猫と私と犬の小説家

瀧川るいか

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予定時刻は予定通り過ぎている

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最近街中を歩いていてつまらなく思う事がある。前までは無かった気持ち。私に似合う可愛い靴。私に似合う可愛い服私に似合う可愛い髪型。私に似合う可愛い化粧。
全て完璧なんだけど.........。
せっかく完璧なんだけど.........。
マスクをしている事により、私の圧倒的な可愛さが世の中に伝わらないのが歯痒い。
マスクをしていると美人に見えるとか可愛く見えるとかテレビでやってたんだけどね。
可愛く見える人っていうのは得だと思うんだけど。
本当に可愛い私は損してる気がする。
全て新型ウイルスのせい。
ふざんけんな!
「マスクするからメイク手抜き出来るから楽だよね~」とかほざき出してる女子のように鼻毛の処理すら忘れて女子力が低下していってしまう私なんて私自身が許せないのだ。
ウイルスのせいでマスクをする事により可愛い私が可愛いかな?程度に思われるのは許せない。そんな事も思うこともあった。

今日はお出掛け。知り合いとカフェでお茶する予定。
セッティングに二時間三時間くらい要する私は十六時待ち合わせなら十二時前には起きて準備をしないと間に合わない。一般的に言われる中途半端な姿でも私くらいになると充分可愛いのだが、街中に行くとなると中途半端な視線で中途半端な可愛さだと思われるのは、私のプライドが絶対に許さないので時間をかけて完璧な私でないと街中に出たくないのだ。
近所とかならラフに行ってもいいのだが、街中で同じ性別の人類が二足歩行しているのであれば私は人類史上最強の可愛さで歩きたいのだ。
故に二時間三時間はセッティングに必要だ。
そして約束の時間には必ず行かないと決めている。少し遅れるくらいが可愛い。
いや軽く二時間くらい遅れても許されるはずだ。
でも流石に人間関係が崩壊するので許容範囲で納めるようにはしている。
そんな私も可愛い。

