星が瞬く夜に

如月美羽

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星の瞬く夜

3 星の瞬く夜

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『愛して……』


“る”



発されることのなかった“る”は、照れ屋なるなが、たった一度だけ口にしてくれたもの。
せめて最後に、俺を恨んでくれたら良かったのに。


『かすみくん!好き!』
『警察になるの!?かっこいい!』
『大丈夫!僕はここで待ってるから!応援してる!』
『いってらっしゃい!』
『あのね』
『ううん、大したことじゃないんだけど』
『え!かすみくん!?おかえり!』
『明日、すぐ帰っちゃうの?』
『ごめ、応援するって、言ったのに』
『僕、愛してる、よ』
『僕も好き』
『かすみくん、僕ね』


思い出が、咽せ返ってしまうほど激しく、頭の中を駆け巡った。
警察を目指す前から、その後も、ずっと俺を支えてくれていた。夢を一緒に見てくれていた。
るなは、俺の、たった一つの生きる原動力だった。
そんな宝物が今、無くなった。全部、自分のせいだった。
るなが人質に取られているかもしれなかったことは考えれば分かることで、そうしていれば対策はいくらでも出来た。気付く余地は、たくさんあった、はずなのに。
『おねがいだから、死なないで』
いつかの夜、泣きながらるなは俺の手えお強く握った。
そんな愛おしい彼を見て、俺はこいつを守るんだと、誓い直した。それなのに。
“やっぱり、なんでもない”
弱音を吐くことが苦手で、甘えるのも下手で、伝えるのが苦手なこいつのこの言葉は、何度聞いてきたか分からない。
無理に聞くのも違うと思っていた俺は、るなのこの言葉の先の本心を何も知らない。
いつしか離れることに慣れてきて、るなが俺を引き止めることもなくなった。
それを、一人で部屋で泣いているかもなんて思ったことはなくて、むしろ1人の時間を楽しんでいるのかもしれないとすら、俺は思っていた。そう想像して、生きてきた。
そんな馬鹿で仕方ない俺に繋がれていたるなは、はたして幸せだっただろうか。後悔のない人生だったと言えるんだろうか。
考えなくても、その答えは胸にひたすら積り続ける。
いつ起爆するかも分からない爆弾を首に付けられる恐怖は、想像もできない。
この数日間、会いたいだなんて、俺が呑気に考えていた間にも、こいつは。
いくら強く握っても冷えていくるなの腕は、その根元が胴体にくっついているのかすら、わからなかった。
いて分かるのは、ただ、死んだということ。
後悔が渦をつくり、あいつを吸い込んでいく。
どうして、なんで。ああしていれば。こうしていれば。
るなが初めて見た、ずっと応援してくれていた警官姿の俺は、格好悪いなんて次元で出来る話ではなかった。
なぁ、るな。るな。
お前は俺と付き合って、幸せだったこと、あったか。
馬鹿なことを聞きたくて、ひたすらその手に縋った。
ここで死ぬことだけじゃない。俺と付き合った時から、全部。
るなの道を、俺が曲げてしまった。好きだなんて、言うべきじゃなかった。
リスクある道を選んだのが、間違いだった。
それでも。
最低な俺は、好きだと伝えた時のるなの顔を思い出してしまって、勝手な勘違いをしてしまう。
ぼんやりとしている間にも、座り込む俺の周りをたくさんの人が行き来した。
しばらくすれば現場処理も終わって、気づけば、遺体も回収されてしまっていた。
そんな中取り残された俺に渡された、一本の銀色のチェーン。
それは紛れもなく、あいつのネックレスだった。

『え、これいいのっ?』
『おそろいはさすがにねぇ?』
『デートくらいにしか付けてかないよ』
『これ、お気に入りなんだ』
『あ、今日おそろい!』

ずっと、ずっと、照れたように喜んでくれていた。
それでも、デートの時にしか付けないって、言ってたのに。
「……っなんで、コンビニなんかに、付けてってんだよ」
どんな気持ちで、俺がいない時付けて歩いてたんだよ。
「っ……っほんとに、さ……」
なんでもっと、気付いてやれなかった。














外に出ると、風が心地よく俺の頬を撫でた。
空を見上げれば、いくつかの光る星と、淡く光る欠けた月。
4月の夜とは思えないほど、暖かい空気が俺を包み込んでいた。
命日、なんて言ったら、怒りそうだな。
でも、これからを生きていける自信なんて、俺にはこれっぽっちもなかった。
きれいだなぁ……
最後に、言いたいことがあったんだけど、それはどうしようか。もう、言えないか。
本当は一緒に日付を跨いで、笑い合っているはずだったのに。
俺だけが、超えてしまった。
「頼むから俺を、殺してくれよ」
絡まったチェーンが、ギリ、と音を立てる。
苦しくなっていくのに、不思議と逃げたいとは思わない。
これで、会えんのかな。
遠のいていく意識の中で、るなが見えた気がした。
なんだ、生きてんじゃん。
誕生日、おめでとう、るな。
チャランッ────と金属の響く音が聞こえて、目の前が、真っ暗になった。







































「ねぇ、4番部屋の人、知ってる?警察だったらしいよ」
「うそっ、見えない」
「自殺したいほど辛いこと……なにがあったのかしら」
「あの首に残ってる痕って、使ったチェーンの跡らしいね」
「ネックレスチェーンが切れるなんて滅多にないのに、幸運よね」
「どれだけ強い力だったんだろう……まぁ、どっちにしても」
「この精神病院から出られることは、なさそうね。ほら、また照明に話しかけてるわ」


 












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