29 / 73
陰謀篇
第28話 派遣調査──男爵の罪
しおりを挟む
「ハァ…………今日は一段と疲れたなぁ……」
私は溜息を吐きながら宿の硬いベッドに腰掛けた。
「先に身体拭く?」
「うーん……先に手に入れた情報を纏め直しておこうかな。お母様に送る報告書を書くときに必要になるだろうし」
私は裏帳簿に目を通していく。裏帳簿には男爵の様々な違法売買取引について記されていた。
「……ハァ~…………ここまで罪状が多いと怒りを通り越して感心すら覚えるわね」
そう言いながらメモ帳代わりの布に裏帳簿の内容から推察される男爵の罪状を書き連ねる。男爵の罪状は軽犯罪、重犯罪を合計して主に八つ。軽犯罪は公文書偽造、職務放棄、国税の横領。重犯罪は誘拐、人身売買、大麻の密造、大麻の密売、国家転覆罪だ。
「えっ! そんなに?! っていうか国家転覆罪?!」
私の後ろから書いている内容を覗き見ていたルーシーは、驚いた様子でそう言った。
「状況を整理して順を追って説明してあげるわ」
そもそも、今回私が男爵領に調査に来ることになった理由が男爵の提出した税収報告書が偽造、あるいは改竄されている疑いがあったからだ。
男爵の報告書には干魃による不作で税金の回収がままならず、税収が減少していると書かれていた。事実、近年の王国は降雨量が減少傾向にあり、男爵領に限らず多くの領から干魃による税収の減少が報告されていた。本来なら周囲との情報が合致しているので特に問題のない報告書だ。
では何故、税収報告の虚偽が露見したのか。それはお母様が時々行う秘密裏の調査によるものだった。
お母様は干魃に対する対策案を出すために、王家お抱えの隠密部隊に干魃の様子について詳細に調べるように命じた。その干魃の調査の際に男爵が虚偽の報告書を提出していたのではないかと言う疑惑が浮上したのだ。証拠として税収報告書の内容から推察される男爵の暮らし振りと実際の男爵の暮らし振りにあまりに大きな差異があることが挙げられた。
お母様は事実を確認するために調査員を派遣したが、その多くが問題なしと報告を上げ、問題ありと報告する兆しがあった調査員たちは尽く王都へ帰還する前に病死した。その件以降、何度も調査員を送るも問題ありという報告は上がらなかった。結果、男爵の疑惑は今の今まで放置されていたのだ。
その問題を解決するべく派遣された私が調査した結果、男爵が王家が定めた税よりも多くの税を強引に集めていることが判明した。これは男爵領の北側にあった貧民街を見れば一目瞭然だ。しかし税収報告書には税収の減少が報告されていた。その状況から推察すると、男爵は実際に手に入れた税収と報告書に記載された税収の差額を自分の懐に入れているのだろう。
「この時点での男爵の罪状を纏めると、職務放棄と公文書偽造、国税横領になる」
「ん? 今聞いた話に職務放棄なんてあった?」
「領主は例えどれだけ厳しい干魃、水害に見舞われようと王家から賜った領地を自身が持てる全てを駆使して護り、治めなければならないの。それは領地を下賜する際の誓約にも明言されているわ。全力を尽くした結果があの惨状なら自ら領地返上を申し出なければならないし、全力を尽くしていないのなら職務怠慢よ。男爵の場合は自分であの状況に追い込んだから職務放棄ね」
「なるほど……」
「話を続けるわね」
更に今回の調査で男爵領北部に大量の大麻が育成されていたことが判明した。大麻は中毒による依存性の高さ、多量摂取による死亡率の高さの観点から、許可された者以外は栽培を禁止している。にも関わらず男爵は大量の大麻を栽培していた。今日の状況を踏まえて考えると男爵領の北側では桁違いの量の大麻が栽培されていると考えられる。街の人からの証言で男爵が大麻を生草のまま高値で買っていることもわかっている上に裏帳簿には街の人間や他の貴族らしき人たちとの乾燥大麻の違法取引の詳細が記されている。
「これで大麻の密造、密売の罪が確定」
誘拐については裏帳簿に子供の奴隷の売買についても書かれているので商品にするために自領の子供を誘拐しているであろうことが予想されている。
「これで誘拐罪と人身売買の罪が確定。武器の密輸の詳細についても裏帳簿を見ればわかるわ」
武器の売買自体は領地の自衛のために容認している。王都に武器の量の詳細を申告すれば問題ない。あまりに多ければ王家が強制的に買い取ることになっていて余分な戦力は持てないようにしている。
「この量は申告忘れの量じゃないわねよ……」
「…………うん」
裏帳簿から読み取れる男爵が購入した武器の量は軍備の四分の一に匹敵する。これは即報告しなければならないほどの重大案件だ。この量だと上位貴族が絡んでいる可能性も高い。急がなければ上位貴族には逃げられるかもしれない。
「予定を繰り上げよう。お母様に帰還命令を出すように要請するわ」
私がそう言うとルーシーは窓を開けて口笛を吹く。暫くして白い鳥が飛んで来た。私は鳥の脚に帰還命令を出してほしいと書いた布を結んで飛ばした。
「もどかしいね」
「そうね」
この領は北側が大きい。必然的に北側の住民が多くなる。大麻に囚われている子供も多いことだろう。何もわからない子供が男爵に搾取されている状況は非常に胸糞悪い。
「それにしても、よく今まで周囲の領主たちに気づかれなかったわね」
「本当だよ。ここまで色々揃っているのに……」
