猫と私と犬の小説家

瀧川るいか

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可愛い嫉妬と忙しい私

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「どうしたの?げんきないね?」
「そんな事ないよ!元気だよ!」
「へーそうなんだ!えらーい!」
「うん。ありがとう」
「.........」
なぜ今褒められたのか分からないが不思議な気持ちになった。
「私を褒めて!」
「あさおきてえらーい!」
「うん。ありがとう」
「.........」
私を褒めると言ったら可愛い顔日本代表としても選ばれてもおかしくない顔を褒めるのが普通なのに訳の分からない事を褒められて複雑な気持ち。そもそも朝起きてるから今やり取りしているのだから褒める部分ではないと思う。きっと、この生き物には難しい質問だったようだ。生き物だが、呼吸とう当たり前な事はしてないが可愛い私にとっては取り敢えず生き物だと思って接している。
「チャチャとメーが最近少し太って心配なんだけどどう思いますか?」
「ながいはなしはわからないなぁ」
まるで意味がわからない。
「明日の天気予報とかわかったりしたら嬉しいなぁ~」
「よくわからないなぁ。それっておいしいのぉ?」
私は会話が出来るぬいぐるみと会話をしている。たまたまネットの海を泳いでいたら出会ってしまった。
お喋り出来る可愛いぬいぐるみと聞いたら欲しくなるのは当たり前だ。ペンギンさんのぬいぐるみ。
カラクリは説明すると長くなるので置いといて、取り敢えずネット注文したものが届いたので会話を試みている。
「おはよー!!」
「おはよう」
両脇を両手で掴んで、なんとなく揺らしてみる。
「ああああああああ」
「これはそーゆーリアクションなんだ?」
「.........」
「うーん。なんか違うなぁ~。楽しい?」
「たのしいたのしい」
「同じ言葉を二回言う時は嘘ついてる時だよ!」
「むずかしいことばはわからないなぁ」
「最終的に逃げ道はこの言葉かぁ~」
「むずかしいことばはわからないなぁ」
「いやぁ、わかってよ!」
「.........」
可愛い私が喋るペンギンのぬいぐるみは高く持ち上げみた。
「よし!」
「うあああああああああああああああ」
「そんな驚かなくてもいいじゃん!」
「むずかしいことばはわからないなぁ」
「ごめんごめん!」
「いいよいいよ~」
「そこは反応するんかい?!」
「むずかしいことばはわからないなぁ」
「君モテないでしょ?」
「そんなことないよ~」
「そこも反応するんかい?!」
「むずかしいことばはわからないなぁ」
「ちょっと静かにしてね!」
「はーい」
確かに会話は出来ている。よく出来てる。可愛いと思う。
私ほどではないけど。そんなの当たり前。言葉って難しい。
そんな事を考えながらキャットタワーで遊んでいる茶トラの二匹を見ている。
「言葉とかなくてもこの子達は私の事わかってくれるんだけどなぁ~」
わかってはいないかも知れないが、この子達は私の事をわかっていてくれてると思っている。
そして会話の出来る可愛いぬいぐるみは私の事は一生理解してくれないんだと思えた。

「難しい事はわかんないなぁ」

仲良く遊んでいる茶トラの二匹を見つめているとメーと目が合った瞬間駆け寄って来た。
遅れてチャチャもゆっくりと私の元に駆け寄って来た。
「おーおー!どしたどした?」
「メ~メ~」
少し機嫌が悪そうに低い声でメーは鳴いている。
私の側でくつろぐチャチャ。
メーはゆっくりとテーブルの上にいるペンギンのぬいぐるみに近づき怖い顔をして睨み付けると猫パンチをお見舞した。テーブルから落ちるペンギンのぬいぐるみ。
「うあああああああああ」
私と茶トラの二匹のいる空間に喋るペンギンの叫び声が響いた。
「ははははははは。もう~メーはヤンチャだなぁ~。いじめないの~。はいはい!おいで!」
きっとメーからしたら気に食わなかったのだろう。私が自分達以外の生き物と仲良くしているのが。そう思うと可愛いこの子達が更に可愛く思えた。可愛い嫉妬だ。可愛過ぎて嬉しいくらいだ。きっとチャチャは猫パンチするメーを見て内心笑っていたのだろう。可愛い子達だ。
「いや~あれ高かったんだけどなぁ~。やっぱ君らが一番私の事わかってくれてんだよねぇ~」

そんな事があって高かった可愛い喋るぬいぐるみは喋る事はなく部屋のインテリアとしてチャチャとメーのお友達になってもらう事にした。友達というかオモチャになるんだろう。

