41 / 140
幼少期
41 二日酔いのゲルハルディ伯爵
しおりを挟む
あー、しかし、昨日の陛下との謁見もつつがなく……うん、つつがなく終わって本当に良かった。
勇者の称号も受け取らず、勇者自体の廃止、それに緊急時面会権もきちんともらえた。
ま、これでゲームのシナリオ自体はこちらに有利な形で進められそうだな。
主人公が勇者にならなければ、ダンジョン攻略自体が難しくなるし、ダンジョンの攻略が出来なければゲームのクリアに重要な装備やアイテムの入手もできないからな。
中ボス悪役令息としては、これで安心して暮らせるってもんよ。
「……マックスか。……おはよう」
「おはようございます、父上。その御様子だと昨晩はかなり飲んだようですね」
「……ああ、陛下と宰相に会うといつもこれだ」
「楽しそうで何よりです。朝食にはフルーツジュースを付けてもらいましょうね。コーヒーは二日酔いが治ってからにしてください」
「……ああ、そうだな。とにかく水分を取らんとな」
「ま、母上には秘密にしておきますね。まだ授乳中で飲酒のできない母上に教えれば、どうなることやら」
「……ああ、それは心の底から頼む」
飲み過ぎていつもよりもぼーっとしていて、頭を押さえている父上と共に朝食をとることにした。
父上は二日酔いが相当ひどいのか、フルーツジュースをチビチビやりながら、パンを小さくちぎりながらチマチマと食べている。
いつもの豪快な食べっぷりからすると相当違和感のある光景だが、二日酔いの人間などこんなものだろう。
「父上、そういえばこれからの予定はどうなっているのですか?」
「ああ、今日は下準備をして、明日にはゲルハルディ領に帰ろうと思っている」
「もうですか? 流石に陛下との謁見のすぐ後に帰るのはマズいのでは?」
「辺境伯家がいれば会合なりがあるが、いないからな。それにエルメライヒ公爵から誘いを受ける前に帰りたい」
「ああ、ミネッティ伯爵の上司の。……そこまで面倒なのですか?」
「いや、会ったことがないから確実ではないが、あのミネッティ伯爵を任命した人物だからな。それに、同格のミネッティ伯爵ならばともかく公爵となればこちらから断ることもできんしな」
正確には断ることは可能だが、その後の関係や会うたびに嫌味をネチネチ言われる可能性を考えると得策ではない、だな。
エルメライヒ公爵は王家派で、ゲルハルディ伯爵家は国王派、派閥違いになるので爵位が上だからと言って必ずしも言うことを聞かなければならないわけではない。
一応、ゲルハルディ領から王都に輸入品を卸す際には大街道を押さえているエルメライヒ公爵領を通っているが、別に公爵領を通らなくても王都に品物を卸す手段はある。
エルメライヒ公爵家との直接のやり取りもないし、没交渉となってしまってもデメリットはそこまでない。
とはいえ、最初からけんか腰で関わるのも貴族としてあり得ないので、誘いを受けたら断ることは出来ないだろうな。
「ゲルハルディ伯爵様、その御子息マックス殿、エルメライヒ公爵様から面会のアポイントメントを求められていますが」
うん、やっぱりこの世界でもフラグってあるよね。
会いたくないなぁ、なんて話してたらその当人がアポを求めてくるとかあるあるだよ。
「……はぁ、わかりました。昼食後にお会いするとお伝えください」
「ありがとうございます」
一応、朝食後のティータイムを狙ってきたようだし、貴族としてのマナーは出来てるけど、それなら派閥違いの貴族に面会なんて求めないでほしかったな。
「……はあ、マックス、面倒だが公爵からの面会要請だ」
「父上、確かに面倒ですが、顔に出すのはどうかと思いますよ」
「だが、あのミネッティ伯爵の上役だぞ?」
「確かにミネッティ伯爵令嬢は貴族としてはあり得なく、令嬢を育てたミネッティ伯爵も糾弾されるべきですが、エルメライヒ公爵はエルメライヒ公爵です」
「……む」
「ミネッティ伯爵を伯爵に任命したのがエルメライヒ公爵ですが、子育てにまで口を出す権利はないでしょう。我が家の周辺領もレナはともかく、男爵家には貴族としての矜持のない子供もいるでしょう」
「……確かにな」
「それに、ミネッティ伯爵令嬢にしても当時は5歳ですよ。年齢で考えればアンナとそう変わりはありません。少しばかり傲慢な態度をしてもそう咎められるものでもないでしょう」
アンナはゲルハルディ家の長女、俺の3歳年下の妹で現在は4歳だ。
貴族としての教育も施しているが、嫁入りが前提になっているのでそこまで厳しい教育はしておらず、貴族としての自覚も薄い。
「む。アンナか。そう言われると弱いな」
「ユリア叔母さんに憧れているそうで、この前など商家に嫁入りしたいと言い出していましたよ」
「本当か?!」
「ええ。成人するまでは嫁入りはできない。商家に入るにしても文字の読み書きや算数は必要だと言って、貴族教育に戻しましたが」
「助かる。……はあ、どうしてああなってしまったのか」
「ま、勉強など面倒ですからね。同年代の子供たちが外で遊んでいると聞けば、自分もそうしたいというのは子供として当然かと」
「お前もか?」
「私ですか? まあ、思わないことはないですが、農民の子や商家の子が苦労をしていることも知っていますし、貴族としての自覚もありますから自分のできることをするだけですよ」
幼少期から勉強漬けにされる貴族の子供としては外で駆け回っている子供を見て羨む気持ちもわかるが、平民の子供は家の手伝いやら人脈形成やらで苦労するしな。
案外、アンナにもそういう現実を叩きつけることも必要なのかもな。
