猫と私と犬の小説家

瀧川るいか

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だって姫だもん

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むかしむかし、あるところに「りむ」という、それそれは可愛い可愛い女の子がいました。
「あら~なんて可愛い!」
「ホントだ!なんて可愛いんだ!」
「国宝級に可愛い~」
「みんなで大切にするんだ!」
「笑った笑った!可愛い可愛い」
「笑わなくても可愛いぞ!」
「なんか声も可愛いなぁ~」
「まるで天使!」
「将来はアイドルだなぁ」
「そうだ!そうだ!アイドルだ!」
「アイドルなんて失礼よ!お姫様でしょ!」
「うんうん、お姫様!お姫様!」
「みんなのお姫様だね~」
そんな言葉を聞きながら生きてきた。 そんな言葉に憧れながら生きてきた。小さい時から可愛いのが当たり前。
大人達から可愛いと言われるのが日常。
大人達から優しく褒められているのが日常。
それ故に生きにくいと感じる事もあった。
優秀が故に生きにくいと思う事もあった。
成長して子供のような大人のような歳になった今でも可愛いと言われるのが日常。
今は生きにくいという気持ちは和らいだ。

「私は誰よりも可愛いんだ」 

ずっと言い続けていたい。それは私のプライド。
誰になんと言われようと今は変わらない。
「可愛い」と言われるし、自分でも言う。
「可愛い」と言う事でも自分と約束している。
可愛いく在り続ける契約をしている、きっと。
可愛く在りたいのなんて女の子なら当たり前。
お姫様で在りたいのなんて女子なら当たり前。
アイドルなんて言われたくない。
お姫様と言われ続けたいんだ。
「可愛い」と言われなくなる自分が正直怖い。
本当は怖いんだ。「可愛い」と言われなくなる恐怖があって、それが怖いと思う事があって内緒だけど日々体調管理やら筋トレやらメイクの勉強をしている。
女の子なら当たり前。
「何かしてるの?」と聞かれても「何にもしてないよ~全然気にしてないよ~タバコだって吸うし~」なんて答える。
女の子なら当たり前。
「こんな洋服を着てみたい!」
「私の為のデザインだ!」
「きっと可愛い」
こんな気持ちが出てくると頭の中でイメージする。
自分が着たらどんな風になるのかを。
靴は?
靴下は?
スカートの丈は?
膝下はどのくらい?
袖口は?
腕はどのくらい出る?
ネイルと合う?
首元は開きすぎてない?
清楚感はある?
上品さはある?
髪型は?
メイクは?
アクセサリーは?
全てイメージする。
立ち姿をイメージする。
動いた時のシルエットをイメージする。
全体のバランスは大事なんだ。
可愛さに下品さは必要ない。
完璧に武装する為にドール人形に似た服を着せて試してみる。
変でしょ?
でもね。
男からしたら、たかが洋服かもしれない。
男からしたら、たかが布切れかもしれない。
男からしたら、どうでもいい事かもしれない。
しかし女の子にとって洋服は全てがドレスなんだ。
自分を守る為の鎧なんだ。
可愛く魅せるための重要なアイテムなんだ。
たった一つのボタンだけでもアクセサリーなんだ。
プロによって細部までこだわり抜いて作られた洋服を自分の中でバランスを確認してからショップに行って買う。凄く悩む。勿論、購入してから気に入らない事もある。
妥協はしない。
妥協した可愛いは要らない。
完璧な可愛いしか要らない。
可愛い洋服を纏う自分が可愛くないのはデザインを考えた方々に申し訳ない。
可愛い洋服を纏う自分が太って本来のデザインから遠ざかるのは申し訳ない。
自分自身にも申し訳ない。忘れたらいけない気持ち。
「そんな事気にしなくてもいいんじゃない?」とか言われるかもしれない。
でも、私は気にするんだ。誰よりも気にするんだ。
絶対に気になる。
気にしなくなったら私は終わりだと思ってる。
街を歩く自分。
ショーウィンドウに映る姿は可愛くないと嫌だ。
しっかりと体のラインにフィットするように着こなしたい。
間違った着方をして太ってるとか思われるなんて絶対に嫌だ。有り得ない事だ。
「全然太ってないのに」
「太ってる訳がない」
少しでも太ったりすると嫌な気持ちになる。
毎日体重計に乗る。
女の子なら当たり前。
決まった数値を維持したい。
「そんなに気にしなくてもいいんじゃない?」とか言われる。
少しでも体重が増えてると悲しくなる。
少しでも体重が増えてるとムカつく。
「だって姫だもん」
「太ってる姫はやだ」
「細過ぎる姫もやだ」
「丁度いい姫がいい」
そんな重圧に押し潰されないように努力してる。
食べたいのを我慢する。姫でいる為に我慢は必要。
基本的に一日の摂取カロリーは千六百キロカロリー以下。
食べたい物を我慢するのは正直時々辛い。
たまにご褒美にスイーツは当たり前。
たまのご褒美にお肉はしょうがない。
そして眠たくても筋トレはする。
腹筋、背筋、腕立てはしないと。
眠たくてもヨガはしないと。
体型維持も姫の使命。
「だって姫だもん」
「姫でいたいもん」
「姫って言われたいもん」
「姫がいいだもん」
そんな事を考えながら気付いたら寝ちゃっていた。
いつも寝て起きるのが怖い。
起きたら姫じゃない自分になっているのが怖い。
しかし、今日も目が覚めて安心出来た。
鏡に映った自分を見て安心出来た。
「今日も起きたら姫だった~」
私が目覚めると茶トラの二匹も大きなアクビをして起きる。そして二度寝をしているとメーに顔を舐められて起きる。それを見ているチャチャ。
私の朝はいつもメーに起こされるのが日常。
可愛い茶トラの二匹と共にいるのが日常。
大好きな家族といる大切な日常。
「おはよ~」






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