10 / 11
見つけた星
6 見つけた星
しおりを挟む『…………もしもし、かすみくん……?』
「あ、出た。……久しぶり」
『久しぶり……』
少し気まずそうな、辿々しいるなの言葉。
2ヶ月半振りに電話が繋がって、ただ一声聞けただけで、俺は嬉しかった。
るな、緊張してんのかな。俺ら、恋人なのに。
「今なにしてんの。またレポート?」
『……うん、まぁ、そんな感じ……かすみくんは?』
「俺はいつも通りだよ。ようやく半分が終わって、慣れてきたところ」
『そうなんだ……』
「……なんか、あった?元気なくない?」
声は小さいし、いつもの様じゃない。
聞くと少し置いて、あいつの落ちた声が電波を通じて届いた。
『ちょっと……躓いててさ、結構、難しくて……』
「……大学、だもんな。俺には出来ないから、るなはほんとに────」
『ん、るなー?なにしてん~。もしかしてうわ──わぁッ、なにぃ!?びっくりしたぁ、急────』
「……え……?」
画面を見れば、通話は呆気なく、切られていた。
かけ直そうと思っても、自由時間の終わりがすぐそこに迫っているから出来ない。
……サークル、の人……?こんな時間に……もうだいぶ遅いのに。
いや、でもあいつは大学生……飲み会なんてよくするって言ってたし。
でも、後ろは静かで……
まさか、るなに限って。
正直、覚悟はしていた。
高校と大学じゃ訳が違う。
何もかもががらりと変わって、一瞬たりとも会えない彼氏と、始まる新生活。だけど。
あいつが女の子と遊んでいても……とは思っていた。大学なんてヤってなんぼだって言うし、多少呑まれていたとしても、それを知る覚悟はしていた。
だねどまさか、相手が男になるとまでは考えていなかった。
いや、この際男でも女でも変わらないのかもしれない。
大学で過ごするなを、俺はなにも知らない。周りが恋人だとか浮かれる中、るなだけは自由に会えない恋人に縛られている。
るなが他の人のところへいく。他の場所で見えない顔をつくっていく。
いくら恋人と言えど、仕方ないっちゃ……仕方ない。のかもしれなかった。
所詮俺らは高校の同級生で、恋し合っただけ。環境が変われば、思考だって価値観だって、人間関係だって変わる。
あんなに泣いて、くれてたのにな。
記憶のるなが、どこかで黒く塗り潰されていくような気がした。
翌日。
携帯が鳴ったけど、出る気にはなれなかった。
留守電が入っていることにも気付いたけど、再生しようとは、思えない。
スマホをベッドに放り投げて、宙を見上げた。
それから後期に入って、だんだんと忙しくなっていった。
あっという間に卒業に向けて物事が進んでいく。
課題に課題に課題。
娯楽を許される時間はあったとしても、そこに充てる余裕は誰1人としてなかった。
忙しなく日々を過ごして、ようやく一区切りがついたのは2ヶ月半後。肩の力が抜けて、ようやく外のことに意識が向く。
久々の携帯を見れば、2週間前にやけに短い留守電が入っていて、指が動くまま何も考えずに再生した。
それは数秒の沈黙の後、『……あのね』で切れる。
間違えたのか、何か事情があったのか、言えなくなったのか。
たった3文字。だけどそれがやけに脳に焼き付いて、忘れ去っていたような感情が心の臓から湧き出てくる様だった。
懐かしいその声をもっと聞きたくて、何度も再生を繰り返す。記憶の中のるなが、この後に言う言葉はなんだったか。
あいつの声は、どんなだったか。
空っぽになっていた欲と心を埋める様に、何度もループさせる。
無我夢中になって思いを馳せていれば、突然画面が音を立てて変わった。
その着信画面に表示された名前は。
「…………」
どうしようかな。出ようかな。
数秒待って、いつもはすぐに切れるそれが今日はなかなか切られないことに珍しく思う。
るな……
俺に言いたいことでも、あるのかな。通話ボタンを、黙って押した。
静かな向こうの空気。
シンとしたそれをひたすら聞いていれば、その中に、啜り泣く声が微かに聞こえた。
『…………っ、……っふ……ぅ…………ぁ、すみくん………………ぁいたい、……っ、……はなし、たいっ……よぉ……っ』
るなは、通話中になったことに、気が付いていないらしかった。
留守電は入っていないのに、たくさん溜まっていた不在着信。
もしかしたら、るなはいつもこうやって…………
「…………」
『…………っぅ、ふ……』
「……るな。……ひさしぶり』
『…………っぇ。っか、かすみく……ッ?なんで……ッ」
ズズっと鼻を啜る音と、途端に明るくなったるなの声色。
それは、話せたのが、嬉しいんじゃなくて。
「泣いてんの」
『……っううん。っ泣いてない!……大丈夫!まさかっ、出ると思ってなくてさ。びっくりした!』
「……うん。ひと段落ついたから」
『そうなんだっ。……あと、3ヶ月後くらい?もう少しだね』
「まぁ、学校が終わっても、寮だけどな」
『……っそっか……っじゃああんまり、変わらないね』
「るなは、最近どうなの」
『最近……?僕は、なにもないよ。いつも通り、飲み会に行って、大学に行って、先輩に付き合って……』
「…………そういえば、この前の」
『…………かすみくん?』
「やっぱ、なんでもないわ。……あー、もう戻らないと。またな」
『ぁ、まって、ねぇ、……あの、さ』
端末を通して脳に響いた、るなの寂しげな声。泣いた時の、掠れた声。
あの留守電も、るなはなにかを言いかけて……
『……っやっぱり、僕もなんでもない!引き止めてごめんね。おやすみ、かすみくん』
「ぁ、おいっ」
ブチ。と簡単に切られた通話。
またかよ……
るなが、なかなか本心を言わないのは知っていた。
いつもは素直なくせに、変なところは溜め込んで、隠して、自分を犠牲にする。
次会える時には、続きが聞けるかな。
その時には直接、全部吐けって抱きしめて。泣くも怒るも全部全部抱きしめて。
目を見て言ったら、るなは俺を、信じてくれるかな。
0
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
窓のない部屋の、陽だまりみたいな君
MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。
そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。
そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。
完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。
「五分だけ、ここにいさせてくれないか」
一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。
次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。
住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる