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1章 名もなき村
37 旅立ち
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料理のほうは大きな問題もなく進んでいる。
いや、見学している騎士の人たちはミーナが作っている肉野菜炒めに生肉が投入される瞬間に一瞬、ひるんだような声を上げていたが。
まあ、普段自分たちが退治している獣が食料になっているんだから衝撃的なんだろう。
こっちの斑芋の班のほうも、茹でて毒を中心部に集めた斑芋を半分に切った瞬間には驚きの声が上がった。
まあ、半分に切ったら中心部が黄緑色に染まっていたら、そらびっくりもするわ。
斑芋のほうはもとより、村人全員が食べても食べきれないくらいあるうえに、畑も拡張しているので騎士の人に少しづつ配っても問題ない。
肉野菜炒めのほうは肉はともかく、一緒に炒めている緑菜は村の畑で採れたものなので騎士の人の分はないので少し問題になったが、糧食として持ってきていた野菜と引き換えで緑菜を分けることにして何とかなった。
騎士の人の分の緑菜は村長が用意することになって、村長はその代りに紫トマトやリンゴのような形状の果物を受け取っていた。
「斑芋の毒性は強力なんで、少しくらい食べられるところが取れてもいいんで、確実にこの黄緑色の毒の部分を除去するようにして下さい。毒を除去したら、また鍋に入れて茹でていきましょう」
「そのまま食べるのはダメなのかい?」
村の婦人が質問してくる。
「もちろん、そのまま食べても問題はありませんが、芋類は消化が悪いので火を通さずに大量に食べるとおなかを壊すことがあります。ですので、きちんと熱を通して食べるほうが安全でしょうね」
最初に茹でるのは、あくまでも毒を中心部に集めるためなので斑芋にきちんと熱が入ったとは言えないのがみそだ。
「茹で上がりは先のほうをとがらせた木の枝で刺してみて、すんなりと刺さったら大丈夫です」
肉野菜炒めのほうは特に説明することもないのか、ミーナは淡々と説明しながら料理を作っている。
まあ、ミーナのあれはまた、難癖をつけられた怒りからかもしれないが、それ自体は仕方がないから放っておくしかないかな。
「茹でた斑芋はどうやって食べるんだい?」
少し離れたところで見学しているウィリアムさんから質問が飛んでくる。
「湯を捨てた鍋で転がすようにして周りの水分を飛ばすと粉ふきいもができるんですけど、この鍋だと大きすぎるんで、今回はそのまま食べることにしましょう。各々、自分好みに塩を振って食べてみてください」
畑仕事が終わった村人たちも集まってきているからそれなりの人数になっている。
まあ、自分たちの畑で採れたもの以外は食べたくないって村人も一定数いるから村人全員がいるわけじゃあなけど。
しかし、斑芋は毒抜きと調理の二工程が必要だから大量に作るとなると鍋一つだと足りないかもしれないな。
「ウィリアムさん、鍋をもう一つこの村に持ってくることって可能なんでしょうか?」
「鍋かい? そうだねえ、今回のもアイリーンの使っている鍋を新調するってことで申請されているからどうだろうね。でも、マサト君が領都で料理の必要性を説いてくれればいずれはこういったものも各村に配備されるとは思うけどね」
まあ、もともとが調理道具ではなくてポーションを調合するための道具だからな、それを違うことに使われればいい顔もされないか。
「で、どうです、料理の味は?」
「そうだね、食べ物が温かいというのは何か不思議な感じがするが、これはこれでいいね。野菜や果物を齧っているのとは違って、いろんな味がするのも不思議な感じだ」
まあ、この世界で長く生きている人間ほどこういった感想になるのだろうな。
多分、調合師みたいにはじめからバクバク食う方が珍しいんだろう。
今も調合師は他人の二倍くらい食ってるし。
「さて、じゃあ俺は料理のほうに戻りますね。人数が多いから一度では全員分作れないですしね」
とにもかくにも、村人に斑芋の料理に慣れてもらうのが先決だ。
斑芋さえ食料に加えられれば、あとは何とでもなるだろう。
明日の昼と、夕方に斑芋の料理を教えれば、現在、料理を習いに来ている村人には一通り教えることができたことになるから、明後日は森に入っていつもの村人にドラゴンマッシュルームの危険性と森の中に有毒植物がある可能性については伝えられるだろう。
それさえ済めば、俺がこの村でやらなければならないことは一通り済ませたことになる。
あとは、領都に行ってから俺がどう動くべきか。
権力者……この場合は領主様か、領主様に料理の可能性、そして食材を幅広く仕入れてもらうのは当然やるべきことだが、できることなら領都のどこかに食堂を作成して、多くの人に料理を食べてもらうのも面白いかもな。
