料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

文字の大きさ
18 / 150
1章 名もなき村

18 森へ

しおりを挟む
 無事に手作りバーガーセットが完成したことだし三人で連れ立って村長のもとへと向かう。
 作ったハンバーガーはどうしようかと思ったが、食堂内に保管しておいて食べるときに食堂を展開させればいいやと結論付ける。
 森の中と入っても屋台程度の大きさのレベル1なら展開するくらいは大丈夫だろう。
 
 これまでの生活の中でいろいろと食堂作成についても検証しているが、食堂内で新しく保管しているものはどのレベルでも取り出せるということが分かっている。
 レベル1の屋台には料理人が立つ方の下側に扉がついていて、この中に保管棚に保管した食品や料理、それに屋台には常備していない調理道具なんかが入っている。
 中をのぞいてみても黒い空間があるだけなので、中を見てもなにが入っているかわからないが手を差し入れてみると頭の中に保管しているものが浮かんできて、その中で取り出したいものを想像するとそれが出てくる。

 レイジやミーナが最初会った時に火を使う俺を見て魔法使いとか言っていたが、どう考えても明らかに容量を超えた食材を取り出す姿のほうが魔法使いみたいだろう。

 まあ、食堂を作成するのなら普通に料理を作っても構わなかったかと思ったが、ハンバーガーも作ってみたかったから結果オーライってことにしておこう。

 村長の畑につくとすでに働いている人が何人もいて心の中で朝も早いうちからご苦労様と思わずにはいられない。

「なんじゃあ、あんちゃん。今日も朝から来たんか」

「実はこれから森に入って新しい食材を見つけようと思いましてね、一応許可をもらいに来たんですよ」

「別に森に入るくらいならわしの許可なんぞ要らんが、坊主たちもつれていくんか?」

「レイジも強くなってきてますからね。俺とミーナの二人くらい守れますよ。それに、そんなに奥深くに行くわけじゃないですよ。初日ですし浅いところで何があるか確認したいんですよ」

 これは本当のところ、神様の加護がきちんと発動するのか、発動したところで襲ってきた獣が撃退できるレベルなのか、何もかもが未知数なのに奥まで入って襲われて戻ってこれませんじゃ話にならない。
 しかも、この世界に来てから俺は村の中しか移動していない。
 自分がどれくらい歩けるのか、体力的なものはもちろんのこと、たとえば足が痛くなったり腰が動かなくなったりした場合もミーナはもちろんレイジだって俺を担いで村に帰るなんて不可能なんだから無理はしない。
この辺はこの村から旅だった場合にも適用されるだろう。

 まあ、旅に出たら最悪動けなくなったら食堂に引きこもればいいが、村の住人に認知されている現状では動けなくなったから食堂に引きこもってました、で、村人に捜索されても気まずいしな。

「そうだ、坊主たち。このあんちゃんはゆくゆくはこの村からいなくなるが本当に坊主たちは畑を与えなくていいんか?」

「いいんだ村長。マサト兄ちゃんが旅に出るときには僕たちも一緒についていくって決めたから」

「村長さんもミーナたちの扱いに困ってたんでしょ? 同年代の子ともあんまり仲良くなれてないし、マサトさんについていろいろなところを見て回りたいってそう、お兄ちゃんと決めたんだ」

 そう二人に言われた村長は気まずいやら子供が余計な気を回すなと思っているやらで言葉が出ない様子だ。

「あんちゃん、あんちゃんはそれでいいんか? 旅ってのは大人でも大変なもんじゃってことは税の徴収に来る騎士様や魔法使い様でわかっちょる。それを子供二人を連れてっちゅうのは並大抵のことじゃないぞ」

「わかっていますよ。ですが、俺も戦闘能力としてはそんなに高いわけでもないから剣の修業をしているレイジについてきてもらえるのは頼もしいですし、ミーナも俺の傍で手伝うことで時には俺以上に料理のセンスが光ることもあるのでいろいろ助かるんですよ」

「わかったわかった。三人の中で合意があるんじゃったらわしが文句を言いすぎるのもおかしな話じゃ。じゃが、これまで雇って貴重な食糧を分けてきた恩もあるんじゃから旅に出る前に少しでもこの村のために働くようにな」

「わかってるよ、村長。そのためにも森に食料を探しに行くんだから」

「ミーナもマサトさんが旅に出る前にこの村の人たちに少しでも食事がおいしくなるように料理を教えるから」

「わかっちょるならええ。とりあえず、森に行く前に餌撒きだけは忘れんようにな。どうせ森へ行く途中じゃからちゃんとやってからいけ」

 村長は恥ずかしいのか若干早口で仕事の支持をする。
 そりゃあ、二人の両親が亡くなってからは実質、村長がこの二人の保護者だったんだろうし、村長という役職の手前、特別扱いができなかったとはいえ二人のことは心配してたんだろうな。

 村長の畑を後にして、斑芋の畑へとやってきた。
 旅に出るとしても、この村で当たり前のように手に入っている食料が手に入らなくなるのは困る。
 ある程度は食堂の保管庫や冷蔵庫、冷凍庫に入れてあるが在庫は無限ではないし、手当たり次第に引っこ抜いて持って行ってしまってはこれからこの村の住人が困ってしまうだろう。

 そこで考えているのが植物の栽培だ。
 実はレベル3の食堂には厨房の裏手に勝手口が存在していて、そこから出ると家庭菜園サイズの畑が存在しているのだ。
 もちろん、最初は何も植えられていない状態だったのでただの庭かと思ったのだが斑芋の畑や村長の畑を見ているうちに気づいた。
 これは畑だと。
 今は、試しに斑芋を切り分けていくつか植えてあるがどうも斑芋は芽が出るまでに一月程度、食用に耐える大きさに成長するのに一年から三年ほどかかるらしい。
 この辺をどうにかするのが天職なのだが、今の食堂のメンバーには農家の天職持ちはいないし、村人に食堂内部のことを知られすぎるのも問題だ。

 さあ、いつもの斑芋のバラマキ作業も終わったし、ようやく森の中に侵入するぞ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

処理中です...