復讐を誓った亡国の王女は史上初の女帝になる

霜月纏

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陰謀篇

第28話 派遣調査──男爵の罪

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「ハァ…………今日は一段と疲れたなぁ……」


 私は溜息を吐きながら宿の硬いベッドに腰掛けた。


「先に身体拭く?」

「うーん……先に手に入れた情報を纏め直しておこうかな。お母様に送る報告書を書くときに必要になるだろうし」


 私は裏帳簿に目を通していく。裏帳簿には男爵の様々な違法売買取引について記されていた。


「……ハァ~…………ここまで罪状が多いと怒りを通り越して感心すら覚えるわね」


 そう言いながらメモ帳代わりの布に裏帳簿の内容から推察される男爵の罪状を書き連ねる。男爵の罪状は軽犯罪、重犯罪を合計して主に八つ。軽犯罪は公文書偽造、職務放棄、国税の横領。重犯罪は誘拐、人身売買、大麻の密造、大麻の密売、国家転覆罪だ。


「えっ! そんなに?! っていうか国家転覆罪?!」


 私の後ろから書いている内容を覗き見ていたルーシーは、驚いた様子でそう言った。


「状況を整理して順を追って説明してあげるわ」


 そもそも、今回私が男爵領に調査に来ることになった理由が男爵の提出した税収報告書が偽造、あるいは改竄されている疑いがあったからだ。

 男爵の報告書には干魃による不作で税金の回収がままならず、税収が減少していると書かれていた。事実、近年の王国は降雨量が減少傾向にあり、男爵領に限らず多くの領から干魃による税収の減少が報告されていた。本来なら周囲との情報が合致しているので特に問題のない報告書だ。

 では何故、税収報告の虚偽が露見したのか。それはお母様が時々行う秘密裏の調査によるものだった。

 お母様は干魃に対する対策案を出すために、王家お抱えの隠密部隊に干魃の様子について詳細に調べるように命じた。その干魃の調査の際に男爵が虚偽の報告書を提出していたのではないかと言う疑惑が浮上したのだ。証拠として税収報告書の内容から推察される男爵の暮らし振りと実際の男爵の暮らし振りにあまりに大きな差異があることが挙げられた。

 お母様は事実を確認するために調査員を派遣したが、その多くが問題なしと報告を上げ、問題ありと報告する兆しがあった調査員たちはことごとく王都へ帰還する前に病死した。その件以降、何度も調査員を送るも問題ありという報告は上がらなかった。結果、男爵の疑惑は今の今まで放置されていたのだ。

 その問題を解決するべく派遣された私が調査した結果、男爵が王家が定めた税よりも多くの税を強引に集めていることが判明した。これは男爵領の北側にあった貧民街を見れば一目瞭然だ。しかし税収報告書には税収の減少が報告されていた。その状況から推察すると、男爵は実際に手に入れた税収と報告書に記載された税収の差額を自分の懐に入れているのだろう。


「この時点での男爵の罪状を纏めると、職務放棄と公文書偽造、国税横領になる」

「ん? 今聞いた話に職務放棄なんてあった?」

「領主は例えどれだけ厳しい干魃、水害に見舞われようと王家から賜った領地を自身が持てる全てを駆使して護り、治めなければならないの。それは領地を下賜する際の誓約にも明言されているわ。全力を尽くした結果があの惨状なら自ら領地返上を申し出なければならないし、全力を尽くしていないのなら職務怠慢よ。男爵の場合は自分であの状況に追い込んだから職務放棄ね」

「なるほど……」

「話を続けるわね」


 更に今回の調査で男爵領北部に大量の大麻が育成されていたことが判明した。大麻は中毒による依存性の高さ、多量摂取による死亡率の高さの観点から、許可された者以外は栽培を禁止している。にも関わらず男爵は大量の大麻を栽培していた。今日の状況を踏まえて考えると男爵領の北側では桁違いの量の大麻が栽培されていると考えられる。街の人からの証言で男爵が大麻を生草のまま高値で買っていることもわかっている上に裏帳簿には街の人間や他の貴族らしき人たちとの乾燥大麻の違法取引の詳細が記されている。


「これで大麻の密造、密売の罪が確定」


 誘拐については裏帳簿に子供の奴隷の売買についても書かれているので商品にするために自領の子供を誘拐しているであろうことが予想されている。


「これで誘拐罪と人身売買の罪が確定。武器の密輸の詳細についても裏帳簿を見ればわかるわ」


 武器の売買自体は領地の自衛のために容認している。王都に武器の量の詳細を申告すれば問題ない。あまりに多ければ王家が強制的に買い取ることになっていて余分な戦力は持てないようにしている。


「この量は申告忘れの量じゃないわねよ……」

「…………うん」


 裏帳簿から読み取れる男爵が購入した武器の量は軍備の四分の一に匹敵する。これは即報告しなければならないほどの重大案件だ。この量だと上位貴族が絡んでいる可能性も高い。急がなければ上位貴族には逃げられるかもしれない。


「予定を繰り上げよう。お母様に帰還命令を出すように要請するわ」


 私がそう言うとルーシーは窓を開けて口笛を吹く。暫くして白い鳥が飛んで来た。私は鳥の脚に帰還命令を出してほしいと書いた布を結んで飛ばした。


「もどかしいね」

「そうね」


 この領は北側が大きい。必然的に北側の住民が多くなる。大麻に囚われている子供も多いことだろう。何もわからない子供が男爵に搾取されている状況は非常に胸糞悪い。


「それにしても、よく今まで周囲の領主たちに気づかれなかったわね」

「本当だよ。ここまで色々揃っているのに……」




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