復讐を誓った亡国の王女は史上初の女帝になる

霜月纏

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陰謀篇

第15話 お茶会──波乱の予感

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「随分並んでるわね」

「他のご令嬢もこの辺りで降りているようですが、お嬢様もここでお降りになられますか?」


 ルーシーは意外とノリノリみたいだ。何も言わなくてもお嬢様と呼んだ。


「そうするわ。あぁ、そうだ。降りる前に伝えておくわね。お茶会の間はルーシーのことはロジーと呼ぶことにするわ」

「畏まりました」


 私はルーシーにリードされ、不慣れな様子で馬車を降りた。幼い間から馬車に乗り慣れているのは裕福な下位貴族か上位貴族くらいなものだ。とは言え私は少女式と言う正式なお披露目をしていないので外出も少なく、馬車には乗り慣れていない。


「参りましょう。早く登城しなければ他の令嬢に埋もれてしまいますわ」

「お嬢様の美しさがあれば、他の令嬢にも埋もれません」

「ありがとう。でも他の令嬢方は素晴らしいドレスで身を包み、この世の物とは思えない宝石で着飾っているもの。早く行かなければ私なんて印象に残りませんわ」


 そう言って城門の前に連なる長い列に並ぶ。どの令嬢も自分の順番が来る前に侍女が招待状を用意しているので列の消化は比較的速い。


「そろそろ順番ですわね。王子殿下はどのような方なのかしら?」

「お嬢様にも機会はありますよ! 今回招待されたのが、その証拠です。それにお嬢様は他の令嬢方にも引けを取らないほどお美しいです」

「ありがとう。ロジー」


 周りに聞こえるように声を少し大きくして言った。ここまで明確な罠に引っかかる馬鹿は居ないと思いたい。暫くしても誰も声を掛けてこない。そこまでの馬鹿は居ないようで良かった。そう思ったが、自分の順番まであと少しと言うところで一人の令嬢が割り込んできた。


「何をなさっているの? 順番は守るべきではなくて?」

「…………」


 声を掛けても返事がない。


「無視ですの? 随分とマナーのなっていない令嬢が居たものね。家庭教師は何をしているのかしら?」


 そう言うと顔をムッとさせた令嬢がバッと振り返って言う。


「貴女、会話のマナーをご存知ないの? 下の者が上の者に話しかけるなどマナー違反にも程がありますわ。賤民ですら知っている常識ですわよ」

「それは失礼致しました。突然声も掛けずに割り込んできたものだから、家庭教師を雇う金もない騎士爵令嬢の私生児かと思いましたの。お名前を伺っても?」


 上の者と言われても挑発するように言うと、令嬢はわなわなと顔を真っ赤にし手を震わせながら言った。


「私はレリアナ・ディ・ビレーネ。ビレーネ子爵家の一人娘です」

「し、子爵…………それは失礼致しました」


 怯えた様子を見せると、ビレーネ伯爵令嬢の口は歪な弧を描く。


「貴女の名前は?」

「ノ……ノルン・ディ・フレアーニでございます」

「フレアーニ? 爵位は?」

「男爵でございます」

「フレアーニ男爵家…………聞いたことがないわね」

「田舎の貧乏貴族ですので…………」

「その貧乏男爵令嬢の前に子爵令嬢の私が割り込んだと?」

「い、いえ。私の思い違いでございました。ビレーネ様にご迷惑をお掛けたこと、深くお詫び申し上げます。申し訳ありませんでした」


 私は身体をプルプルと震わせ、手の震えを止まるように握りしめた。もちろん演技だ。


「それでいいのよ。そう言えば、王子殿下がどのような方か気にしていたわね」

「そ、それはっ!」


まさか罠に引っかかった上に小賢しい芝居を打ってるの?


 あまりに頭の悪い行動に溜息が出そうになる。


「貴女のような醜女が王子殿下の目に留まるわけがないでしょう? その粗末なドレスで王子殿下のお目汚しにならないように気をつけることですね」


 そう言って去っていくビレーネ子爵令嬢。


レリアナ・ディ・ビレーネ。今日は虫の居所が悪かっただけなのかも知れないけど、王妃候補は脱落ね。


 そう評価しつつ、周りの様子を観察する。早速話の種する者。遠巻きに見て嘲笑っている者。同情的な視線を向ける者。千差万別ではあるが手を差し伸べるものは誰一人居ない。


今回は駄目そうだな。もう部屋に戻りたい…………


「大丈夫ですか?」


 そんなことを思っていると突然背後から声がかかった。


「え?」

「これ、よろしかったらお使い下さい」


 そう言って私に声をかけた少女はハンカチを差し出す。


「ありがとう」

「いいえ、当たり前のことをしたまでです」

「お優しいのですね」

「そんなことありませんよ。あっ! 貴女の順番ですよ」

「あら、本当ですわ。あの、名前を伺っても?」

「エリス・ディ・ルベインです。急がないと列が進みませんし、早く行って下さい」

「ありがとう。この御恩は必ずお返し致しますわ」


 ルーシーは王家の紋章が入った招待状を門兵に差し出す。門兵は名前を見た途端に顔色を真っ青にして震える手でそれを受け取った。話が通っていて私とルーシーの正体に気づいたのだろう。


「確認しました」


 私とルーシーは波乱の予感が渦巻く戦場に足を踏み入れた。




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