十六時二十五分。
予定通り予定時刻は過ぎている。
私の中では遅過ぎず早過ぎず、丁度いい時間。
「久しぶり~待った~?」
「少し待ちましたけど大丈夫ですよ!」
「とりあえずミルクティね~」
「わかりました!じゃあ注文してきますね」
「おねがーい」
そう言うと年下の女子大生はレジに行った。ニコニコしながら店員に注文をしている。会計を終えると札をクルクル回しながら戻ってきた。
「戻りましたー」
一番と書かれた札をテーブルの上に置いた。
「ありがとう」
可愛い私は感謝の言葉を忘れない。
「んで、どしたって?」
「最近好きな人いるんですけど。なんか思わせ振りな行動が多くてよくわからないんですよ」
「例えば?」
「お酒飲んだ帰りとか相合傘したりとか、可愛いとか言ってくれたり、「危ないからこっちだよ」とか言って守ってくれたりとか」
「酔ってるんじゃない?」
「お酒飲んだ帰りですし」
「酒にじゃなくてそうやってる自分に!」
「でも本当に優しいんですよ彼」
「知り会ってどのくらい?」
「二ヶ月とかですかねぇ。あっちからよく電話くるんですよ。でも、就職決まって今は違う県にいるんですけど」
「あーもうダメダメ!それはキープされてるだけ!それに暇な男は魅力ないよ!趣味彼女とか阿呆の極み。今まで彼氏いなかったの?」
「最近欲しいんですけど、なかなか出来なかったですね」
「そもそも恋人って欲しいとかで作るもんじゃないよ!一緒に居たりとかして自然に気が合えばくっつくもんだよ。あながち友達に彼氏が出来たから無駄な焦りからくる下らない気持ちをぶら下げて作った関係性なんて秒で無くなるよ」
「でも好きなんですよ!」
「うーん!じゃあ好きって言えばいい。極論言ってしまえば私には関係のない話だから。話を聞いて私は自分の意見を言うだけだから私の話は一つの意見だと思って聞いて欲しい。愛してるとかって言葉にすると綺麗に聞こえるけど実際は辛い事とか窮屈な事の方が多い。自分の時間を他人に預けるんだから。だから私は愛しはしないけど愛されたい」
「結構、キツい事言いますね」
「うん!だって辛い恋愛くらいしてるから!あんたにそんな気持ちは必要ないから。でもね、最終的には自分の気持ちが一番大事だよ」
「うーん。わかりました。ミルクティ出来たっぽいですよ」
カフェの店員が番号を告げる。テーブルに置いてあった番号札を見て、間違いなく自分たちの注文だと分かった。
「よーし!可愛い私が取ってきてあげるよ」
「あっ!ありがとうございます」
テーブルに置いてあった番号をクルクルと回しながら、可愛い私が店員の待つ受け取り口まで行き、ミルクティが二つ乗った木製の御盆を持って席に着いた。
「おまたせ~」
「ありがとうございます!」
「飲も飲も」
「はい!」
年下の女子大生は嬉しそうに黄色いストローでミルクティを飲み始めた。
私は黄色いストローでミルクティを飲みながら店の中から外を眺めた。若い男女が楽しそうに歩いてる姿をガラス越しに横目で見た。
「最近学校どう?」
「それなりに楽しいですよ!」
「そっかぁ。良かった!。せっかくの女子大生ライフだからね!」
「でも先々が少し心配です」
「なんで?自由に勉強出来るなんてクソ幸せじゃん!定時制高校卒業の私からしたら羨まし過ぎるんだけど。出来ることなら大学とかで心理学とか勉強したいもん!学校って卒業したら、もっと勉強しとけば良かった~とか思う事あるよ!」
「あぁ。なんかすいません」
「別にいいよぉ」
「もうすぐ三年生になるんで就職活動とかしないといけないんですけど。自分がやりたい仕事が全くわからないんです」
「やりたい事ねぇ。私はないなぁ。お金があればいいかなぁ。でもね、誰かの役に立ちたいって気持ちはあるかなぁ。どんな形であれ」
「なんかいいですね。私は自分のやりたい事がわからないんですよ」
「やりたい事がわからないなら自分が出来る事をやっていけばいいんじゃない?出来る事なら誰かの役に立てるよ。やりたい事でも出来なかったら人の役に立たないよ!誰かの役に立つって事が仕事ってもんでしょ?困ってる誰かの助けになるのか役に立つのがお金になるんだよねぇ。色々やって自分探しをちゃんとしなさい!」
「うーん。わかりました!」
「まだ若いんだからなんとかなるって!」
「はい!でもりむさんも若いですよね?」
「うん!若いよ!可愛いしね」
「今日もすっごい可愛いですよ!」
「でしょ?あんたは本当に可愛いやつだ!」
「今日は話聞いてくれてありがとうございます」
「いやいや、今日はたまたま!私は基本的に忙しいからね!」
「ははは!」
「じゃあ私買い物行かないとだから行くね」
「わかりました!ではまた!」
「あっ!これで払っといて!」
私はお気に入りの赤い財布から千円札二枚取り出してテーブルに置いた。
「そんな悪いですよ」
「いいのいいの!可愛い私が奢るって言ってるんだからありがたく貰いなさい!」
「すいません。ご馳走様です」
年下の女子大生はぺこりと頭を下げた。
「ホントに可愛いやつだなぁ」
「そんな事ないですよ。りむさんには敵いませんよ!」
「当たり前じゃ~ん!」
「ですよね!」
「そうそう!ちゃんと自分の生きる道は自分で決めなよ!誰かに自分の人生を預けるとか幸せを預けるなんて可愛くない生き方はだめだよ!私みたいに可愛くね!」
「はい!」
「We are all of us stars, and we deserve to twinkle.だよ!」
「どういうことですか?」
「誰もがスターなのよ。みんなが輝く権利を持っているって意味だよ!マリリン・モンローの言葉!」
「なんか素敵ですね!私も素敵な二十代に出来るように頑張ります」
「うん!頑張りな!そして私みたく可愛くなりなさい!」
「はい!」
「きっと大丈夫だよ!私が保証する!」
「ははは!ありがとうございます」
「じゃ!またね!」
そうして私はカフェを出ていった。








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