勇者の称号も受け取らず、勇者自体の廃止、それに緊急時面会権もきちんともらえた。
ま、これでゲームのシナリオ自体はこちらに有利な形で進められそうだな。
主人公が勇者にならなければ、ダンジョン攻略自体が難しくなるし、ダンジョンの攻略が出来なければゲームのクリアに重要な装備やアイテムの入手もできないからな。
中ボス悪役令息としては、これで安心して暮らせるってもんよ。
「……マックスか。……おはよう」
「おはようございます、父上。その御様子だと昨晩はかなり飲んだようですね」
「……ああ、陛下と宰相に会うといつもこれだ」
「楽しそうで何よりです。朝食にはフルーツジュースを付けてもらいましょうね。コーヒーは二日酔いが治ってからにしてください」
「……ああ、そうだな。とにかく水分を取らんとな」
「ま、母上には秘密にしておきますね。まだ授乳中で飲酒のできない母上に教えれば、どうなることやら」
「……ああ、それは心の底から頼む」
飲み過ぎていつもよりもぼーっとしていて、頭を押さえている父上と共に朝食をとることにした。
父上は二日酔いが相当ひどいのか、フルーツジュースをチビチビやりながら、パンを小さくちぎりながらチマチマと食べている。
いつもの豪快な食べっぷりからすると相当違和感のある光景だが、二日酔いの人間などこんなものだろう。
「父上、そういえばこれからの予定はどうなっているのですか?」
「ああ、今日は下準備をして、明日にはゲルハルディ領に帰ろうと思っている」
「もうですか? 流石に陛下との謁見のすぐ後に帰るのはマズいのでは?」
「辺境伯家がいれば会合なりがあるが、いないからな。それにエルメライヒ公爵から誘いを受ける前に帰りたい」
「ああ、ミネッティ伯爵の上司の。……そこまで面倒なのですか?」
「いや、会ったことがないから確実ではないが、あのミネッティ伯爵を任命した人物だからな。それに、同格のミネッティ伯爵ならばともかく公爵となればこちらから断ることもできんしな」
正確には断ることは可能だが、その後の関係や会うたびに嫌味をネチネチ言われる可能性を考えると得策ではない、だな。
エルメライヒ公爵は王家派で、ゲルハルディ伯爵家は国王派、派閥違いになるので爵位が上だからと言って必ずしも言うことを聞かなければならないわけではない。
一応、ゲルハルディ領から王都に輸入品を卸す際には大街道を押さえているエルメライヒ公爵領を通っているが、別に公爵領を通らなくても王都に品物を卸す手段はある。
エルメライヒ公爵家との直接のやり取りもないし、没交渉となってしまってもデメリットはそこまでない。
とはいえ、最初からけんか腰で関わるのも貴族としてあり得ないので、誘いを受けたら断ることは出来ないだろうな。
「ゲルハルディ伯爵様、その御子息マックス殿、エルメライヒ公爵様から面会のアポイントメントを求められていますが」
うん、やっぱりこの世界でもフラグってあるよね。
会いたくないなぁ、なんて話してたらその当人がアポを求めてくるとかあるあるだよ。
「……はぁ、わかりました。昼食後にお会いするとお伝えください」
「ありがとうございます」
一応、朝食後のティータイムを狙ってきたようだし、貴族としてのマナーは出来てるけど、それなら派閥違いの貴族に面会なんて求めないでほしかったな。
「……はあ、マックス、面倒だが公爵からの面会要請だ」
「父上、確かに面倒ですが、顔に出すのはどうかと思いますよ」
「だが、あのミネッティ伯爵の上役だぞ?」
「確かにミネッティ伯爵令嬢は貴族としてはあり得なく、令嬢を育てたミネッティ伯爵も糾弾されるべきですが、エルメライヒ公爵はエルメライヒ公爵です」
「……む」
「ミネッティ伯爵を伯爵に任命したのがエルメライヒ公爵ですが、子育てにまで口を出す権利はないでしょう。我が家の周辺領もレナはともかく、男爵家には貴族としての矜持のない子供もいるでしょう」
「……確かにな」
「それに、ミネッティ伯爵令嬢にしても当時は5歳ですよ。年齢で考えればアンナとそう変わりはありません。少しばかり傲慢な態度をしてもそう咎められるものでもないでしょう」
アンナはゲルハルディ家の長女、俺の3歳年下の妹で現在は4歳だ。
貴族としての教育も施しているが、嫁入りが前提になっているのでそこまで厳しい教育はしておらず、貴族としての自覚も薄い。
「む。アンナか。そう言われると弱いな」
「ユリア叔母さんに憧れているそうで、この前など商家に嫁入りしたいと言い出していましたよ」
「本当か?!」
「ええ。成人するまでは嫁入りはできない。商家に入るにしても文字の読み書きや算数は必要だと言って、貴族教育に戻しましたが」
「助かる。……はあ、どうしてああなってしまったのか」
「ま、勉強など面倒ですからね。同年代の子供たちが外で遊んでいると聞けば、自分もそうしたいというのは子供として当然かと」
「お前もか?」
「私ですか? まあ、思わないことはないですが、農民の子や商家の子が苦労をしていることも知っていますし、貴族としての自覚もありますから自分のできることをするだけですよ」
幼少期から勉強漬けにされる貴族の子供としては外で駆け回っている子供を見て羨む気持ちもわかるが、平民の子供は家の手伝いやら人脈形成やらで苦労するしな。
案外、アンナにもそういう現実を叩きつけることも必要なのかもな。
191
あなたにおすすめの小説
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる