気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ

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幼少期

69 フィッシャー商会

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 ローズマリー嬢がゲルハルディ領へ来てから、一か月以上が経ったけど、ようやくエルメライヒ公爵領へと帰って行ったよ。
 クルトとのあれやこれやがあった後は、特に問題も起こさず、行けるところには行って、行けないところには素直に従っていた。
 こんな簡単な交流でラスボス悪役令嬢がまともな令嬢になるとは思わないが、ローズマリー嬢はラスボス悪役令嬢とは思えないほど理性的だったな。

 と、ローズマリー嬢のことはこれ以上考えてもしょうがないからいいか。
 問題はローズマリー嬢の滞在途中から、レナの様子がおかしくなっていった点だ。
 ローズマリー嬢が滞在中はいつものように二人きりで過ごすということが少なくなっていたから、そのせいかとも思ったが、なにやら考え込むことが増えていったんだよな。

「レナ、何か悩みであるのか?」

「マックス様……悩みというか……考えていることが」

「考えている? レナが何を考えて悩んでいるのかはわからないけど、俺でよかったら相談してほしいな」

「マックス様……ええと……」

「マックス様、お2人で良い雰囲気を作っているところ申し訳ありませんが、報告が」

「……ヨーゼフ、本当に悪いぞ」

 マジでな! マジでいい雰囲気だったのに、執事のヨーゼフが割って入ったことでそんな空気は雲散霧消したよ。

「申し訳ありません。空気を読んでいる暇もないくらいの重大事が起きましたので」

「はぁ……で、何が起きた?」

「アンドレ商会がフィッシャー商会のお嬢様をお連れになったのです」

「? トーマス叔父さんが? あ、それともユリア叔母さんか? フィッシャー商会ってゲルハルディ領にある王都向けの商会だろ?」

「お連れになったのはトーマス様です。フィッシャー商会に関してはマックス様の仰る通りで」

 フィッシャー商会は俺にとっても、ゲーム内のマックスにとっても関係の深い商会だ。
 なぜなら、ゲームではレナと同じサブヒロインの1人であるアイリーン・フィッシャーの生家だからだ。
 この世界に転生して、サブヒロインを救うと決めた俺だが、正直に言えばアイリーン・フィッシャーは既に救っていると思っている。

 フィッシャー商会は王都に出たマックスとゲルハルディをつなぐ商会で、マックスからローズマリー、そしてゲーム内の主人公と親交を深めていく。
 マックスとローズマリーが婚約破棄されゲルハルディ領に向かった後も、フィッシャー商会の跡取り娘のアイリーンは主人公サイドのサブヒロインとして活躍するってわけだ。

 でもさ、そもそも現実ではマックスはゲルハルディ領に残ったわけだし、フィッシャー商会がエルメライヒ公爵家と繋がりを持つことはない。
 しかも、主人公もエルメライヒ公爵家にはいなくて、ミネッティ伯爵家にいる……となれば、アイリーン・フィッシャーが主人公とつながることはない。
 と、思ってたんだけど、こっちに来るか? うーん、話を聞いてみないと思惑がわからないな。

「ヨーゼフ、トーマス叔父さんから事情は聴いてるか?」

「いいえ、トーマス様も急に商会の方に押しかけられたようで、困惑されていました」

「はぁ……トーマス叔父さんも苦労性だな。とはいえ、最近ではアポなし突撃が流行っているのか?」

「そのような事実はございませんが……いかがいたしますか?」

「会うしかないだろうな。ま、釘は刺しておくから、安心しておけ。……レナ、どうやら仕事が入ってしまったようだ」

「大丈夫です、マックス様」

 はあ、レナと別れがたい……いや、本当に。
 ローズマリー嬢が居た時には本当に2人きりになることはなくて、ようやく……本当にようやく2人きりになれたところだったというのに。

「ヨーゼフ、まずはトーマス叔父さんを執務室に通してくれ。フィッシャー商会に関しては騎士を護衛という名の監視につけて応接室に待たせておくように」

「かしこまりました」

 まずは事情をトーマス叔父さんから聞かないと始まらないからな。
 執務室にいた家令にはフィッシャー商会に関する調査書をまとめるように指示して、トーマス叔父さんを待つ。
 この執務室は次期領主専用に作られたもので、母上が使っている執務室とは別なのだが、ここにもそれ相応の資料がそろっている。
 領内の商会に関してはもちろん、農家や露店に関しても資料を集めているから、フィッシャー商会に関しても通り一遍の調査書はそろっているはずだ。

「マックス坊ちゃん、今日は急な訪問になってしまい申し訳ありません」

 部屋に入ってきたトーマス叔父さんは謝罪から入ったが、おそらく急な訪問になったのはトーマス叔父さんのせいではないだろう。

「大丈夫だよ。何か事情があるんでしょ?」

 とりあえず、トーマス叔父さんを落ち着かせて話を聞かないとな。
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