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星が瞬く夜
星が瞬く夜
しおりを挟む「ひぅ…っ、ぁ、……ぅっ……」
「声出して」
「……んっ、ぅ……んぁ…っ」
12月の、3週目の、木曜日の、冷え込んだ夜。
休みがなかなか取れないかすみとその恋人であるるなは、2ヶ月振りに体を交わらせていた。
前よりもさらに引き締まったかすみの筋肉を見つめながら、るなは首筋に汗を滑らす。警察官であるかすみもまた、自分とは違い細く筋肉の少ないるなの肌を見つめ、額に汗を滲ませていた。
体力を多く消費し、事後は倦怠感すらも伴ってしまう可能性があるこれは、決して忙しい時にするものではない。
分かっていても2人は、数週間ぶりに恋人と会えた嬉しさと欲を、抑えることは出来なかった。
かすみは珍しく昼には今日の役目を終え、ここに帰ってくることができた。だが明日の朝には、警察寮へ戻らなければいけない。
そんな忙しいスケジュールであっても、なんとかして宿泊許可を得たかすみの突然で久しぶりの帰宅に、るなは喜ばずにはいられなかった。
2人はわずか12時間ほどの、共に居られる短い時間を大切に過ごした。大好きなゲームをして、他愛もない話をして、笑い合う。
それは2人にとってたった一つの、癒しであった。
そしてこの日も、2人は一緒に寝て、一緒に朝を迎えるはずであった。
何気なく絡み合った熱い視線は、解こうと思っても、簡単には解けない。
明日は朝が早い。
ずっとるなのそばに居てやれない。面倒を見てやれない。
抱いてしまった方がきっと、寂しい思いをさせる。
分かっていても、かすみは耐えきれず、そっとるなの頬に手を滑らせた。るなも分かった上で、かすみの首に手を回していた。
気付けばベッドで横になっていたるなは、ふと今起こっていることをようやく実感し、その幸せに心を委ねた。
かすみはるなのすべすべした薄い肌に舌を滑らせ、小さく震える反応を楽しむ。
目が合えば、吸い付けられるように唇をぴったりと合わせた。
橙色の灯りが2人の空間を優しく包み込み、時折音を鳴らすベッドはその光の中へと違和感なく溶けていく。
「ぅ…ぁ…」
シーツを強く握り苦しげに声を漏らしたるなは、無意識に腰を引いた。それをかすみは見逃さず、手で引き戻してその奥へと硬くなった自分の物を押し込む。
「はっ……ぁ……るな……っ」
かすみが名前を呼ぶと、薄く目を開いたるなは、すぐそこに見えたかすみの立てられた腕を掴んだ。それを見たかすみは嬉しそうに笑い、愛おしい恋人の額に張り付いた前髪をかき上げる。
お互いを求める欲はどんどん顔を出していき、引っ込むことを知らなかった。
波が高くなっていくと、かすみはるなの上半身を抱え込む。それによって深くへ入ってきた熱を、るなは必死に受け止めた。小さく口を開いたるなからは、かすみを欲情させる声が次から次へと溢れ落ちていく。
かすみは我慢できず、ついにるなの肩口に噛み付いた。瞬間、るなの身体は跳ね、かすみの射精感をいっそう高める。
かすみもまた、るなの好きな場所を突き上げ、更に乱れていく恋人の姿に笑みを溢していた。
我慢の限界に近づいてきたるなの足は、皺を付けるようにシーツを引き延ばす。出入りの度に爪先は立ち、腰は勝手に上がっていた。
もうすぐだ。
早く寝て、かすみは明日に備えて疲れを取らなければいけない。
2回戦目なんてものは存在せず、焦らしもせず、2人はただ一点に向かって刺激を与え合った。その時、目を瞑ったるなからは涙が一つ溢れ、かすみはその横顔を静かに見つめた。
「……かすっ、みぅく……っ」
かすみにとってかわいく甘い恋人の声は、その脳をじっくりと溶かしていく。瞳には、自分しか映っていない。
そんな中でもだんだんと身体は痙攣し始め、終わりは確実に近づいてきていた。
最後。一つ強く打ち付けるため、かすみが名残り惜しみながらも腰を引く。
これで終わりだ。またしばらくは、触れ合うことすらも出来ない。
寂しさに想いを馳せつつ、2人の絡める指に力が入った。
——──瞬間だった。
「…………」
2人の動きがピタリと止まり、空気までもが固まった。
原因は、電話だった。
耳に届きやすいその着信音は、かすみが自分の上司だけに設定したもの。警察官であるかすみへの連絡は、緊急事態かもしれない。それによる招集連絡かもしれない。
出ないわけにはいかなかった。
かすみはすぐに残った重みを引き抜き、切なげな声を溢した恋人に構う暇もなくスマホを耳に押し当てた。
かすみが眉を寄せ敬語で会話をしている最中、るなは横たわったまま天井を見つめ、視界を遮るように腕で目を隠した。
下腹部に爆発寸前まで溜められた、痛みに変わってしまったものはどう処理しようか。
もう続きが出来ないことを知っているるなは呼吸を繰り返し、体の熱をゆっくりでも逃そうと頑張った。噛まれた肩の傷跡が、冷たい空気に触れヒリヒリと痛む。
かすみがスマホから手を離すことはなかった。
るなは腕を退け、寝返りを打ってかすみを見ると、じんわりと目頭に滲み出てきた熱いものを、バレないように擦った。
かすみは肩と頬でスマホを上手く固定しながら、袖に腕を通していく。5分もしないうちに、この家を出ていかなければならない。
るなだけが、あの時間に僅かに取り残されていく。
外に出れる格好になったかすみはるなに近寄ると、眉を下げて顔を覗き込んだ。結局手が追いつかずに目に溜まってしまったるなの涙を、優しく拭う。こうするのは、もう何度目だろうか。
柔らかな唇に、かすみは甘く軽いキスを落とした。
それにすら、るなは嬉しさで笑い、離れた恋人に静かに見送りの言葉を囁いた。
かすみも優しく笑い、そのまま背を向けて寝室を去っていく。
一般人なら抱く不満を、2人は抱かなかった。
それを了承した上での、交際であり叶えた2人の夢であったから。
結婚出来ない2人が付き合い続ける限り、かすみは警察官の入る通称独身寮から出られることは数年ない。たとえ出られたとしても、同性の恋人と同棲なんて、警察官の制限された生活の中では、不可能に近いものだった。
長い時には数週間に一度の頻度で顔を合わせ、数ヶ月に一度一緒に朝を迎え、離れている間は機械を通して数個の言葉を交わす。
そこに苦しさがあると感じたのは、第三者だけであった。
かすみとるなの間には絶対的な信頼があり、簡単には崩れない絆があった。
次に会えるのは、いつだろうか。
淡い光を放つ星を、透き通る空気を通して見上げる。寒さに体を震わせ室内に入る頃にはもう、残った微熱はすっかりと冷めてしまっていた。
だけど、消えることはない。
次に帰った時。
いつが最後になるとも分からずに、2人の時間はまた、ゆっくりと織り進められるだろう。
それは他の誰よりもずっと、2人が望んでいることであった。
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