私は溜息を吐きながら宿の硬いベッドに腰掛けた。
「先に身体拭く?」
「うーん……先に手に入れた情報を纏め直しておこうかな。お母様に送る報告書を書くときに必要になるだろうし」
私は裏帳簿に目を通していく。裏帳簿には男爵の様々な違法売買取引について記されていた。
「……ハァ~…………ここまで罪状が多いと怒りを通り越して感心すら覚えるわね」
そう言いながらメモ帳代わりの布に裏帳簿の内容から推察される男爵の罪状を書き連ねる。男爵の罪状は軽犯罪、重犯罪を合計して主に八つ。軽犯罪は公文書偽造、職務放棄、国税の横領。重犯罪は誘拐、人身売買、大麻の密造、大麻の密売、国家転覆罪だ。
「えっ! そんなに?! っていうか国家転覆罪?!」
私の後ろから書いている内容を覗き見ていたルーシーは、驚いた様子でそう言った。
「状況を整理して順を追って説明してあげるわ」
そもそも、今回私が男爵領に調査に来ることになった理由が男爵の提出した税収報告書が偽造、あるいは改竄されている疑いがあったからだ。
男爵の報告書には干魃による不作で税金の回収がままならず、税収が減少していると書かれていた。事実、近年の王国は降雨量が減少傾向にあり、男爵領に限らず多くの領から干魃による税収の減少が報告されていた。本来なら周囲との情報が合致しているので特に問題のない報告書だ。
では何故、税収報告の虚偽が露見したのか。それはお母様が時々行う秘密裏の調査によるものだった。
お母様は干魃に対する対策案を出すために、王家お抱えの隠密部隊に干魃の様子について詳細に調べるように命じた。その干魃の調査の際に男爵が虚偽の報告書を提出していたのではないかと言う疑惑が浮上したのだ。証拠として税収報告書の内容から推察される男爵の暮らし振りと実際の男爵の暮らし振りにあまりに大きな差異があることが挙げられた。
お母様は事実を確認するために調査員を派遣したが、その多くが問題なしと報告を上げ、問題ありと報告する兆しがあった調査員たちは尽く王都へ帰還する前に病死した。その件以降、何度も調査員を送るも問題ありという報告は上がらなかった。結果、男爵の疑惑は今の今まで放置されていたのだ。
その問題を解決するべく派遣された私が調査した結果、男爵が王家が定めた税よりも多くの税を強引に集めていることが判明した。これは男爵領の北側にあった貧民街を見れば一目瞭然だ。しかし税収報告書には税収の減少が報告されていた。その状況から推察すると、男爵は実際に手に入れた税収と報告書に記載された税収の差額を自分の懐に入れているのだろう。
「この時点での男爵の罪状を纏めると、職務放棄と公文書偽造、国税横領になる」
「ん? 今聞いた話に職務放棄なんてあった?」
「領主は例えどれだけ厳しい干魃、水害に見舞われようと王家から賜った領地を自身が持てる全てを駆使して護り、治めなければならないの。それは領地を下賜する際の誓約にも明言されているわ。全力を尽くした結果があの惨状なら自ら領地返上を申し出なければならないし、全力を尽くしていないのなら職務怠慢よ。男爵の場合は自分であの状況に追い込んだから職務放棄ね」
「なるほど……」
「話を続けるわね」
更に今回の調査で男爵領北部に大量の大麻が育成されていたことが判明した。大麻は中毒による依存性の高さ、多量摂取による死亡率の高さの観点から、許可された者以外は栽培を禁止している。にも関わらず男爵は大量の大麻を栽培していた。今日の状況を踏まえて考えると男爵領の北側では桁違いの量の大麻が栽培されていると考えられる。街の人からの証言で男爵が大麻を生草のまま高値で買っていることもわかっている上に裏帳簿には街の人間や他の貴族らしき人たちとの乾燥大麻の違法取引の詳細が記されている。
「これで大麻の密造、密売の罪が確定」
誘拐については裏帳簿に子供の奴隷の売買についても書かれているので商品にするために自領の子供を誘拐しているであろうことが予想されている。
「これで誘拐罪と人身売買の罪が確定。武器の密輸の詳細についても裏帳簿を見ればわかるわ」
武器の売買自体は領地の自衛のために容認している。王都に武器の量の詳細を申告すれば問題ない。あまりに多ければ王家が強制的に買い取ることになっていて余分な戦力は持てないようにしている。
「この量は申告忘れの量じゃないわねよ……」
「…………うん」
裏帳簿から読み取れる男爵が購入した武器の量は軍備の四分の一に匹敵する。これは即報告しなければならないほどの重大案件だ。この量だと上位貴族が絡んでいる可能性も高い。急がなければ上位貴族には逃げられるかもしれない。
「予定を繰り上げよう。お母様に帰還命令を出すように要請するわ」
私がそう言うとルーシーは窓を開けて口笛を吹く。暫くして白い鳥が飛んで来た。私は鳥の脚に帰還命令を出してほしいと書いた布を結んで飛ばした。
「もどかしいね」
「そうね」
この領は北側が大きい。必然的に北側の住民が多くなる。大麻に囚われている子供も多いことだろう。何もわからない子供が男爵に搾取されている状況は非常に胸糞悪い。
「それにしても、よく今まで周囲の領主たちに気づかれなかったわね」
「本当だよ。ここまで色々揃っているのに……」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる