猫と私と犬の小説家

瀧川るいか

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アイドルに熱視線

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地元で有名な鉛筆みたいな建物。
完成した新しいガラス張りの大きな建物。
今は無き有名百貨店。
最近はもっぱらおじいちゃんあばあちゃん達が歩いている白い繭のようなアーケード街。
月と太陽とも目が合わない場所。
そんな色々とある町からバスに乗り、名所と呼ばれてる橋から日本一大きな川を眺めながら中心街に可愛い私が降臨。完全武装の姫が降臨。
遊ぶと行ったら恋人達がぶらぶらしちゃいそうな場所が好き。可愛い駄洒落。嫌いじゃない。
バスを降りて目の前にコンビニがあるので脂肪を燃焼するお茶を一本とくるみとココナッツのキャラメリゼを五袋買った。お気に入りブランドリュックに買ったおやつを投げ込み店を出た。可愛い私は甘いのが好き。しかし、糖質は気になる。
なので基本的に糖質オフを好む。そして気に入ると備蓄しておかないと気が済まない。いつ無くなるか心配だからだ。
好き過ぎて買っていた南高梅のドライフルーツがあったのだが可愛い私があれだけ好きだってのにも関わらず、どこに店に行っても取り扱いがないという出来事があったのだ。
余りにも辛くて行き付けの店の店長に聞いたら「あれね~カットだねぇ。もう取れないんだ~」と言われて可愛い私の味覚に世の中が追いついてきてない事を痛感してから多めに購入するようにしている。

「食べたい物を食べて何が悪い?」

お店を出て右に曲がり、地下道に続く階段を降りると地元の歴史を紹介する場所がある。当たり前過ぎて地元の歴史の場所は見た事はない。
その前で女の子達が踊りの練習をしている。
大きなガラスを鏡代わりにして練習をしている。
最近ではよく見る光景だ。
そんな女の子達を横目に可愛い私は地下道から地上に続く階段を登った。
階段を登る時は両手は後ろ、それが姫のルール。
少し動いただけだが息が上がる。
何故だか息が上がる。
「ふ~。さてさて」
スカートのポケットからスマホを取り出し時間を見た。
「あ~五時なるなぁ~混んでるかなぁ」
大好きなハンバーガー屋に行くのが目的。
どうしても食べたくなったんだ。
ここのライスバーガーが死ぬほど好きなんだ。
地下道から上がると直ぐ側にあるハンバーガー屋。私の中でハンバーガーと言ったらここなのだ。寧ろ、それ以外は食べないと言っても嘘ではないくらい好きなのだ。
店内に入ると誰も居ない。
取り敢えず備え付けのアルコールを手に吹き付け、レジに向かった。
珍しい事に私だけ。
前はこの時間は若い子達で溢れかえっていたのだが不思議なものだ。
「いらっしゃいませ!店内でお召し上がりですか?」
「は~い」
「ご注文をお願いします」
「牛肉のライスバーガーとアイスティーお願いします」
「かしこまりました」
会計を終わらせ、番号札を受け取り窓際の席に座った。
店内から街中を眺めながらライスバーガーで満たされる自分を想像してニヤニヤしていた。そんな事を考えていたら店員が私の大好きなライスバーガーとアイスティーを持ってきた。
「お待たせしましたー」
「あっ!は~い。どうもで~す」
可愛い私の食事がテーブルに置かれた。番号札を店員に渡すとお辞儀をして去っていった。
「やっぱこれだよなぁ」と ライスバーガーにかぶりつく私。
窓の外から見ても食べている私は可愛いのだろう。
こんな可愛い私が食べているライスバーガー。
こんな最強レベルの広告はこの世の中にはないはずだ。
しかし、店内には誰も居ないのが寂しい。誰もない店内だが厨房は忙しそうだ。
入店の音と共におじさんが黒い大きなカバンを持って入ってきた。
「おつかれさまでーす」
店員に何やら番号を告げて商品を預かり足早に店を出ていった。最近流行りの宅配サービスだ。
私もよく利用しているサービス。
チャチャとメーと離れたくない時。チャチャとメーが離してくれない時。
ゲームで忙しい時。アニメ鑑賞で忙しい時。
家から出たくない時。家から出ようと思ったけど出る気力がなくった時。
私もよく利用しているサービス。しかし、可愛いぬいぐるみ欲しさでクレジットカードを止められてしまって今は利用出来ない。今の私は受け取れないサービス。来月まで私はお預けのサービス。正直、困っている。

ライスバーガーを食べ終わり、アイスティーを飲みながら外を眺めている可愛い私。
ぞろぞろと高校生が入ってきた。仕事帰りと思われる人々が入ってきた。店内が賑やかになってきたので可愛い私はアイスティーを飲み干し店を後にする事にした。
店に外に出ると色白で細身で猫背気味の女の子が可愛い私の前を歩いて行った。
「あれ?もしかして」
地元で有名なアイドルの女の子が歩いていた。街中あるある。
特に可愛い私が推している女の子が歩いていた。マスク姿でも隠し切れない可愛さ。
「今は黒髪なんだぁ~。あ~可愛いなぁ」
そんな事を考えながら可愛い私は可愛い地元のアイドルの女の子の後ろを同じスピードで歩き始めた。
「いやぁ、しかし細いなぁ~」
「リュックから羽根生えてるんだぁ」
「可愛いなぁ」
「誰も気付かないのかなぁ」
そんな事を心の中で言い合ってる私も負けじと可愛い。可愛い私は可愛い女の子には敬意を払うのだ。
同じ可愛い生き物同士仲良くしたいのだ。
でも同じ匂いがするので仲良くなるには恐ろしいくらいの時間が必要だろう。
「いいなぁ~可愛いなぁ~」
付かず離れずの距離で可愛い姿に熱視線を送っている可愛い私。
「洋服とか見てる姿も可愛いなぁ」
「化粧品とかアレ使ってるんだぁ」
「雑貨屋さんとか行くんだぁ」
「エスカレーターとか乗るんだぁ」
可愛いレベルを上げる為にも可愛い女の子を生で見るのは勉強になる。
「応援してます!」とか「いいね!連打してます」とか言いたい気持ちを抑えながら熱視線を送る。
ふと、気付いた。

「これ完全にストーカーじゃん!」

そんな気持ちが芽生えたら罪悪感に苛まれた。
恥ずかしくなり可愛い私は買い物の楽しんでいる地元のアイドルの女の子から離れていった。



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