猫と私と犬の小説家

瀧川るいか

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私しか呼吸していない空間

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どうしてもカラオケに行きたい。一人でカラオケに行って歌いたい。お願いだから歌わせてほしい。
一曲だけで良いから歌わせてほしい。
歌も上手い。顔も可愛い。料理も出来る。
顔も可愛い。
あれ?私って最強じゃね?
姫カットってあるじゃん?
今の私の髪型は黒髪姫カットなんだけど。
「似合う!」「可愛い!」「まさにお姫様だね!」とか言われるんだけど。私だから当たり前なんだけど。

「常にいちいち可愛い私」

最近思う事は姫カットじゃなくて私の名前に因んで、りむ様カットって名前の方がいいと思うんだよね。

 ごめん!少し調子乗ってた。話を戻すとね。どうしてもカラオケに行きたい時ってない?
私はあるの!どうしても歌いたい曲が頭に浮かんでくると本気で歌わないとモヤモヤしてダメな時がある。
失恋した友達の前に本気で歌ったら私の歌を聴いて泣いていた事があった。懐かしい話。
自分でマイク持って歌ってる時も我ながら上手いなぁと思ってる。自分の歌声に酔いしれている。
マイクが本当に嬉しそうなんだよね、私に持ってもらって。

 という事で今はカラオケに居る。
プレミアムルームと呼ばれているワンランク上の部屋にいる。
何故か和風な作りで竹が刺さっていたり石ころが置いてあったり土足厳禁だったり大きい窓から外を見下ろせたりと可愛い私には相応しい部屋にいる。
因みにアプリでお気に入りの中から曲を選ぶのでいつも同じ曲を歌う。
最初はアニソンばかり歌う。他にも沢山歌う。
誰かといると地味に気を使って自分の歌いたいのを歌えない。
ストレス発散のカラオケ。今日は一人で歌いたい。
一人でカシスウーロン飲みながら枝豆食べながら歌いたい。前は煙草吸いながら歌えたのに今は世知辛い世の中でPeaceは吸えない。色々と変わる世界。今は専用の部屋に行かないと煙に包まれる事はない。懐かしいと振り返るほど生きてはいないけど懐かしいと思える。
正直めんどくさくて吸う本数が減った。
そんな事を考えていたらフロントからのコールが鳴った。

「はっ?うるさいなぁ!今何時よ?」
私はスマホを取り出し時間を確認した。
スマホの時計機能がイカれたかと思うくらい時空が歪んでる事に気付いた。二十二時頃に部屋に来た私。現在の時刻は朝六時の私。
「って寝てたーーーーー!!!!」
私は重たい身体をズリズリと引き摺りフロントからのうるさいコールを取った。
「は~い」
「そろそろ閉店のお時間なんですが!」
「あっ!はい!今すぐ出ます」
ガチャ!!
「痛っ!そんな強く言わなくてもいいじゃん!」
私は左耳を抑えた。インダストリアルと耳たぶに四個のピアスをしてる左耳を抑えた。ピアスが痛いわけではない。前は右耳に一つだけだったピアスは右耳に三個。
前はなにも無かった左耳は耳たぶに四個、憧れてたインダストリアルもしている。
気持ち的にダウナーな日々を送っていた自分自身に対して色々と誓いの気持ちを込めて、思い切って開けたお気に入りのピアス達だ。結構派手な耳。
 しかし、そんな強くインターホン切らなくてもいいと思う。可愛い私に失礼だ。
恐らく余りにも長い時間滞在していた事で店員がキレ気味で強いガチャを私に向けたのだ。可愛い私の耳に何かあったらどう責任取ってくれるのだろうか気になるところだが、カラオケは歌う場所であり寝る所ではない。
ごめんごめん。わかってるわかってる。
世界でリモートという言葉が浸透してきているから今後は様々な使い方が出てくると思うのだが、寝るという行為は許されないのだろう。いや許されないのではない。
流石に二十二時から六時まで居たのが不味かったのだろう。しかし、逆に考えたら八時間も可愛い私が居続けた空間というは非常に尊いのではないのだろうか。
そこに私以外の誰かが居たら価値は下がるかもしれない。しかし、私だけしか呼吸していない空間というと本当の意味でのプレミアムルームだと思う。

「だって私だよ?」

フリータイムを本当にフリーに使うのが、そんなにいけない事なのかと疑問思いながらプレミアムルームと呼ばれているワンランク上の部屋を出る事にした。愛するチャチャとメーの待つ家に帰る事にした。たまにはご主人様も息抜きしたいのだ。

かの有名なマリリン・モンローの言葉。
I am good, but not an angel. I do sin, but I am not the devil.
私は良い人間だけど天使ではないわ。私は罪を犯すけど悪魔でもないわ

可愛い私は罰を受けるような罪を犯したりはしない、絶対に。
可愛い過ぎるって罪は犯してるかもしれないけど。


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