星が瞬く夜に

如月美羽

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『…………もしもし、かすみくん……?』

「あ、出た。……久しぶり」

『久しぶり……』


少し気まずそうな、辿々しいるなの言葉。
2ヶ月半振りに電話が繋がって、ただ一声聞けただけで、俺は嬉しかった。
るな、緊張してんのかな。俺ら、恋人なのに。

「今なにしてんの。またレポート?」

『……うん、まぁ、そんな感じ……かすみくんは?』

「俺はいつも通りだよ。ようやく半分が終わって、慣れてきたところ」

『そうなんだ……』

「……なんか、あった?元気なくない?」

声は小さいし、いつもの様じゃない。
聞くと少し置いて、あいつの落ちた声が電波を通じて届いた。

『ちょっと……躓いててさ、結構、難しくて……』

「……大学、だもんな。俺には出来ないから、るなはほんとに────」

『ん、るなー?なにしてん~。もしかしてうわ──わぁッ、なにぃ!?びっくりしたぁ、急────』

「……え……?」

画面を見れば、通話は呆気なく、切られていた。
かけ直そうと思っても、自由時間の終わりがすぐそこに迫っているから出来ない。

……サークル、の人……?こんな時間に……もうだいぶ遅いのに。
いや、でもあいつは大学生……飲み会なんてよくするって言ってたし。
でも、後ろは静かで……
まさか、るなに限って。


正直、覚悟はしていた。
高校と大学じゃ訳が違う。
何もかもががらりと変わって、一瞬たりとも会えない彼氏と、始まる新生活。だけど。
あいつが女の子と遊んでいても……とは思っていた。大学なんてヤってなんぼだって言うし、多少呑まれていたとしても、それを知る覚悟はしていた。
だねどまさか、相手が男になるとまでは考えていなかった。
いや、この際男でも女でも変わらないのかもしれない。
大学で過ごするなを、俺はなにも知らない。周りが恋人だとか浮かれる中、るなだけは自由に会えない恋人に縛られている。
るなが他の人のところへいく。他の場所で見えない顔をつくっていく。
いくら恋人と言えど、仕方ないっちゃ……仕方ない。のかもしれなかった。
所詮俺らは高校の同級生で、恋し合っただけ。環境が変われば、思考だって価値観だって、人間関係だって変わる。
あんなに泣いて、くれてたのにな。
記憶のるなが、どこかで黒く塗り潰されていくような気がした。




翌日。
携帯が鳴ったけど、出る気にはなれなかった。
留守電が入っていることにも気付いたけど、再生しようとは、思えない。
スマホをベッドに放り投げて、宙を見上げた。




それから後期に入って、だんだんと忙しくなっていった。
あっという間に卒業に向けて物事が進んでいく。
課題に課題に課題。
娯楽を許される時間はあったとしても、そこに充てる余裕は誰1人としてなかった。
忙しなく日々を過ごして、ようやく一区切りがついたのは2ヶ月半後。肩の力が抜けて、ようやく外のことに意識が向く。
久々の携帯を見れば、2週間前にやけに短い留守電が入っていて、指が動くまま何も考えずに再生した。
それは数秒の沈黙の後、『……あのね』で切れる。
間違えたのか、何か事情があったのか、言えなくなったのか。
たった3文字。だけどそれがやけに脳に焼き付いて、忘れ去っていたような感情が心の臓から湧き出てくる様だった。
懐かしいその声をもっと聞きたくて、何度も再生を繰り返す。記憶の中のるなが、この後に言う言葉はなんだったか。
あいつの声は、どんなだったか。
空っぽになっていた欲と心を埋める様に、何度もループさせる。
無我夢中になって思いを馳せていれば、突然画面が音を立てて変わった。
その着信画面に表示された名前は。

「…………」

どうしようかな。出ようかな。
数秒待って、いつもはすぐに切れるそれが今日はなかなか切られないことに珍しく思う。
るな……
俺に言いたいことでも、あるのかな。通話ボタンを、黙って押した。
静かな向こうの空気。
シンとしたそれをひたすら聞いていれば、その中に、啜り泣く声が微かに聞こえた。

『…………っ、……っふ……ぅ…………ぁ、すみくん………………ぁいたい、……っ、……はなし、たいっ……よぉ……っ』

るなは、通話中になったことに、気が付いていないらしかった。
留守電は入っていないのに、たくさん溜まっていた不在着信。
もしかしたら、るなはいつもこうやって…………

「…………」

『…………っぅ、ふ……』

「……るな。……ひさしぶり』

『…………っぇ。っか、かすみく……ッ?なんで……ッ」

ズズっと鼻を啜る音と、途端に明るくなったるなの声色。
それは、話せたのが、嬉しいんじゃなくて。

「泣いてんの」

『……っううん。っ泣いてない!……大丈夫!まさかっ、出ると思ってなくてさ。びっくりした!』

「……うん。ひと段落ついたから」

『そうなんだっ。……あと、3ヶ月後くらい?もう少しだね』

「まぁ、学校が終わっても、寮だけどな」

『……っそっか……っじゃああんまり、変わらないね』

「るなは、最近どうなの」

『最近……?僕は、なにもないよ。いつも通り、飲み会に行って、大学に行って、先輩に付き合って……』

「…………そういえば、この前の」

『…………かすみくん?』

「やっぱ、なんでもないわ。……あー、もう戻らないと。またな」

『ぁ、まって、ねぇ、……あの、さ』

端末を通して脳に響いた、るなの寂しげな声。泣いた時の、掠れた声。
あの留守電も、るなはなにかを言いかけて……

『……っやっぱり、僕もなんでもない!引き止めてごめんね。おやすみ、かすみくん』

「ぁ、おいっ」

ブチ。と簡単に切られた通話。
またかよ……
るなが、なかなか本心を言わないのは知っていた。
いつもは素直なくせに、変なところは溜め込んで、隠して、自分を犠牲にする。

次会える時には、続きが聞けるかな。
その時には直接、全部吐けって抱きしめて。泣くも怒るも全部全部抱きしめて。
目を見て言ったら、るなは俺を、信じてくれるかな。









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