灰色に夕焼けを

柊 来飛

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2人を引き裂く手

離さない

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「……、せん、」

「素直で扱いやすいだと?ふざけるな、やっぱり前と同じように扱う気満々じゃねぇか」

 先生は怒りを押し殺した声で言う。

「烏坂、今ならまだ間に合うぞ。こっちに帰って恩を返せよ」

「お前っ」

 先生はガタンと立ち上がる。僕は先生の腰に抱きつく。

「待って先生、」

「っ………、烏坂、」

「お前の生きる意味を与えたのは誰だ?お前の価値を教えたのは誰だ?俺だろ?それなのに、俺に感謝もしないで自分の勝手で生きるのか。それが、お前の生き方か」

「違、」

「違くないだろ。それがお前の生き方なら別にいい。恩人に何も返さない、薄情なお前の生き方だ」

「違う、」

「じゃあこっちに来いよ。頷くだけでいい、大学に行かないでこっちに戻ってきてくれるか?」

 至極優しい声で言う。それがあまりにも気持ち悪くて吐き気を促す。

「こっちに戻れば、あの噂がこれ以上広まる事なんてない。高校ではうまくやってるようだが、社会に出たらそんなうまく行かない。それに、これを断ったら異常者の妹だけじゃなくて薄情な奴ってレッテルも貼られるぞ」

「っ………」

「そうなったら、お前を引き取ったこいつにも迷惑がかかる」

「!!」

 先生に迷惑がかかる。それは嫌だ。でも、僕は、



「それでも僕は、戻りたくない……!!!」



 僕はボロッと涙を流す。

「もう嫌だ、あんな扱い。どこに行っても同じなら、僕は自分で決める」

 僕は泣きながら言う。流れる涙を一生懸命に拭って、鼻声で話す。

「僕は先生と約束した。もう戻らないって。それに、みんなが教えてくれた。迷惑かけていいって、」



   「そんなの嘘に決まってるだろ」



 その人はピシャリと言い放つ。

「お前が可哀想だから、お前がどうしようもない奴だから、そう言ったに決まってるだろ。そんなことも分からないのか」

 冷たい目で見られる。僕の呼吸が、鼓動が止まる。

「なぁ烏坂。やっぱりお前の居場所はここしかねぇよ。戻ってこい。随分弱くなったな、また鍛え直してやるから」

 その人は立ち上がる。僕は一歩下がる。

「逃げるなよ」

「や、やだ、」

「まだそんなこと言うのかよ」

 その人は僕に手を伸ばす。しかし、その手は弾かれる。

「…………」

 上を見ると、先生が冷たい目で相手を見ていた。先生は黙ったままだ。

「おい、これは俺と烏坂の問題だ。お前はもう出てけよ」

「ここは俺の家だ」

「は?だからなんだよ、」

「………ここで何が起こっても、全て俺の自由だ。何をしても良い。物を壊しても、汚しても」

「何言って、」

「なぁ知ってるか?」

「……は?」

 「人は素手でも殺せる。殴っても殺せるし、首を絞めても殺せる。武器を使えば尚更だ。よくある台所用包丁でも凶器となり得るし、そもそも殺人の凶器はそれが殆どだな」

「お前、」

「ここには俺と烏坂しかいない。そうだろ」



    「お前は、ここには居なかった」



 僕は全身の鳥肌が立つ。ブワリと悪寒が全身を駆け巡る。
 相手は恐怖に身を竦めるが、全身をガクガクとさせるだけで動けない。

「待って先生!」

 僕は先生に抱きつく。先生は僕を抱きしめて、横に回す。

「何でわかんねぇかな…」

 先生はボソリと言う。

「お前は、何回も何回も超えてはいけない線を超えた。だったら俺だって、超えていいだろう」

「先生!」

 先生は僕の腕をギチッと音が鳴るまで力強く握る。僕はとても痛いはずなのに、痛みが伝わってこない。

「本人が戻りたくないって言ってんのに、お前は烏坂の優しさに漬け込んで何とかして手に入れようとする」

「それの、、何が悪いんだよ。欲しい物を手に入れたいのなんて誰もが思うだろ!」

 その人はもう立っていられず、ペタリと床に無様に座ったまま威嚇のように声を上げる。

「ああ、そうだ。欲しいものは手に入れたい。俺だってそうだ」

 先生はその人の目をスッと見据える。

「だからこそ、烏坂はお前たちの方に行きたくない」

「は?」

「烏坂は未来が欲しい。自分の望んだ未来が。そのために今頑張ってる。それをお前が、奪おうとしてるんだ」

 先生は静かに言う。

「お前は俺に邪魔をされて相当イラついていると思うが、烏坂だってお前邪魔されて嫌な気分だ。受験の大切な時なのに」

 先生が僕の頭を優しく撫でる。僕は泣きながら先生にしがみつく。

「この話は終わりだ。烏坂は大学に行く。それが事実だ。分かったらもう2度とこっちに顔を見せるな、近寄るな。たまたま会ったとしても、今度顔を見せたら確実に殺す」

 低い声でそう宣言した先生は、僕のことをずっと強い力で抱きしめて、僕も先生にしがみついていた。
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