そして、できることならミーナ以外にも料理に興味を持った人間を見つけてレシピを教え込むっていうのも大事なことだな。
まあ、あとは野となれ山となれ、という感じなのは否めないが未来が見えないというほどでもない。
とにもかくにも、この世界での一生を面白おかしく過ごせるほうに努力してみますかね。
そして、数日が経ち、出発の日になった。
「あんちゃん、それにレイジとミーナも本当に行ってしまうんじゃな」
「ええ、村長にはあらかじめ言っていましたし、ウィリアムさんとも約束しましたからね」
「私の準備が整うまで待ってくれてもいいじゃない」
「いやいや、後任が来ないことにはあんたは動けないだろ」
「だから、後任の新人調合師が来るまで待ってくれればいいのにってことよ」
「アイリーン、あまり無理を言うな。それではいつまでたっても出発できん」
「ふんっ」
「まあ、あんちゃんもレイジもミーナも病気やケガには気を付けてな。食べ物は大丈夫じゃろうが、何かあったらポーションを使うんじゃぞ」
村長からは餞別と言って、ポーション十本に来年に植える予定で採ってあった畑の作物の種を分けてもらっている。
俺がこの村に料理を教えて食べられるものが増えたお礼らしい。
ポーションは村長の自腹らしく、材料から何から領主様からの支援は入っていないので俺はいまだにこの領の領主様には借りがない状態だ。
「村長、わかっていますよ。短い間ですが、お世話になりました。料理を広めるたびでこの村に立ち寄れたことを俺は心から神様に感謝しますよ」
「ああ、わしらもあんちゃんに会えたことを神様に心から感謝するよ」
名残惜しいが、いつまでもここで話し合っているわけにもいかない。
こんな世界ではこれが今生の別れになるのが分かり切っているだけに切り出しにくいが、それでも旅立たなくてはいけないんだ。
「では、行ってまいります。レイジ、ミーナも」
「行ってくるよ、村長」
「行ってきますね、村長さん」
二人もこの旅立ちがこの村との永遠の別れだとわかっているだろう。
それでも、涙一つ流さない二人は本当に強い人間だと思う。
今日、俺はこの世界で初めて訪れたこの名もなき村を離れ領都へと向かう。
これから先の旅路がどうなるかはわからない。
だが、少なくともこの二人と旅をしている限りは苦労や困難が待っていようと立ち向かえる。
そう確信できた。
だから、俺はこの村からの旅立ちを力強い一歩で踏み出せるんだ。
いや、見学している騎士の人たちはミーナが作っている肉野菜炒めに生肉が投入される瞬間に一瞬、ひるんだような声を上げていたが。
まあ、普段自分たちが退治している獣が食料になっているんだから衝撃的なんだろう。
こっちの斑芋の班のほうも、茹でて毒を中心部に集めた斑芋を半分に切った瞬間には驚きの声が上がった。
まあ、半分に切ったら中心部が黄緑色に染まっていたら、そらびっくりもするわ。
斑芋のほうはもとより、村人全員が食べても食べきれないくらいあるうえに、畑も拡張しているので騎士の人に少しづつ配っても問題ない。
肉野菜炒めのほうは肉はともかく、一緒に炒めている緑菜は村の畑で採れたものなので騎士の人の分はないので少し問題になったが、糧食として持ってきていた野菜と引き換えで緑菜を分けることにして何とかなった。
騎士の人の分の緑菜は村長が用意することになって、村長はその代りに紫トマトやリンゴのような形状の果物を受け取っていた。
「斑芋の毒性は強力なんで、少しくらい食べられるところが取れてもいいんで、確実にこの黄緑色の毒の部分を除去するようにして下さい。毒を除去したら、また鍋に入れて茹でていきましょう」
「そのまま食べるのはダメなのかい?」
村の婦人が質問してくる。
「もちろん、そのまま食べても問題はありませんが、芋類は消化が悪いので火を通さずに大量に食べるとおなかを壊すことがあります。ですので、きちんと熱を通して食べるほうが安全でしょうね」
最初に茹でるのは、あくまでも毒を中心部に集めるためなので斑芋にきちんと熱が入ったとは言えないのがみそだ。
「茹で上がりは先のほうをとがらせた木の枝で刺してみて、すんなりと刺さったら大丈夫です」
肉野菜炒めのほうは特に説明することもないのか、ミーナは淡々と説明しながら料理を作っている。
まあ、ミーナのあれはまた、難癖をつけられた怒りからかもしれないが、それ自体は仕方がないから放っておくしかないかな。
「茹でた斑芋はどうやって食べるんだい?」
少し離れたところで見学しているウィリアムさんから質問が飛んでくる。
「湯を捨てた鍋で転がすようにして周りの水分を飛ばすと粉ふきいもができるんですけど、この鍋だと大きすぎるんで、今回はそのまま食べることにしましょう。各々、自分好みに塩を振って食べてみてください」
