猫と私と犬の小説家

瀧川るいか

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激情後悔

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「はぁ~。いい映画だった~」
映画が終わりスクリーンを後にする人混みの中で可愛い私は感動を噛み締めながら心の中で叫んだ。
待ちに待った映画。死ぬほど楽しみにしていた映画。
原作を読んで死ぬほど泣いたにも関わらず映画を観て涙が止まらなかった。人が多い場所ではマスクはするように心掛ける可愛い私。黒いマスクが涙と鼻水でビショビショになり深みのある黒になるくらい可愛い私の中から水分が飛んでいった。メイクも落ち放題だが、この時だけはマスク様と呼ばせて欲しい。メイクが落ちても可愛い私だが全く知らない人に中途半端な状態を見られたくない。
「ありがとうマスク様」

 二時間後。
「あぁ~やっぱり堪えきれなかったなぁ。また泣いちゃったなぁ」
映画が終わりスクリーンを後にする人混みの中で可愛い私は感動を噛み締めながら心の中で叫んだ。
原作を読んで結末を知っているのにも関わらず、私の中の水分を持っていく制作会社様の圧倒的な映像美は素晴らしい以外の言葉が思いつかない程だ。喉が乾き、劇場の外で泣きながら脂肪の燃焼を助けるお茶を飲みながら余韻に浸っていた。
新しいマスクに変えて臨んだがやはりビショビショになってしまった。
「ありがとうマスク様。そしてごめんよぉ」

 二時間後。
「あぁ~絶対あのシーンで泣いてしまう。なんでこんなにも感動しちゃうんだろう」
映画が終わりスクリーンを後にする人混みの中で可愛い私は感動を噛み締めながら心の中で呟いた。分かってはいるんだけど涙が止まらない。悲しくて映像を観れなくても声優様の演技、声だけで迫り来る迫力で胸が締め付ける。分かってはいるんだけど涙が止まらない。マスクを交換するのは三回目。
もう既に限りなくすっぴんに近い私。安心してください。まだ眉毛はあります。
「ありがとうマスク様。君のお陰で心お気なく涙を流せる。普段は可愛い私の顔を隠す邪魔者みたいに思ってごめんね。わかってるわかってる。今はしょうがないんだよね」



 二時間後。
「うぅぅぅ」
映画が終わりスクリーンを後にする人混みの中で可愛い私はすすり泣きながら歩いていた。
終わりを知っている。
ネタバレしているのにも関わらず涙が止めらない。私ってこんなに泣けるんだと教えてくれた原作者様にホント感謝。作品に触れて色んな気持ちが生まれました、ホントに感謝。
激しい感情の連続でアドレナリン出まくりでエモい状態の私。四回目のマスク交換。きっと泣くだろうと思って予備のマスクを用意していた事について自分で自分を褒めてあげたい気持ちでいっぱい。
映画を見終わってぞろぞろと出ていく人混みを見渡すと泣いてる人が沢山いた。
家族やカップル。若い男の子のグループ。女の子グループお爺さんおばあさん。色々とアニメの映画は見たけど、こんなに年齢層の広い映画は初めてだ。
所謂、社会現象というのはこういう事なのだリアルタイムで経験出来た事を嬉しく思う。
そして同じ作品を沢山の人で同じ気持ちで見れる事は凄い事なんだと改めて実感した。
人混みに紛れながらも、私の圧倒的な可愛さは目立っているんだろう。
「いい映画だった~。あっ!パンフレット買わないと!」
あれ程の素晴らしい映画を見たのだからパンフレットは買わねばならない気持ちで物販コーナーに並び豪華な方のパンフレットを買った。可愛い私が並んでも手に入れたいくらい素晴らしい映画だった。
「あっ!トイレ行こ!」
可愛い私の顔面レベルが確実に維持できているか心配なのだ。気になる気になる。メイクは落ちているのは分かっている、あれだけ泣いたんだ。当たり前だ。トイレに入ると、いや敢えて化粧室と呼ぼう。女子にとって化粧室は大切な場所。
化粧室に入ると幼稚園くらいの女の子が母親と一緒に手洗いをしている。素敵な光景。
そんな光景を眺めていると「あっ!ごめんなさい!鏡ですよね?ほらっ!おねえさん待ってるから早くしない」と母親が女の子を急かした。
「まだー!!」と女の子は手洗いを止めようとしない。
「そんな気にしなくていいよぉ~私は気にしないから、ゆっくり手洗いしていいからね~。ちゃんと手洗い出来てえらいえらい!」
可愛い私は可愛い女子には優しいのだ。
そんな会話していたら隣の鏡が空いたので女の子の隣に立ち今の自分の顔面レベルを確認した。
「はっ?これ誰よ?」
普段よりもかなり早起きしてセッティングに二時間。
完璧な私のメイクが涙でボロボロなのはわかっていた。
「おねえちゃんどしたのー?」
「うんうん!何でもないよ!」
「おねえちゃん!目の周りパンパンだねぇ~」
「そ~だねぇ。ホントはもっと可愛いんだよぉ私」
「そーなんだー!じゃあね~」
「バイバーイ!」
女の子に手を振り、母親に会釈をして親子は私の元を去っていった。
鏡の前で私は愕然とした。感動し過ぎて。涙を流し過ぎて。
顔がパンパン。目の周りがパンパン。
マスクをしているせいもあり目の印象が殆どになる。
感動し過ぎて涙を流し過ぎて、私の可愛さが落ちた事は後悔かもしれないが、「ありがとう。悲しみよ」と歌っている小さな子供の姿を見て、可愛い私が涙を流して少し納得のいかないクオリティになってしまった事は悪くないと思えた。
流行歌は時代を映し出す一つの指標だと思う。
それに感動出来た事に可愛い私は改めて嬉しいと実感。
可愛い私が同じ映画を四回見た日の出来事。

「いやぁ~確実に円盤買うよな~そしたら確実に百回は観ちゃうなぁ~」



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