猫と私と犬の小説家

瀧川るいか

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女の子なら当たり前の事と私の帰る場所

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「なんか調子が悪い!」今日の私は機嫌が悪い。誰もいない部屋で独り言を呟いていた。無駄に大きい鏡の前でムカついていた。誰もいないが可愛い生き物と生活を共にしている。
二匹の茶色い兄弟猫と共に暮らしている。チャチャとメー。
チャチャは高い声で「ニャ~」と鳴く男の子。
メーは鳴き声が低い声で「メ~」と鳴く男の子。
私の大切な家族だったり友達だったり彼氏だったりする。
それに大好きなぬいぐるみ達に囲まれている。
可愛いもの甘いもの美味しいものを愛している。
女の子なんだから当たり前だ。可愛くなかったら意味がない。女の子なんだから美意識高くて当たり前。
私は誰よりも可愛いくありたい生き物だ。
私は誰よりも可愛いんだ。
「君より可愛いかったからごめん」
そんなふざけた言葉を吐いた死ぬ程好きだった男がいた。浮気をするのは自由だがバレないようにして欲しかった。どうでもいい話。もう過去の話だが阿呆な男だ。
私の魅力がわからないなんてセンスのない男だ。私は誰よりも可愛くないとムカつくのだ。可愛くない私にムカつく私は誰よりも可愛いんだ。私の日常に可愛くないもの美しくないものは必要ない。最高に可愛くないとムカつくのだ。

自分が世界で一番可愛いと思えるように生きるんだ。
女の子なら当たり前。
自分が世界の中心なんだ。女の子なら当たり前。
私が欲しいのは愛なんだ。女の子なら当たり前。
死ぬ程愛されたい。決して好きにはならないけど。
女の子なら当たり前。
死ぬ程愛してください。絶対にお願いしたりはしないけど。女の子なら当たり前。
可愛くある為に毎晩祈るんだ。
朝起きたらお姫様になっていると。
女の子なら当たり前。

左に可愛い人、右に可愛くない人。
貴方はどちらを選びますか?
当然、可愛い人でしょ?
人類なら当たり前。

全てにおいて可愛い存在でありたい。
泣いてしまうくらい可愛い存在でありたい。
日本列島が震えるくらい。全米が泣き叫ぶくらい。
世界全土に褒め讃えられるくらい。月から迎えが来るくらい。
田舎のおじいちゃん、おばあちゃんが手を合わせて有難がってくれるくらい。
そのくらい私は可愛い存在でありたい。
人類史上最強の可愛い存在でありたい。
消える瞬間まで可愛くありたい。
消えた後も世界に私の可愛さの残骸がある存在でありたい。記憶に残る可愛さを。
「美人は三日で飽きる」と言われている。
それならば、可愛い私は人類に飽きられる事はない。

I’m very definitely a woman and I enjoy it.
私は女だし、女であることを楽しんでるわ
かの有名なマリリン・モンローの言葉。

私は女の子という生き物を存分に楽しみたいのだ。
楽しむという事は可愛くある事だ。
楽しむという事は愛される事だ。
楽しむという事は自由である事だ。
しかし今日は調子が悪い。私くらい可愛い生き物が少しクオリティが低い。鏡の前で一人イライラしている。
昨日十八時間ぶっ続けでゲームしてたから寝不足気味。大画面を見ながらひたすらレベル上げをしていた。可愛い私の好きなキャラクターは強くあってほしいのだ。
アニメでもゲームでも男の子は強くたくましくあってほしい。
アニメでもゲームでも女の子は可愛く美しくあってほしい。
しかし、今日の私は昨日より目が開いてない気がする。今日は入ってた予定はキャンセルしよう。
私は鏡に映った自分の顔がイマイチだと外出を止める。自分が許せないのだ。
「許せ!しょうがない!」
茶トラの二匹の鳴き声が聞こえる。
「ニャア」
「メーメー」
「チャチャ!メー!今日は出掛けるのやめる!ベッド貸して!」
「ニャアニャア」
「メーメー」
「一緒に寝るか~~?」
私がベッドに来るとメーはご主人様の帰還を喜ぶが如くシッポをブンブン振りながら近付いてくる。チャチャは静かに近付いてくる。茶トラの二匹が横たわった私の周りで元気に運動会を始める。

