気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ

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幼少期

48 レナの思い

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 あー、まさかレナが俺が公爵令嬢とどうこうなることを不安に思っているとは思わなかった。
 ……いや、そういうことなんだろうとは思ってはいたけど、ラスボス悪役令嬢であるローズマリーを知っている俺にとって公爵令嬢はそういう対象じゃないから無意識に追い出してたんだな。
 てっきり、王都に行くことの不安とか、公爵令嬢と会う際のマナーとか、そういったことで不安になってるもんだと思ってたよ。

「レナ、俺は貴族として、次期領主として、領民を第一に考えて行動することもあるだろう。でもね、レナに対して誠実に対応することだけは約束するよ」

「マックス様?」

「戦争にもいくかもしれない、領地のために他の誰かと婚姻を結ばなければならなくなるかもしれない……でも、どんな時もきちんとレナには向き合うよ」

 前世とは違って貴族として、次期領主として、自分の幸せだけを追求することは許されない。
 いや、前世でも家のため、家族のため、他の誰かのために望まぬ相手と結婚して、それでも愛を育んでいた人は大勢いた。
 だから、きっとそれは本質的には何も変わらないんだろう。

「……マックス様。……私も覚悟を決めました」

「レナ?」

「マックス様が貴族として、次期領主として領民のためになるのなら、どんな困難が降りかかってもマックス様をお支えします」

「レナはゲルハルディ家ではないから、そこまでしなくていいんだよ?」

「いいえ、私はマックス様の影です。婚約者じゃなくなっても、マックス様が他の誰かと婚姻しても、それだけは変わりません。私は子供のころからマックス様の傍にいたいと思っていたのです」

 レナがいやいや影をやっているとは思っていなかった……だけど、積極的に俺の側にいようとしていたとも思っていなかった。
 だって、影だぜ? 主人の側に常に侍り、危機に際しては敵を討ち果たし、肉壁にもなる。
 テオは自分から望んで父上の影になったらしいけど、普通の貴族令嬢であるレナが自分で望んでそうしているとは思ってもなかった。

「俺の傍に?」

「はい、マックス様は確かに子供のころから不思議なことばかりおっしゃって、私達には理解の及ばない行動に出ることもありました」

「……うん、まあね。反省してます」

「ふふ、それもマックス様の魅力ですけどね。……でも、マックス様の傍にいるうちに気づいたのです。マックス様の行動はいつも領民のことを思っているんだって」

「そうかな?」

 そうか? 確かに領民のためになればと思って行動したこともあるけど、何にも考えてないことも多いぞ?

「まあ、いつでもは言い過ぎですね。でも、マックス様の行動で確実に領民たちの生活はよくなって、領民たちに笑顔が増えています」

「まあね、それは領主一族として当たり前のことだから」

「そうですね。でも周辺領のために動いてくださる貴族は稀です。マックス様、知っていますか? マックス様の提案でバルディ領も豊かになっているのですよ?」

「そうなのか?」

 まあ、輸出入に関する物品が増えれば港のあるバルディ領も豊かになるだろうとは思っていたけど。
 結構ユリア叔母さんに頼んで子供のころから色々なものを仕入れてもらったりしていたからなぁ。

「このシーフードパイもそうですね。新鮮な魚介はバルディ領でしか売れないと思っていました。でも、マックス様がアンドレ商会を説得して、輸送手段を確立したんですよね」

「子供の戯言を真剣に聞いてくれたユリア叔母さんとトーマス叔父さんがすごいんだよ」

 これは本音だ。元々冷凍品や冷蔵品を輸送する馬車自体は開発されていたものの、コストやリスクを考えると、なかなか一商会が手を出せるものではなかった。
 それを、海産物が港以外でも食べられたら特産になると言った子供の戯言を本気にして、マジでゲルハルディ領でも食べられるようにしたんだ。
 記憶が戻ってない頃のこととはいえ、俺の要求もおかしいし、それにこたえる叔父さんと叔母さんもおかしい。

「ふふ、そのことでバルディ領の領民は私とマックス様が婚約したと発表したときにはお祭り騒ぎになったんですよ。港の救世主がバルディ領と縁を結んだって」

「……え!?」

 大げさ……でもないのか。バルディ領の海産物は干物を除けばほぼすべてが自領での消費しかなかったから、漁師はあんまり人気のある職業ではなかったらしいしな。
 俺の提案から漁師の需要が増えて、バルディ領で職にあぶれる人が減ったっていう資料も見た覚えがあるし。

「だから、私はマックス様を何より尊敬しているのです。領民のこともきちんと考えているマックス様が誰よりも好きなのです」

「……そっか……うん、そっか」

 ヤバい、メチャクチャ嬉しい。レナのことは好きだし、レナも俺のことを好きだとは思っていた。
 でも、やっぱり本人の口からそう言われると、かなり嬉しい。
 まあ、男としてというよりは、尊敬する主としてってのが少し複雑だけどな。
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