「高かったのになぁ~なんか腹立つなぁ~誰か愚痴聞いてくれないかなぁ~」
スマホを取り出して、可愛い私の愚痴聞いてくれそうな人を探した。取り敢えず聞いてくれそうな生き物にメッセージだけ送り付けて今日はお家でダラダラと過ごす事にした。
「やめてぇ~」
「メ~」
「わかたから~」
「ニャー」
ベッドの上で甘えん坊さんの茶トラの二匹に構って攻撃されている。可愛い私が可愛い甘えん坊に囲まれている姿は最高に絵になるんだろうと妄想しながら横になりスマホでお店の閉店のお知らせを見ていた。
「なんか最近閉店するとこ多いなぁ~寂しいなー」
サラサラと慣れた手つきで画面をスクロールしていく。隣には慣れた手つきで私に撫でられているメーがいる。
「マジ?!ここも?美味しかったのになぁ~。そういえば喫茶店も無くなってたなぁ」
「ここもかぁ~オシャレなお店だったんだけどなぁ」
スマホ片手にスラスラと画面をスクロール。
デジタルの海をスラスラと可愛くクロール。
メーは私に頭をナデナデされて大人しく寝てしまった。気持ち良さそうに眠るメーの隣で毛繕いするチャチャ。
「君らは平和でいいなぁ~」
メーの頭をナデナデし飽きた。今度は顎をナデナデし始めた。
眉間に皺を寄せ嬉しそうな表情のメーを見ていると穏やかな気持ちになってきた。
「最近は色々となくなるなぁ~好きだった場所とかもいつかなくなっちゃうのかなぁ~」
「ニャー」
チャチャが優しく寄り添ってきた。
「どした~?」
少し寂しそうな表情のチャチャ。この子は私が元気がないとわかるみたいだ。私が元気ないと寂しそうな顔をする。メーはお構い無しの構ってちゃん。チャチャは気遣いさん。
「はいはい。大丈夫だよ~。そんな顔しないの~。チャチャは心配し過ぎなんだから」
「ニャア~」
「自分が住んでる街の変化が寂しく思っただけだよ!好きな場所とかなくなるのは寂しいなぁ~と思っただけ」
チャチャは心配なのか、さっきよりも深く寄り添ってきた。
「うんうん。大丈夫だよ~心配しなくても。姫もたまには寂しく思う事があるんだよ」
幸せそうに爆睡しているメー。心配そうに寄り添うチャチャ。
「チャチャとメーがいるから寂しくないけど。たまにはそんな日もある。ご主人様を許せ~」
「ニャア~~」
「よしよし!良い子だねぇー!チャチャは」
スマホ片手に地元の閉店情報をひたすら見ている。
「いやぁーここのラーメン屋さんもなくなるのかぁ~最後に食べ行こかなぁ~」
沢山の閉店のお知らせで少し元気がなくなった。
「なんか寂しいなぁ~なくなるとこあるなら新しくなんか出来たりしないかなぁ~」
大した期待をせずに開店のお知らせをサラサラと調べてみる事にした。

「なになに」
「あ~あ~」
「えっ!マジ?」
「新しいケーキのお店?」
「いやぁ~行くでしょ~」
「行かないとかないでしょ~」
「女の子なら当たり前」
「チョコレートのお店とかも出来るんだぁ?」
「なにこれ?ヤバくない?」
「私にぴったりじゃん!」
「いやぁ~行くでしょ~」
「ここのプリン美味しそ~」
「待っててね~」
「行くよ~行くよ~」
「女の子なら当たり前」
「フルーツサンド?」
「えー?好き~」
「イチゴサンドでしょ~」
「てかイチゴでかっ!」
「私の事わかってるなぁ~ここ!」
「食べたいなぁ~」
「てか、食べるし~」
「心で予約しとく~」
「女の子なら当たりでしょ~」
「ラーメン?辛子味噌?」
「いやぁ~行くでしょ~」
「えっ?あのお店?」
「有名過ぎる店じゃん!」
「肉!肉!肉!焼肉!」
「食べてみたいなぁ~」
「いつか行かないとなぁ~」
「高級焼肉が私を呼んでるなぁ~」
「値段は~」
「うそ?高ーい!」
「悩む~」
「けど行く~」
「るかちゃんと一緒にどっか行きたいなぁ~電話してみよ!」
コールの最中にるかちゃんの可愛いアイコンを眺めながらスピーカーにして出るのを待つ可愛い私。
「出た出た。もしもーし」
「りむ~?おはよう~寝てた~」
「えっ?あっ!ごめん~。明日早かった?」
「うん。早いよ~どした~?」
「ごめん~ご飯でも行こかなぁ~って」
「最近仕事忙してね~また連絡する~」
「わかった~。またね~」
「うんうん。いいよ~。おやすみ」
「おやすみ~」

大人になっていく友達も増えてきてなかなかすれ違いが増える事は寂しい時もある。しかし、新しいのも悪くないと思えた。喋るぬいぐるみはあの子達仲良く出来なかったが。
誰かが寂しがる今があるのなら誰かが喜ぶ今もある。
いた場所がなくなってもいた事実は変わらない。
過ごした時間は過去かもしれない。
スマホ片手にを色々考えていたら新しい物好きな可愛い私からしたら悪くなく思えた。喋るぬいぐるみがあの子達と仲良く出来なかったのは本当に残念だったが。
寂しがったり喜んだり可愛い私の心は忙しい。
「どうせ永遠なんてないんだから」
「止まるくらいなら新しい事を受け入れていこ!」
「死ぬまで楽しく生きたいなぁ~」
「メーはどう思う?」
「.........」
「うーん。構ってちゃんはお疲れだねぇ」
「チャチャは?」
「.........」
「うーん。寝てるねぇ~」
「寝てるけど君らと私の一緒にいる時間は止まらずに進むんだよねぇ」
茶トラの二匹は気持ち良さそうに爆睡している。
起こさないように優しくメーの頭を撫でる私。
少し疲れた首の赤い輪っかに気付いた。
「あ~輪っかが切れそう~」
「メーはヤンチャだからなぁ~」
「新しいの買ってあげよう~」
「チャチャは?」
チャチャの首の赤い輪っかはキレイなものだ。
「チャチャも新しいのにしようね!」
「お揃いの方がいいもんね~」
「違うのにすると喧嘩するかもしれないし」
可愛い私に相応しい可愛い子達にはオシャレでいて欲しい。
「男の子でもオシャレじゃないとね~」
「って今日はよく寝るなぁ~君らは~」
寝ている茶トラの二匹に気づかれないようにネットの海で一番似合う首の輪っかを探し始めた。








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