灰色に夕焼けを

柊 来飛

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2人を引き裂く手

愛する人

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 奴との話し合いを終え、玄関まで来た時俺は烏坂に言う。

「烏坂、コイツを送ってくるから少し待っててくれ。まだ話足りないこともあるしな」

「えっ、」

 烏坂は寂しそうな、心配そうな顔をする。俺は烏坂の頬を撫でる。

「別に、コイツを殺すわけじゃない。少しの他愛話だ。すぐ戻ってくる」

「…………、す、すぐですよ、」

 烏坂は俺の手を両手で握って視線を送る。その瞳には今俺しかいない。

「ああ、すぐだ」

 俺は烏坂を一つ撫でてからアイツと一緒に外に出た。

 駐車場まで来た時、アイツが口を開く。

「なぁ、話ってなんだよ。もう俺は話すことないぞ、」

 少し怖がっているように口を開く。そりゃそうだ。さっき殺害予告をしたのだから。

「ただ、お灸をそえに来ただけだ」

「…‥そうかよ。……一つだけ、聞いていいか」

「何だ?」

「烏坂は、お前にとって何なんだ。ただの同居人か?妹か?それとも…」

「ただの同居人だ」

 俺は静かに言う。

「ほんとか?あの態度が?」

「本当だ。ただの同居人。俺がただ勝手に好きなだけだ」

「へぇ…はっ!?おまっ、はっ!?!?」

 相手は素っ頓狂な声を出す。状況をうまく飲み込めていないらしい。

「何だ、気づいてなかったのか」

「いや、何となくそんな関係なのかなとは思ったさ!でも、本当にそんな関係だとは思わないだろ!」

「違う。俺が勝手に好いているだけだ。じゃないとこんなことしない」

「ああだろうな!あんなに冷たいお前がこんなに熱くなって!おまけに俺に殺害予告なんてな!」

 相手はもう開き直っている。

「惚れた女を取られそうになってんだ、こっちだってとことん手は尽くす。今度会って烏坂が怖がるようなことしてみろ、マジで殺してやるからな」

「もう会いたくねぇよ、こっちから願い下げだ…」

 相手はもう散々だと言わんばかりに頭をグシャグシャと掻き回す。その瞳には疲労が浮かんでいる。

「その…もう一ついいか?」

「手短に。烏坂が待ってる」

「お前、烏坂と付き合うのか?」

「さあな。烏坂が幸せならそれでいい。だが、逃すつもりはない」

「あっそ。アイツもお前に懐いてるし良いんじゃねぇの。高校卒業したらさっさと籍入れた方がいいと思うね。アイツ、顔と身体は良いからな。実は施設でも夜職に就かせようとかそんな話も出てた」

「ぶっ殺すぞ」

「俺に言うな!」

 ギャアギャアと言い合ってると相手が声を出す。

「あ、」

「ん?」

「後ろ。惚れた女がいるぜ」

 ぱっと振り向くと、烏坂がこちらに走ってくる。

「せんせっ、」

「烏坂」

「ごめんなさい、おっ、遅いから…」

 確かに少し話しすぎたかもしれない。俺は見せつけるようにして烏坂を横に抱く。もう話しているから何も問題は無い。
 烏坂も俺に手を回し、相手を少し睨んでいる。

「ってなわけで、お帰り願おうか」

 俺と烏坂の空間には邪魔だと言う視線を送ると、それを感じ取ったのだろう。肩を竦まる。

「言われなくても帰るさ。お幸せに」

 ハラハラと手を振って車に乗り込む。その車が見えなくなった後、烏坂は口を開く。

「先生、何か酷いことされてない?」

 烏坂は背伸びをして俺の両頬に手を当てて心配する。それが嬉しくて自然と笑顔になる。

「されてないさ。ただ少し念を押してただけだ」

 あくまで事実だ。事実の切り抜き。

「良かった…」

 烏坂は安心して胸を撫で下ろす。そこにはゴールドのネックレスが揺れている。

「なぁ烏坂」

「はい?」

「御代一とレイは大学生で結婚したんだ」

「あっ、そういえば高校卒業してすぐ結婚したって言ってましたね。それがどうかしたんですか?」

「いや?お前はどう思う?大学生で結婚は」

「んー、お金の問題もありますし、大学の授業もあるから、そこを疎かにしなければ大丈夫では無いでしょうか?」

 お金なら心配ないな。そんな考えをする。まだ結婚どころか思いも伝えてないのに。

「急にどうしたんですか?」

「大学の研究で学生婚についての調査があってな」

「そうなんですね!」

 適当な嘘をつく。烏坂もすぐ信じてくれたようだ。
 俺は烏坂を抱き上げる。

「わっ、」

「なぁ今日の夕飯の買い出し、俺も行って良いか?」

「えっ!?か、構いませんけど…」

「嬉しい」

 俺はそのまま玄関に向かい、中で降ろす。烏坂は少し迷ってから口を開く。

「せ、先生は好きな人、まだいないんですか?」

「いない」

「そ、そっか…」

 本当はいる。が、余計なことを言って受験を控える烏坂を翻弄したくない。

「そう言うお前はどうなんだ?」

「えっ!?」

「好きな人」

「あぅ、えっと、」

 オロオロとするその反応で恋をしていると分かってしまう。
 俺は烏坂の気持ちを知っているから良いが、もしも知らなかったらとてつもなくイライラしていただろう。

「い、います。でっでも、受験にはちゃんと集中しますよ!」

「そうか。じゃあ受験が終わったらまた聞かせてくれ」

 俺が烏坂の頭を撫でると、烏坂は柔らかくはにかむ。


  こんなに人に惚れたのは初めてだ。
  俺の好きな人。大好きで、愛しい人。
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