとかしないでくださいね』
「そんな!」
『当然ですよねえ?私はすでにトルネ家を出ております。それなのに兄様がマリアに必要以上の干渉をする権利はありませんから』
「しかしルーシー、」
『これ以上ごちゃごちゃ言うのであれば兄様とは絶縁します』
母さんの言葉にショックを受けて、ジオルド様の動きが止まった。
ちなみにここまで、母さんの声の方は録音である。まるで全部見えているかのような話し方だった。母さん凄い。
『そういえば兄様は線の細い殿方ばかり勧めていらしたけれど、全くもって私の好みではなかったわ。私はジルバと幸せに暮らしているのでご心配なく』
最後に追い打ちをかけて、伝言インコは消えていった。打ちひしがれた様子のジオルド様を残して。
「……ええとつまり、奥さんがサルーシャ様ってことでいいのかな?」
沈黙の後、テオさんが呟く。
「あ、やっぱりそうなりますか?」
「そうなるわね……」
一宿屋に設定を盛りすぎな気がするのですが。
「ていうかジルバさんは何者だよ。現陛下の婚約者かっさらっといて宿屋経営とか……」
「ほんと、よく殺されたりしなかったですね」
「それはサルーシャと陛下が合意の上で、正式な手続きを踏んで婚約解消したからな……」
やっと復活したらしいジオルド様は説明を始めた。
「ルーシーというのはサルーシャの愛称だ。昔から可愛くて頭が良くて、魔法の才能まで高い自慢の妹だった」
ジオルド様はどこか遠い目をして語り出した。
「だから私はサルーシャに見合う地位も性格も、妹の隣に並ぶのにふさわしい容姿も、全て揃った相手と結婚させてあげたかったのだ。それなのに、あのごつい軍人が……」
父さん嫌われてるなあ……。母さんは一目惚れだったって言ってたんだけどなあ。
またもや我を失いかけたジオルド様を宥めすかして話を聞く。
サルーシャ……母さんはジオルド様が最高の相手だと思って婚約を勧めた王太子と仲良くしていたらしい。恋愛感情ではなく婚約者として。
しかし、この国の将軍であった父さんと出会って恋に落ちた。
そして王太子の方も隣国の姫に一目惚れしたらしく、利害が一致した2人はさっさと婚約解消してそれぞれ好きな相手と結婚したということだった。
2人とも、相手との結婚に問題は無かったはずだったが、母さんの方はジオルド様の大反対にあい、半ば駆け落ちのようにして家を出て行ったのだそうだ。
「あれ?でもそれならなんで王命で探されてたんですか?婚約は円満に解消してるじゃないですか」
「そうでもしないと会ってくれなかったんだ!」
「何したんだよ……」
呆れたラスターさんの疑問に対して、ジオルド様は半泣きになりながら説明していたけれど、要は反対し別の人を薦めていたら会ってくれなくなり、宿に向かえば使いの者すら入れない結界を張られたらしい。
「限りなく自業自得ですね……」
「それにしたって、あんなごついのと……」
「さっきから見た目のことしか言ってないわね」
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