畑仕事が終わった村人たちも集まってきているからそれなりの人数になっている。
まあ、自分たちの畑で採れたもの以外は食べたくないって村人も一定数いるから村人全員がいるわけじゃあなけど。
しかし、斑芋は毒抜きと調理の二工程が必要だから大量に作るとなると鍋一つだと足りないかもしれないな。
「ウィリアムさん、鍋をもう一つこの村に持ってくることって可能なんでしょうか?」
「鍋かい? そうだねえ、今回のもアイリーンの使っている鍋を新調するってことで申請されているからどうだろうね。でも、マサト君が領都で料理の必要性を説いてくれればいずれはこういったものも各村に配備されるとは思うけどね」
まあ、もともとが調理道具ではなくてポーションを調合するための道具だからな、それを違うことに使われればいい顔もされないか。
「で、どうです、料理の味は?」
「そうだね、食べ物が温かいというのは何か不思議な感じがするが、これはこれでいいね。野菜や果物を齧っているのとは違って、いろんな味がするのも不思議な感じだ」
まあ、この世界で長く生きている人間ほどこういった感想になるのだろうな。
多分、調合師みたいにはじめからバクバク食う方が珍しいんだろう。
今も調合師は他人の二倍くらい食ってるし。
「さて、じゃあ俺は料理のほうに戻りますね。人数が多いから一度では全員分作れないですしね」
とにもかくにも、村人に斑芋の料理に慣れてもらうのが先決だ。
斑芋さえ食料に加えられれば、あとは何とでもなるだろう。
明日の昼と、夕方に斑芋の料理を教えれば、現在、料理を習いに来ている村人には一通り教えることができたことになるから、明後日は森に入っていつもの村人にドラゴンマッシュルームの危険性と森の中に有毒植物がある可能性については伝えられるだろう。
それさえ済めば、俺がこの村でやらなければならないことは一通り済ませたことになる。
あとは、領都に行ってから俺がどう動くべきか。
権力者……この場合は領主様か、領主様に料理の可能性、そして食材を幅広く仕入れてもらうのは当然やるべきことだが、できることなら領都のどこかに食堂を作成して、多くの人に料理を食べてもらうのも面白いかもな。
そして、できることならミーナ以外にも料理に興味を持った人間を見つけてレシピを教え込むっていうのも大事なことだな。
まあ、あとは野となれ山となれ、という感じなのは否めないが未来が見えないというほどでもない。
とにもかくにも、この世界での一生を面白おかしく過ごせるほうに努力してみますかね。
そして、数日が経ち、出発の日になった。
「あんちゃん、それにレイジとミーナも本当に行ってしまうんじゃな」
「ええ、村長にはあらかじめ言っていましたし、ウィリアムさんとも約束しましたからね」
「私の準備が整うまで待ってくれてもいいじゃない」
「いやいや、後任が来ないことにはあんたは動けないだろ」
「だから、後任の新人調合師が来るまで待ってくれればいいのにってことよ」
「アイリーン、あまり無理を言うな。それではいつまでたっても出発できん」
「ふんっ」
「まあ、あんちゃんもレイジもミーナも病気やケガには気を付けてな。食べ物は大丈夫じゃろうが、何かあったらポーションを使うんじゃぞ」
村長からは餞別と言って、ポーション十本に来年に植える予定で採ってあった畑の作物の種を分けてもらっている。
俺がこの村に料理を教えて食べられるものが増えたお礼らしい。
ポーションは村長の自腹らしく、材料から何から領主様からの支援は入っていないので俺はいまだにこの領の領主様には借りがない状態だ。
「村長、わかっていますよ。短い間ですが、お世話になりました。料理を広めるたびでこの村に立ち寄れたことを俺は心から神様に感謝しますよ」
「ああ、わしらもあんちゃんに会えたことを神様に心から感謝するよ」
名残惜しいが、いつまでもここで話し合っているわけにもいかない。
こんな世界ではこれが今生の別れになるのが分かり切っているだけに切り出しにくいが、それでも旅立たなくてはいけないんだ。
「では、行ってまいります。レイジ、ミーナも」
「行ってくるよ、村長」
「行ってきますね、村長さん」
二人もこの旅立ちがこの村との永遠の別れだとわかっているだろう。
それでも、涙一つ流さない二人は本当に強い人間だと思う。
今日、俺はこの世界で初めて訪れたこの名もなき村を離れ領都へと向かう。
これから先の旅路がどうなるかはわからない。
だが、少なくともこの二人と旅をしている限りは苦労や困難が待っていようと立ち向かえる。
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