灰色に夕焼けを

柊 来飛

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自覚

風邪

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 蝶先生に相談した後、僕は前よりも悩まなくなった。相手からの想いがなくても、自分の想いさへあれば。
 先生が僕を好きならそれはとても嬉しいけど、そうでなくても、先生と一緒に居られるだけで良い。

 先生が僕のことを好きになって欲しいから、先生が好きなのではない。先生に恋したから、先生が好きなのだ。

 失恋は決定しているけど、それで良い。

 随分と寒くなってきた冬。
 僕は温かい格好をして学校に向かう。行ってきますと言うと先生が返事をくれたが、その声は少し掠れていた。

「先生、声大丈夫ですか?最近風邪も流行ってるし、気をつけてください」

「大丈夫、暖房で少し喉やられただけだ」

 それなら良いのだが。僕は少しの不安を抱え、学校へ行った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 家に帰ると、先生の靴があった。確か今日先生は仕事があるはずだ。

 僕は嫌な予感がして夕飯の食材と荷物をキッチンに置き、制服のまま先生の部屋に駆け込んだ。コンコンとノックをして返事が聞こえる前にガチャリと開ける。もの凄く失礼だが、とにかく今は許してほしい。

「せ、先生」

 先生からの返事はない。ベッドに寝ていて、やはりと思い枕元まで駆け寄る。

「先生、大丈夫ですか」

 ゴホゴホと咳をする先生。やっぱり、朝の声は暖房ではなく風邪だったんだ。先生はふと目を開ける。

「…、から、す坂」

「はい、僕です」

「大丈夫だ。寝てれば治る」

「病院は?」

「行った。薬も貰ってきた。ただの風邪だ。だから早く出てけ、移るぞ」

 赤い顔で言う先生。病院に行って薬もらってきたなら安心だ。ホッとした顔の僕をみて、先生は少し眉を顰める。

「早く。俺は大丈夫だから」

「何か食べたいものあります?」

「…….、無い、お腹が空いてない」

「分かりました。後でまた来ますね」

「おい、だから、」

 先生は不満そうな声を上げるが、僕はニコッと笑って先生の部屋を後にした。
 
 食材を冷蔵庫に入れ、制服から着替えた後、僕は簡単な夕飯を作る。僕1人だから量は少なくて良い。ちゃんと食べないとまた先生に怒られてしまうだろうか。でも、今は先生が心配で食べる気にならない。

 食べ終わった後、ペットボトルの飲み物とゼリー、冷やしたタオルを持って先生の部屋に行く。先生はさっきよりも苦しそうだ。

「先生、飲み物とゼリーとタオル持ってきました。ここに置いときますね」

 カタリとお盆を置く。枕元には薬の袋が置いてあり、手にとって見ると朝食後と夕食後の1日2回飲むことと書いてあった。

「先生、少し食べないと薬飲めませんよ」

「………、わか、てる」

 苦しそうな顔をする先生。しきりに頭を押さえていて、頭痛がひどいのだろう。ゲホゲホと咳も酷くなっている。先生が起き上がるのを手伝い、先生が薬を飲んだことを確認すると僕はまた来ますと言って部屋を出た。

 お風呂に入り、食器も全部洗った後、タオルを取り替えようと先生の部屋に行った。
 
「先生、タオル取り替えに来ました」

 そう言って、ぬるくなったタオルと冷たいタオルを交換する。あまり長居するのも良くないと思い、立ち去ろうとすると手を取られる。

「行くな」

「?、先生?」

「側に、いてくれ」

 弱々しい言葉を吐く先生。瞳はユラユラと揺れており、僕の手を握る先生の手は熱い。
 僕は先生の枕元に座り、先生の手にもう片方の手を重ねる。

「大丈夫です先生。僕は、ここにいます」

 視線だけをこっちに向ける先生。かと思ったら、手を握ったままむくりと起き上がり、僕の肩に顎を乗せる。

「せ、せんせ?」

「……………」

 先生は黙ったままだ。手の指をするりと絡め、首に熱い息がかかる。先生の余っている左手で、首を撫でられる。急なことにびくりと肩を動かしたが、先生の手は首から顎、頬と耳を触って僕の頭に辿り着く。髪をさらさらといじった後、先生はか弱く言う。

「ー俺は、弱いな」

「誰でも、熱を出した時は弱々しくなります」

 そのまま僕は先生に抱きしめられる。力が全然入っていない、優しいハグだ。

「安心する」

「僕もです」

 先生は満足すると、またベッドに寝込む。

 僕の手を先生の首元と額にやられ、そのまま僕は動けない。

「お前の手、冷たいな」

「先生が熱いんですよ」

「そうか」

 先生はフッと少し笑うと、静かに目を閉じて、ゆっくり寝息を立てる。

「夕」

 突然僕の名前を呼ばれる。驚いて先生の方を見るが、先生は目を瞑ったままだ。

「夕が、居てくれてよかった」

 そしてそのまま、部屋の電気がついたまま先生は寝てしまった。

 そっと手を離すと、先生の顔がグッと歪む。僕は急いで先生の手を握る。
 すると、先生の顔は少し穏やかな顔になる。
 
 誰かに、側にいて欲しいんだ。


        ー鷹翔、さんー

 
 僕も先生の名前を呼んでみる。名前呼びではなく、先生呼びでよかったかもしれない。これでは心臓が持たない。
 僕は先生の頭をゆっくりと撫でながら考える。
 
 これは、どこまで許されるだろうか。

 もし、許されるなら。


 ーこれは親愛だ。何も、別の意味はない。


 僕はその考えを持って、先生の額にキスを落とした。
 
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