猫と私と犬の小説家

瀧川るいか

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選びきれないよ

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一週間の療養期間を終えた可愛い私が一番にしたい事。
アイスを食べる事。
身体が灼熱の炎で焼かれている中、浮かんだ事。
アイスを食べる事。
髪の毛をしっかりとアイロンで整えて、誰にも負けないようにオシャレをする。
「邪魔しないの~」
最近メイクしているとメーが邪魔してくる。一時は良い子だったが最近は甘えん坊爆発で私が出掛ける準備を始めると邪魔してくる。でも、私は負けない。
「眉毛描いてるから~」
片手で眉毛を描きながら、片手でメーの首元を撫でる。
自分にも家族にも愛情を注げる器用さが身に付いた。
「メ~メ~」
気持ち良さそうなメーをチラ見しながら、ちゃんと眉毛を描けるようになった。
セッティングを終え、玄関で靴を履いているとチャチャとメーはしっかりと御見送りしてくれる。
「行ってくるね~ちゃんとお留守番頼むね!帰ってきたら、いっぱい遊ぼうね!」
可愛い茶トラの二匹の頭を撫でて家を出た。
マンションを降りると、じいじが待っている。
「じいじ~元気なったよ~アイス食べ行く~」
「りむさん!じいじは嬉しいですよ!再び元気なりむさんに会えて!参りましょ!」
「行く行く~」
後部座席に乗り込み、じいじの優しい運転で街の中心街へ。
「今日は天気良いね~」
「そうですね!今日は気温高いので水分補給忘れずにしないとですよ!」
「大丈夫~。お茶持ってきてる~」
「ははは!流石です!」
そんな会話をしているとあっという間に、いつもの商業施設に着いた。
いつものように運転席から後部座席にドアを開けに来るじいじ。
「ありがと~じいじ~。そういえば自動ドアにしないの~?」
「じいじは昔ながらの人間で自動ドアは好きになれないんですよ。乗って頂いたお客様の見送りは車の中からではなく、外に出て最後までしたい気持ちでいるんですよ。そしてお客様が見えなくなるなるまでお辞儀をするのがマイルールなんですよ!」
「あ~プロだね~じいじは~」
「ありがとうございます!」
「じゃあ行ってくるね~」
「行ってらっしゃいませ!」
手紙のお礼を言おうと思ったが、言葉で返すと安っぽくなる。私が出来るお礼があるのなら、これからもじいじの車に乗る事だと思い口にはしなかった。心の中では感謝しかない。
何度も振り返り、姿が見えなくなるまで深々と頭を下げているじいじの姿は誰よりも美しくカッコ良く思えた。
「さーて!アイス食べる~」
入口の自動ドアが開き、エスカレーターで三階へ。
現在の時刻十時二分。ここの商業施設は十時開店。
この時間は人が少なく、好きな時間。
私の為だけに開けてもらってるような感覚。
アイスケースの前に立ち、三十一種類あるアイスの中から選ぶ。
「え~。選べな~い~」
一回でいいからしてみたい事、「一種類ずつください!」と言って、テーブルの上に三十一種類のアイスを並べて溶ける前に全て食べる事。女の子なら憧れる。甘い物好きなら憧れる。ホールケーキを一人で食べれる私ならいける気がする。
そんな妄想は忘れて、今食べたいアイスを選ぶ事にした。
「やっぱトリプルだよね」
欲張りな私は沢山の味を食べたい。私くらい可愛いとシングルでは足りない。ダブルでも物足りない。ワガママな私の胃袋にはトリプル位でないと満たされないのだ。
「すいませ~ん」
「は~い」
若い女性の店員が爽やかな笑顔で迎えてくれた。
病み上がりの可愛い私には嬉しい事。
店員が愛想良いか悪いかでモチベーションが変わる。
「トリプルで~マンダリンオレンジチーズケーキとストロベリーチーズケーキとポッピングシャワーお願いしま~す。店内で食べていきます!」
慣れた手つきでメモを取りながら会計を進めていく。たまに思うのだが、デジタル社会の中に存在する文字を書くというアナログ感というのは個人的に好き。
「五百八十円でございます~」
「は~い。じゃあ六百円でお願いします」
「では二十円のお釣りでございます!」
「は~い」
「では、持っていきますので席でお待ちください」
「は~い」
誰も居ない店内で、ちょこんと座り念願のアイスを待っている。距離を取らなければいけないせいで席は少なくなっている。少し寂しく思うが仕方の無い事だ。
「すいませ~ん。お待たせしました~。ごゆっくり~どうぞ~」
「は~い。ありがとうございます~」