「いちいち可愛い子達だ」

元気に走り回る茶トラの二匹。
「おいで!静かにしなさ~い」
私に似て可愛い茶トラの二匹はご主人様の睡眠に合わせて閉会式をして静まり寄り添ってくるという事はなく、私が寝ているのをお構い無しに走り回っている。しかし可愛いから全て許せる。
「ニャア」
「メー」
「あっ!断りの連絡だけしとこ!うーん。わんころだし、いいかぁ。うん!大丈夫!多分怒らないな」
そんな事を言ってるとチャチャとメーが構って構ってと寄り添ってくる。今日も可愛い子達。
「ニャアニャア」
「メーメー」
そんな可愛い兄弟猫達と遊んで過ごす事にした。
「ということで!今日は一日中お家にいる事にしたから構ってあげよう!」
「おいで~」
そう言うとチャチャとメーはベッドで寝てる私に嬉しそうに近付いてくる。
メーはガッツリと私の黒い髪の毛を毛繕いしてくる。寝てる時もお構いなく毛繕いしている。
寧ろ私の可愛い顔をぺろぺろと舐めてくる。可愛いけど、たまに可愛くない。チャチャは大人しく寄り添って寝ている。
双子の兄弟で毛並は一緒。
メーはお兄ちゃんで元気な構ってちゃんで少しツリ目。
私が何をしていようがお構い無しの構ってちゃん。
チャチャは弟で大人しいおっとりさんでタレ目。
私が何もしてないとそっと甘えてくる。
気遣いさんなチャチャ。実はチャチャの方が甘えん坊さん。
今日はそんな可愛い生き物と一緒にいようと思う。
私の一時間は彼らにとって四時間に相当する。
出掛けて帰るといつも思う。
「私が居なくて寂しくなかったかなぁ」と。
十二時間振りに帰宅なんてしたら彼らにとっては四十八時間振りのご主人様なのだ。
それでも私の靴音を耳にするとドアを開ける前から可愛い鳴き声で迎えてくれる。
玄関で待っててくれる。
「ただいまぁ~」と言うと全力でお出迎えしてくれる。たまにメーが自動石鹸を浴びて泡だらけの時があるが心配だから遠慮して欲しい。本当に凄く心配。可愛い目に入ったら大変だ。お風呂に入ってる時も私が出てくるまでチャチャとメーは外で全力待機してくれる。たまに勝手に入ってくる時もある。軽いストーカーだ。もし人類にそんな事されたら確実に殴り飛ばしているだろう。だが彼らは可愛いから許せるのだ。

「いちいち可愛い子達」

可愛いだけじゃない。
「この子達がいるから私は生きていける」
「この子達がいる場所が私の帰るところなんだ」
そんな気持ちで生きている。
「だって、この子達は嘘付かないから」
「だって、この子達は裏切らないから」
嘘つきは大嫌いなんだ、私。
裏切る人は嫌いなんだ、私。

スマホで動画を見ているとメーは私の体からくっ付いて離れようとしない。よくあること。
パジャマが毛だらけになる。それも可愛いものだ。
少し低い声で「メ~メ~」と鳴く。
それを少し離れて見つめるチャチャ。
遠慮がちだけど本当は甘えん坊さん。
「ほら!チャチャも一緒に見よ!」
そう言うとチャチャは嬉しそうにちょこちょこと近づいてきてベッドで横になっている私とメーの間にちょこんと寝そべった。仲良く川の字でスマホの動画を見る私達。
こんな時間が幸せなのだ。こんな時間が愛おしいのだ。
街中にいて汚い言葉を聞くこともない。
誰かといて嫌な思いをすることもない。
楽しく動画を見ているとメーがそっとベッドから離れていった。
「メー!どした?」
メーに着いていくチャチャ。
「あっ!ごめんね!トイレね!」
チャチャとメーは仲良くトイレタイム。
男の子が用を足す姿をニコニコしながら見ている可愛い私。
神妙な面持ちでトイレに座る姿でさえ何故か可愛くて仕方がない。
「可愛いなぁ~君達は」
チャチャは目を細めながら大人しく。
メーは目を少し見開きプルプルしながらしている。
終わった後はしっかりとなかった事にする姿さえも可愛い子達だ。
「終わったー?」
「ニャ~」
「良い子だねぇー。はい!おいで!」
チャチャとメーは仲良く私の元に戻ってきた。毛だらけになったお気に入りのパジャマ。コロコロを使って掃除をする事にした。部屋の掃除をしている私にくっ付いてくるメー。
掃除の邪魔をしないように気を使って一人で毛繕いをするチャチャ。
「メー!チャチャと遊んでてー!掃除したくなった~」
ビックリしたメーは少し寂しそうにチャチャの元に向かって行った。
私の悪い癖だ。
一度始めると気になって気になって普段やらないような所まで綺麗にしたくなる。
そんな掃除に夢中な私に構う事なく部屋で運動会をするチャチャとメー。
「チャチャ!メー!静かにしなさ~い。タワーで遊んでなさ~い」
コロコロで部屋を掃除しながら大きいような小さいような微妙な音量で言った。
「うーん。聞こえてる訳ないなぁ~」
ドタバタと部屋中を所狭しと走り回る家族。
「元気な子達だぁ~」と頷きながら見ている。私の部屋が全く片付かないのは、この子達が元気に居てくれてる証。一緒に暮らしている証。
そう思えたら少しくらいはしょうがないと感じた。
前は帰ったら誰もいなかった場所。
でも、今はこの子達と暮らしてる。
友達が飼えなくなったからチャチャを引き取った。一人ぼっちは可哀想だと思った。命なんだから。
理由は色々ある。それぞれ理由はある。環境が変われば一緒にいれなくもなる。でも、私はチャチャと暮らす事を選んだ。
チャチャに兄弟がいる事を知って、頼み込んでメーを引き取った。
兄弟なんだから一緒がいいと思った。
家族なんだから一緒がいいと思った。
一緒に暮らすようになってすぐチャチャとメーは仲良くなった。最初は喧嘩しないか心配だったけどチャチャはおっとりさんでメーは構ってちゃん。なんやかんやで仲良くしてる。
メーは私に相手してもらえなくて寂しくなるとチャチャに抱き着いて寝ている。相性も良い仲良しさん達。
「この子達がいるから私は生きていけるんだ」
「この子達の為に私は生きている」
私の帰る場所はここなんだ。
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