料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

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終章 迷宮都市

12 再会

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 ミーナたちとカレーパンなんかの新しいパン作りについて話し合った後、俺は自室で眠りについた。

 ……いや、眠りについたはずなんだよ。
 でも、気がついたらなんか真っ白な空間にいるんだよね。

「目覚めたか、狭間真人」

「……神様?」

 なんか見覚えがあると思ったら、ここは神様と初めて会った空間だ。
 すでに異世界で六年以上過ごしていたから、思い出すのに時間がかかったけど確かに異世界に落とされる前にここにいたはず。
 でも……なんでいまさら?

「ふむふむ、困惑しているようだな。今回呼び出したのは礼を言いたかったからだ」

「……礼?」

「ああそうだ。コングラチュレーション、狭間真人。お前は私の想像を超えた早さでこの世界の料理事情を改革して見せた」

 は? いや、確かにミーナとこれまでの旅の成果が出てきたと話していたところだが、まだ三か国しか回ってないぞ?
 ああ、いや、迷宮都市を加えれば四か国か……にしたって、世界全体とは言い難いだろう。

「さらに困惑させてしまったようだな。狭間真人よ、私がお前をこの世界に呼んだ時のことは覚えているか?」

「あまり詳細には覚えていませんが……まあ、なんとなく」

「私はお前に対して、この世界の人類は料理を作らないことで獣に蹂躙されて全滅する寸前だと……まあ、仔細は違うがこのようなことを話したのだよ」

 それは覚えている。
 この世界の人間は空腹をポーションで誤魔化しているから、ステータスが低くて獣や魔獣に蹂躙されるみたいな。
 だから、俺にこの世界で料理の技術を広めてほしいって話だったよな。

「つまり、あの時点で既に人類は絶滅寸前。お前をはじめに飛ばした王国を含めた領域にしかめぼしい集落はなかったのだよ」

「確かに、ウィリアムさんやジョシュアさんに近隣の国を聞いたときに聖王国と帝国、それに迷宮都市しか教えてもらえなかったけど……」

「秘境のような村がいくつか残ってはいるが、そこにたどり着くのは至難の業だろう。それにそういった秘境ではポーションに頼らない食生活をしているしな」

「でも、迷宮都市には魔王が住んでいたんですよね? 近くの王国や帝国を襲わずに遠くの国を襲ったんですか?」

「単純な話だよ。魔王の近くに住んでいた人類は天敵たり得なかった。だからこそ、魔王は魔獣や魔族に東回りで人類を追い込むように指示したのだ」

 王国や帝国が弱かったから、スルーして他の強国に攻め入っていたのか。

「お前の足元に蟻が何匹居ようと気にはしないだろう。羽虫程度にうっとうしければ、また別だがな」

 つまり、王国や帝国は魔王が出現しても、防衛ばかりで攻勢には出ようとしなかった。
 だから、見逃されていたというのか。

「だからな、お前が回った地域以外にはめぼしい国は存在しない。そして、お前が料理を広めてくれたおかげで当初の目的は十分に達成できたといえよう」

「でも、まだ料理の基礎を教えただけですよ?」

「それで充分なのだよ。この世界の人間に必要なのはきっかけ……自分たちが食べようとはしてこなかったものも食べられるかもしれない……そういう気付きが必要だったのだ」

 まあ、確かに人間の適応力はすごいからな。

「というわけで、お前には二つの選択肢を用意してある」

「選択肢?」

「一つはこのまま違う世界に転生することだ。世界一つを救った功績があるからな。それなりの待遇の転生になるぞ」

「もう一つは?」

「このままこの世界で天寿を全うするという選択肢だ。当然、死後は同様にそれなりの待遇の転生を確約しよう」

「この世界で生きていいんですか?」

「それはこちらが聞くことだな。この世界で生きようと思えば、お前にかけた加護と呪いの一部を解くことになる。不老不死の人間がうろうろするのは好ましくないからな」

「なるほど」

「食堂や異界のレシピ、食材鑑定などは残すが、お前の死後は通常の建物となり子孫にも遺伝はせん」

 まあ、どこでも出し入れできる食堂や、無限に手に入る調味料はこの世界のバランスを著しく壊すからな。

「それにかかわる部分で、お前に極秘にかけていた死に対する恐怖心、人を愛する心も戻すことになる」

「……は? 恐怖心? 愛?」

「変だとは思わなかったか。自身が攻撃されても動揺もせず、他者が自身の行動によって死んでもなんとも思わん。さらに、あれだけ異性が傍におっても、なんとも感じんことに」

 ……確かに? いやいや、確かに変だとは思ったようなそうでもないような。
 確かに、普通の人間なら命の危機があればもっと動揺するし、剣や槍を突き付けられてなんとも感じないのがおかしい……んだよな?

「それらは呪いとセットだ。不老不死なのに失われない命に対してパニックになってもらっても困るし、愛するものが出来て一所にとどまってもらっても困る」

 まあ、確かに相手の攻撃を倍返しにする加護持ちなのにパニックになれば、どれほどの被害が出るかわからんしな。
 それに、好きな人が出来て旅ができません、となれば料理を広めるという最初の目的が叶わないことになるし。

「それを踏まえたうえで考えろ。今すぐに転生するか、それとも普通の人間としてこの世界で生き続けるか」

「俺は……」
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