猫と私と犬の小説家

瀧川るいか

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優しい世界が好き

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たまにする事。自分自身の為にする事。
ダブルベッドの上でポーズを決め、スマホで撮影会。
勿論、一人で。誰にも邪魔されたくないから一人で。
クローゼットの中からお気に入りの洋服を掻き集め、可愛い私を記録する。いや、可愛過ぎる私を記録する。
顔が可愛いの当たり前。アングルによって可愛さが違う。
基本的に可愛いのだが、個人的に好きなのは少し斜め上から見た時の私。神がかっている。
世の中の男性陣が喜ぶだろうが、余り興味は無い。
謝る気はないが、それが真実。
誰かに喜ばれる為に可愛く在りたい訳じゃない、自分自身の為だ。それに自分で可愛いと思い込むのは誰にも迷惑かけてない。誰かにとやかく言われる筋合いはない。
それに私による私の為だけの撮影なのだ。
「変な事してる!」とか「理解出来ない!」とか言う人もいるかもしれないけど、そんなの分からない人には関係ない。
音は出さずにスマホの中に可愛い私の様々な表情、動きを閉じ込めていく。
「あ~違う!」
「不自然~」
「もっとナチュラルに~」
「背中のラインが気になる~」
少し痩せないといけない今日この頃。加工をし過ぎるのは好きじゃない。最近の顔になりたくない。
最近の顔というのはSNSなどで見掛ける流行りの顔の事だ。
皆んな同じ顔に見える。可愛い私は私で可愛く在りたいのだ。
たまにある事。メーが勝手に寝室に上がり込む事。
チャチャはしないがメーはドアノブを一人で捻って入ってくる。頭の良い子。私が居ない時のベッドはチャチャとメーの物なのだが、撮影をしていても入ってきちゃう。構ってちゃん過ぎるところが可愛い。

ガチャ!と音をが鳴り、メーが寝室に入って来た。
「メー」と相変わらずの低めの声。
「どした?」
メーと同じポーズで撮影中。
メイドのコスプレで四つん這い中の可愛い私。
「にゃー!」
猫ポーズで「にゃー!」とか言っちゃう私。
全くリアクションしないメー。
「いやいや~少しショックなんだけど~」
こんな可愛い私に対してリアクションしないとかヘコむ。
スマホのタイマー止め、撮影は終了。
少し元気のないメーを抱き抱えると、いつものように甘えてくる。
「どした~寂しかったか~?」
「メ~~~」
首元をくすぐってあげると喜ぶメー。
「うん?」
「メ~~~」
抱っこしたまま横にブランブランとした。
「よしよし~チャチャは~どしたの~」
「.........」
チャチャの名前を出したら黙り込むメー。
「うーん。珍しく喧嘩でもしたかなぁ?」
寝室からメーを抱っこしたままリビングに行くとチャチャがちょこんと座っていた。
「うーん。チャチャも少し変だな~」
「あれ~?」
ふと思い出した。
二時間前、撮影する為に可愛い茶トラの二匹におやつをあげたんだ。お皿に沢山おやつを置いた。
チャチャのお皿におやつを置いといた。
「あっ!」
メーはチャチャのおやつだと思い、食べなかったんだ。
チャチャは自分のおやつだと思い、全部食べちゃった。
メーは自分だけおやつがない事がショックだったんだ。
チャチャは全く気付かないで食べちゃった。そして自分だけ食べて申し訳ない気持ちなんだろう。そんな少し気まずい表情。
「なんか~君ら~良い子過ぎるな~」
メーを抱っこしながら、メーのお皿におやつを少し多めに置いた。
「ほら~メー!おやつ!」
メーは最初は嬉しそうに食べていたが、チャチャの方をチラチラと見ながら少し気まずそうな表情になった。そして大好きなおやつなのに食べなくなってしまった。
「いやいや~そんな気にしないで食べなよ~。メーの分のおやつだよ~」
大好きなおやつの前で気まずそうなメーの頭を撫でた。
相変わらず気まずそうに立ち尽くすチャチャを気にして食べないメー。いつもならペロリと食べる大好きなおやつ。
「困ったな~」
そんな風に困っているとメーはお皿をずりずりとズラしてチャチャの前に持っていった。
「おっ!」
気まずそうなチャチャの毛ずくろいを始めるメー。
お返しにメーの毛ずくろいを始めるチャチャ。
「あ~なるほどね~。一緒に食べたかったんだね~」
お皿に残ったおやつを仲良く食べ始めるチャチャとメー。
少し遠慮気味なチャチャ。心置き無く食べれるメー。
「君らは本当に仲良しさんだね~良い子ちゃん達だ~」
私は日常を過ごしていて、たまに人が嫌になる事がある。  
嫌なニュースを見ると、たまに人が嫌いになる事がある。
「みんながチャチャとメーみたいに優しい気持ちでいっぱいなら平和なんだけどな~」
仲良くおやつを分け合う可愛い茶トラの二匹を音を出さずにスマホのカメラで収めた。
そんな平和な光景を見て満足した後、再び今の自分を残す為に寝室に戻り撮影の続きを始めた。









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