灰色に夕焼けを

柊 来飛

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自覚

自分の中の当たり前

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 新しい春が回ってきた。
 僕は今日から高校3年生だ。
 時の流れは早いもので、もう少しで先生ともお別れなのだ。悲しいが、それが僕の人生なのだろう。むしろ、こんな人に会えたことに感謝するべきだ。

 3年生は受験で忙しい。僕もいい加減進路を決めないと。
 しかし決まっていることは、先生がいる大学は受験しない。少しでも可能性があると、僕は諦めきれないからだ。

 もう、この恋に終止符を打つのだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「烏坂、進路はどうなんだ?大学行くなら金は出すぞ」

 夕飯時に先生から聞かれた事。僕はご飯を食べる手を止めて、恐る恐る口にする。

「………、大学、行っても良いんですか?」

「当たり前だろ」

「でも僕、やりたい事とかまだわからなくて」

「だから、大学で探すんだろ」

 先生はいつも僕を元気付ける言葉を言う。僕を何も傷つけない。本当に優しい人だ。

「じゃぁどこの大学行くんだ?」

「何校かは、絞りました。全部オープンキャンパスに行った大学です」

「ん、そこまで決まってるならいいじゃねえか。烏坂評定平均も高いし、普通に推薦取れるだろ」

「うーん、そうでしょうか」

 自分で言うのもあれだが、テストでは結構高得点を取っている方だ。クラスで一位の時も結構ある。勉強しか取り柄がない僕だから、そこを疎かにしたら僕には何も残らない。

「まぁ、あまり気張らずに頑張れよ」

 はいと返事をしてご飯を食べ始める。
 先生はキッチンに食器を片付けた後、思い出したように言う。

「そういや烏坂、修学旅行どうするだ。今年沖縄だろ?何が必要なんだ?」

「あーえっと、今わかってるのは水着とサンダル…ですかね」

「誰かと買いに行くのか?」

「彩葉と一緒に買いに行こうかなって話してます」

「分かった。後でまた分かったら教えてくれ」

 いつもは必要なものは一緒に買いに行っていたのだが、今回先生は付いていかないらしい。
 そりゃ、異性の水着選びなんて、恋人でもない限り恥ずかしいだろ。先生は僕のことどう思ってるか分からないけど。歳の離れた妹とか、そんな感じなんだろうな。

 彩葉と水着を買いに行く日程が決まった後、先生からお金を渡された。足りなかったらまた請求してくれと言われたが、こんなにあったら逆に余るだろう。
 
 結局、僕はバイトをせずにここまで来てしまった。少しくらい、バイトをして先生に返すべきだろう。でも家事があるしなぁ。
 
 彩葉と水着を買いに行ったとき、そのことを話すと、

「家事があるならそっち優先の方がいいんじゃない?それに、学費とかはもう夕の先生が払うって決まってるし、返さなくて良いって言われてるんでしょ?」

「そう、なんだけどねぇ。でも、こんなに良くして貰ってるのに、何も返さないのは…」

「……夕。夕はどんな人生を歩んできたの?」

「え?」

 彩葉は近くにあったベンチに座り、隣においでと僕を促す。ストンと隣に座ると、彩葉は話を続ける。

「夕、何をしても、何か返さないとって思ってる」

「だっ、だってそうでしょ?何かをしてもらったら、それ相応のお返しをって…」

「それ、誰に言われたの?」

「え?、っと…」

 僕は思考を回す。誰だっけ?ずっと言われ続けてきたから、そういうものだと思っていた。ずっと言われ続けてきた?誰に?
 ずっと、ずっと言ってきたのは…

「…‥施設の、人」

 それを聞いた彩葉は悲しい顔をする。何故だろう。何で、悲しい顔をするのだろう。

「施設の人は、夕が何かしてあげたとき、返してくれた?」

「返して、くれ…」

 記憶を探るが思いつかない。思いつかない?何で?何かあるはずなのに、引っかからない。施設では食事も洗濯も掃除も僕がやっていた。流石に1人じゃないけど、毎日やっていた。それで、何かあったか?

「あ、あれ…?」

「ありがとうって、言われた?」

「い、言われた、はず…」

 思い出せない。彩葉やクラスのみんな、先生がありがとうと言ってくれたことは思い出せるのに、何も思い出せない。

「逆に、その職員の人が夕に何かしてあげたら、何か返せって言われた?」

「…………、い、言われ…」

 言われた。何回も。洗濯を手伝ってあげたんだから、何か働けと。何か返せと。そうやって人は助け合うのだと、教えられた。

「…‥やってんだからって、言われた?」


「ま、待って、」

 僕は彩葉に懇願する。やめて、やめて欲しい。何で、何でそんなに知ってるの?僕、彩葉に施設のこと、何にも話してないのに。何で、

「僕、僕は、」

 声が震える。僕は、今まで、こんな、こんなのって、こんなの、

 気づかないふりをしていた現実が急に牙を剥く。
 やめて、やめてよ。気づかないようにしてたのに、気づいたら、惨めさで死にたくなるから。

 彩葉は僕を抱きしめる。

「夕、ごめん。言いすぎた」

「ち、ちが、違う。違うの彩葉」

 違うのだ。彩葉は、現実から目を背けていた僕を気づかせるために、言ってくれたのに。

「………夕、夕がよかったら、今日の夜電話しない?」

「で、電話…?」

「うん。これは、夕だけの問題じゃないと思うから」

「………うん」

 僕の問題に彩葉は献身的になってくれている。

 そうだ。僕も逃げてばかりじゃいられない。
 

 その日の夜、彩葉から予定の時間に電話がかかってきた。
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