テーブルに念願のアイスを置き、食べる前の儀式。
写真を撮影する。食べ物を撮る時は専用のカメラアプリで撮る。SNSどうとかではなく、自分自身の記念の為に撮るのだ。そして音は出さずに撮影する。
「はぁ~色合いから何から何まで~私好みだ~」
見とれていると溶けてしまう儚さ故に直ぐに食べなければいけないのが悔やまれるくらい愛おしい食べ物。
それが今の私にとってはアイスなんだ。
死ぬ程辛かった体調不良の中、何度も夢に出てきたアイス。
身体が辛い時に私を支えてくれたのは、間違いなくアイス。
「頂きます!」
両手を合わせ、ピンク色のスプーンで口にアイスを運んでいく。
「あ~蘇るな~」
シンプルに好きなのを選んだ。チーズが多い。チーズ好きな私にはたまらない。ポッピングシャワーのパチパチ感も、チーズに負けないくらい相性が良くて私は満足。
あっという間、スモールサイズ三個分は胃袋に消えた。
「よし!まだいける!」
そう言うの席から立ち上がり、再びアイスケースの前で選び始める。
「あ~ストロベリー。やっぱイチゴいいなぁ~」
「ミントも~好き~」
「すいませ~ん」
レジにメニュー表を見ながら、再び注文をする。
「バナナアンドストロベリーと~ベリーベリーストロベリー
と~チョコレートミントをトリプルでお願いします~」
「ありがとうございます~五百八十円でございます」
「六百円でお願いします~」
「二十円のお釣りでございます。あっ!じゃあ、また席まで持っていきますね~」
「あっ!すいません。ありがとうございます~」
再び席に座りアイスを待つ。
「お待たせしました~」
「は~い」
今度は大好きなストロベリー。フルーツ系のアイスは昔から大好きで食べると子供の頃を思い出す味。
ピンク色のスプーンで愛しいストロベリーを口に運んでいく。
「あ~これ~」
大好きなストロベリーが口の中で暴れ回って、歯止めが効かない。嬉しい気持ち。
「最後はサッパリとミントだよね~香りがいい~」
そう言ってストロベリー達の締めにミントを食べた。
「あ~まだいける~」
別腹の奥の別腹が存在すると思えるくらいアイスは収まる謎の胃袋。
「でも~少し休憩~」
少しずつ人が行き交うようになってきた、施設内。アイス屋さんは相変わらず私一人だ。日曜日だと込み合ってとても入れない。この時間なら落ち着いて食べれる。
「さてさて~デザートのデザートにしよ~」
再びアイスケースの前に立ち、選び始めた。
ニコニコしながら店員が見ている。
私もニコニコしながらアイスを選ぶ。
「パンプキンショコラと~抹茶と~ナッツトゥーユー!お願いします!」
「え~とトリプルですよね?」
「はい!」
敢えて普段なら選ばない味を選んだ。この日の為に百円玉を用意しておいた。会計で時間を取りたくなかった。そのくらい今日はアイスに埋もれたかった。
「ありがとうございます~」
「六百円でお願いします~」
「ありがとうございます~では二十円のお釣りです~。じゃあ~また席まで持っていきますね~」
「何度もすいません~」
「いえいえ~」
同じ席に座り、同じようにアイスを待つ。
「お待たせしました~」
「ありがとうございます~頂きます~」
テーブルの上に三度目のアイスが届いた。
「初めてのパターン。楽しみ~」
ピンク色のスプーンで三度目のアイスを食べ始めた。
「あ~抹茶うまい~。これはいい~。サッパリしてていいね~」
このチェーン店で初めて食べる抹茶のアイスに感動しつつ、パンプキンショコラを食べた。
「やっぱ~カボチャ系はいいね~嫌味のない甘さ~」
そして気になるナッツトゥーユー。完全に言いたいだけで頼んだ味。
「あ~好き~。ナッツいるじゃん!なんで今まで頼まなかったんだろ~」
ナッツ好きな私にも刺さる味。今後のアイスの主戦力候補。
「いや~いいな~てか外れないな~」
そんな事を言いながら食べ終わるとピンク色のスプーンを赤ちゃんのおしゃぶりのように口にくわえてしまうのは昔からの悪い癖である。
カップのスプーンをゴミ箱に入れ、爽やかな女性店員に頭を下げて店を後にした。
「あ~食べた~食べ過ぎた~姫は満足だ~」
お腹をポンポンと叩きながら、エスカレーターで一階に降りた。施設内は人で溢れて、少しずつ活気が戻っている事を実感して嬉しくなった。
「あ~最近ネイルしてなかったな~」
思い出したかのように、行き付けのネイルショップに予約をしに向かった。
「これも世のため人のためだよね~」

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