復讐を誓った亡国の王女は史上初の女帝になる

霜月纏

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陰謀篇

第12話 淑女教育──座学試験

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 武術訓練の後は休憩と昼食を挟んで座学の授業。語学、算術、地学、自然学、政治経済学。どれも国を治めるには必須の知識だ。特に語学、算術、政治経済学は可能な限り早く習得しなければならない。私は気合を入れて授業に挑む。


「王女殿下、ルーシーさん。まずは簡単な試験を受けて頂き、今の理解度を判断させて頂きます」


 ウィンザー侯爵夫人にティルノーグ語が所狭しと書き連ねられた木簡を渡される。


「これを音読して下さい。最優先事項はティルノーグ語の習得です。どの座学を学ぶにしても、ティルノーグ語が読めなければ始まりません」


 そうライザー侯爵夫人が言う。確かにその通りだ。文字が読めなければ勉強など出来るはずがない。人間の脳は一度聞いただけで全てを覚えられるほど有能で賢くはない。文字で記録を残し、繰り返し読み込むことで初めて脳に情報が残るのだ。

 私は書かれた文字を読み上げる。少女式を終えれば授業が始まるのは慣例で、殆どの王族が授業が始まる前に自分で文字の勉強をする。もちろん私も勉強していた。記憶を取り戻す前は覚えきれていないところもあったが、記憶を取り戻した後は意識が成長したからか文字も完全に覚えられた。

 一方でルーシーには少し難しかったようだ。所々で詰まっている。精神的に歳上な私の方が習得は早そうだ。しかし四歳にしてはスラスラと読めている。私が文字の勉強をする時に一緒に勉強をしていたからだろう。


「王女殿下は完璧ですね。ルーシーさんも概ね良いでしょう。では次は書き取りです」


 そう言って何も書かれていない木簡とインクと筆を渡された。私とルーシーはライザー侯爵夫人が言った言葉を書きとる。最初はゆっくりと話し始め、徐々に速くなっていく。一刻十五分ほど経った頃、ウィンザー侯爵夫人とライザー侯爵夫人は顔を見合わせて頷いた。


「お二人とも、ティルノーグ語の習得に関しては問題ないようですね。次は算術の試験にしましょう」


 簡単な計算程度なら問題ないだろう。この世界の文明進度を考えると数学に関しては前世の中世ヨーロッパ程度だろうから難しくはないはずだ。魔法があって他の学問の研究が遅れ気味なので、更に前の時代かも知れない。

 算術に関しては事前に勉強をしていないので今のルーシーに試験はまだ難しいかもしれない。まぁ、ルーシーは地頭が良いので前世の教え方があえば劇的に成長するだろう。そもそも加減乗除の計算は基本的なことを理解さえ出来れば難しくはない。

 これも解き始めてから一刻十五分ほど経った頃に声がかかった。


「それまで。解答を見せて下さい」


 私の解答はウィンザー侯爵夫人、ルーシーの解答はライザー侯爵夫人が確認する。ルーシーもかなり頑張ったようで少し練習すれば完璧になると言われた。私は前世の記憶があるので少しズルをした気分だ。


「なるほど。お二人ともティルノーグ語は完璧、算術も基礎的な部分は問題ないようですね。明日からは授業の最初に簡単な算術の問題を解いて貰います。毎日解けば数字に慣れて解く速さも上がりますよ」


 ウィンザー侯爵夫人が私とルーシーの解答を見ながら言う。その姿はまさに教師だ。


「ブリテギス語、地学、自然学、政治経済学に関しては独学では抜け落ちている知識があるかもしれないので基礎から教えます」


良かった。記憶を取り戻したのが昨日のことで、事前に勉強していたのは文字だけだったから、急いで勉強しなければならないのかと思った。

 そう安心したのも束の間。ライザー侯爵夫人が大量の木簡を用意する。乾燥していて軽いはずの木簡が鈍い音をさせて机に置かれた。


「こちらは今日から三日分の授業で使う資料です。授業前に読み込んで下さい。もちろん授業中に見ても構いませんが、該当の資料を探し出す時間はないので先に目を通しておくことをお勧めします。授業後は重要事項をまとめ直して提出して下さい」


 お母様の机に積まれる公務の資料より多い教材に驚愕する。内容的にはお母様の公務よりは数十倍易しい内容だとはわかっているが、それでも目の前の山のような教材が三日分だと言われると驚愕せざるを得ない。


「当初の目的も達成しましたし、事前に教材を読み込むのは初めてだと時間がかかりますから、今日の授業はここまでとします」


 そう言って二人はカーテシーをして部屋を出ていった。部屋には私とルーシーが二人きりになった。私とルーシーは目の前に積み上げられた木簡を見て、大きく溜息を吐いた。


「全部に目を通すのは大変そうだね」

「せめて明日の範囲を教えてくれれば良かったのに」

「頑張って……」

「他人事じゃないでしょ。一緒に授業受けるんだから」


 私は一番上に積み上げられた木簡を手に取り、読み始めた。


これは暫くのんびり出来そうにないなぁ……




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