猫と私と犬の小説家

瀧川るいか

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ポストにガムテープ

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鼻歌交じりに可愛い私が帰宅した。
安心安全のオートロックの自動ドアを解除し、今日もいつもと変わらずポストを見た。
「はっ?」
私の家のポストの様子が変だ。
最近は利用する人が多いポスト投函する青いアレがはみ出てる。凄くはみ出てる。
というかトビラから「こんにちは」してる。
「こんにちはとか要らないよ~」と私ははみ出してるアレを回収してトビラを閉めた。
「うん?」
閉めた筈が開いてる。プラプラしてる。
「いやいや!壊れてるじゃん!!」
管理人室へ急ぐ私。
ガラス越しに優しくノックすると管理人が笑顔で私を迎えてくれた。当たり前だ、可愛い私が助けを求めてるんだ。喜んで助けてくれるだろう。
「どしました?」
「私の家のとこのポストなんですけど、壊れちゃったみたいなんです。どしたらいいですか?」
「どれどれ。ちょっと見てみようか」
「あっはい!すいませ~ん」
管理人室から出てきて私の部屋のポストを見ている。喜んで直してくれるんだろう。
「うーん。これダメだね」
「えっ?」
「無理矢理引っ張ったりしたかで内側から壊れちゃってるんだよね。業者さんに頼んで直して貰うからしばらくこのままでもいいですか?」
「えーと。すぐ直りますか?」
「うーん。早く直して貰うようにお願いはしてみるから。安心してください」
「わかりました~」
自宅のポストが半開き状態で安心出来るわけがないのはわかっているが、今はしょうがない。
「じゃあ、しばらくはこうしておこうか」
そう言うと管理人は私の家のポストにガムテープで開かないようにした。
「これって配達員の人が無理矢理ポストに入れたからなったんですか?」
「多分そうかな~。さっき配達してる人来てたから。今度から気を付けるように伝えおきますんで」
「わかりました~」
私の家のポストだけガムテープ。
私の家のポストだけお姫様仕様ならわかる。
私の家のポストだけガムテープ。
茶色くて地味過ぎるガムテープ。

「絶対可愛くないでしょ?これ!」

壊れたポストに投函されていたアレを片手に私は自分の家に着いた。トビラに耳を近付けると愛猫達の可愛い声が聞こえる。足音で私だと気付くのだ。なんて可愛い生き物達なんだ。
「ただいま~」
家に帰ると下駄箱の上で大きなクマのぬいぐるみとメーがお出迎え。
「メー」
玄関ではチャチャが置物のように座ってお出迎え。
「ニャア~」
リビングに向かう私に合わせて付いてくる。
私に似て可愛い生き物だ。私という可愛い存在と共にいるから可愛いのだ。飼い主に似ると言う。しかし、可愛い私に相応しくないポスト。投函されたアレを見てると何故かムカついてきた。ソファーに寝そべり愛猫達に囲まれながらスマホで配達した業者に問い合わせてみた。可愛い私のお家のポストを、あんな姿にした犯人に文句を言ってやりたくなった。
「あっ!もしもし今日ポストに入っていたのについてお伺いしたのですが.........」
「どうなさいましたか?」
「厚みがあったのを無理矢理入れたみたいでポストが壊れてしまったんですが。どうしたらいいんでしょうか?」
「そうですか~。大変申し訳ございません。配達員にも今後このような事がないように伝えますので。本当に申し訳ございませんでした」
「はぁ。わかりました。個人情報とか色々とかあるので気を付けてもらいたいです~」
「おっしゃる通りです。はい!今後このような事がないように徹底致しますので」
「では、お願いします~」
「大変申し訳ございません。失礼します」
通話を切り、私はスマホをテーブルの上に置いた。
「ふぅ。なんか謝られるって気分良くないなぁ。チャチャとメーもそう思う?」
「ニャア」
「メ~メ~」
「だよねぇ。なんか最初は腹立ってボロカス言おうかと思ったけど.........」
ソファーに横たわる私を心配そうにチャチャとメーが寄り添ってる。
「ごめんごめん。君らのご主人様としてしっかりしないとだよね!可愛くて優しいご主人様じゃないと嫌だよねぇ」
間違っている事を「間違っている」と言うのは間違いじゃない。
正しい事を「正しい」と言うのは正しいかもしれないが、もしかしたら間違えてる事もあるのかもしれない。間違えてはいないが気持ちが良くない。
可愛い私が可愛くある為には可愛くない私にならないようにしないといけない。

可愛くない私をこの子達がどう思うのだろうか?
怖い顔してる私をこの子達はどう思うだろうか?
悲しい顔してる私をこの子達はどう思うだろうか?
きっと一緒に怖い顔してくれる。
きっと一緒に悲しい顔してくれる。
でも、私はこの子達にそんな顔して欲しくない。
だから、この子達の為に私は可愛い私でありたい。

だからポストにガムテープくらい笑い飛ばしている自分でいる事にした。この子達の為にも。
可愛い自分の為にも。



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