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シャノニアン・エクスプロージョン
狂気の帽子屋#2
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────ククリ(人狼ガルダーガ種、ルーノ族・長老、ニダヴェリール宮廷特別顧問)
新種族の今後について討論会が開かれることになった。
私は新種族はリザートマンのみだと思い込んでいたので、前日に会議の準備をしようと端末をひらいてみたら、新種族の多さに驚愕した。
アルデバランのように1隻1種族ならまだしも、5種族同時に開発している船もあり、特徴も多種多様で、まさにシャノニアン・エクスプロージョンといったところだった。
幸いなことに、ノスフェラトゥのように扱いの難しい危険な種族はおらず、姿形や特徴はことなるが、リザードマンと同等程度の種族ばかりだった。一安心といったところだろう。
会議では、新種族をシャノン学派とその傘下に預けておくことはできないため、アストレア近郊に、種族毎の隔離区画を新設することになり、そこで、種族の特性を詳細調査して安全性を確認し、彼ら自身に社会の仕組みを確立させ、自立できるようになった種族から随時ギア大陸へ解放することになった。
すでに、ニブルヘイムから工兵部隊を提供してもらい、種族の特徴に合わせた隔離施設の建設が開始されている。
しばらくしたら、アストレア周辺は、シャノン学派と傘下の学派の移動要塞が大集結することになるので、かなり混雑することだろう。
そしてようやく、重要な議題があがった。無色のホムンクルスの今後の扱いについてだ。
ノイマン学派とバベッジ学派は抗議したが、アルデバランの一件や、海賊行為の横行など聡明な賢者であるはずの無色のホムンクルス自身の自治能力に疑問が出た以上、ガイゼルヘルさんは当然のこととして、寛大な容認派のエリューデイルですら、この問題は十分に検討すべきであると主張したのだ。
この議題が挙がった日、ニダヴェリールからロクリアン=ルシーニアが応援に駆けつけていた。激務続きだったルシーニアは、ルーテシアがヘルヘイムに帰る際にルシーニアの宮殿に立ち寄った時、これ幸いと、ルーテシアに自分の代理を押し付け、休養を求めてアストレアに逃げてきたらしい。
私はようやく医務室でゆっくりお茶が飲めると喜んだのだが、ルシーニアが同席を要求したため、私の安息は幻想に帰した。
医務室でゆっくりしたい……。
……
カポーン……。
会議が終わると、私とルシーニアは、露天風呂にいた。
「ねえ、ルシーニア。ニダヴェリールの代表が二人して会議に出席する必要ないよね? 明日から医務室でゆっくりさせてもらっていい?
もうつかれたよ。何だか眠いんだ……」
「だめ!」
「どーして?」
「ルークがいるから。早くあいつに仕事終わらさせて立ち入り禁止にしなきゃ」
「え? ルーク、また何かしでかしたの?」
「ティフォーニアに聞いたわよ? 幻術かけられて男湯に連れ込まれたんだって?」
「なんでしってるの? 私にプライバシーはないの?」
「私からティフォーニアに言っておいたのよ。
ルークがあなたに近づくときは目を光らせるようにって。
あと、あなたにプライバシーなんて一切ないから」
「……」
「あなたはルークに甘すぎるのよ。それと無防備すぎ。
もうフラガじゃないのよ? 自覚してる?」
「あたりまえじゃん、フラガなわけないじゃん」
「……はぁ。ヴェルキエーレの相談役はニダヴェリールで出来ないの?」
「彼女たちにニダヴェリールまで来てもらえればできると思うけど、
ティフォーニアが許可しないでしょ?」
「いいよ、相談してみる」
「せっかくゆっくりできると思ったのにー」
「もーね、我慢の限界」
「なにを怒ってるのさ?」
「あー、あいつの子供なんて産まさせるんじゃなかったー。
ティフォーニアに何と言われても、断固拒否すべきだったわ」
「グラミアはいい子だよ。私が保証する」
「しってる。グラミアはすごーくいい子。私のお気に入り。
でも、父親がダメ」
「なんでそんなにルークを目の敵にしてるの?
ルークも寂しいみたいだし、もっと優しくしてあげてもいいじゃない?」
「その考えが、あいつをつけ上がらせるのよ?
あなた本当に自覚ないの?」
「なにが?」
「ルーク、あなたに気があるのよ?」
「え? そうなの? ただの仲のいい友達って感じだけど?」
「ルークがそこまで心を許すの、あなたくらいでしょ?」
「エリューデイルとは心の友と呼び合うくらいの仲良しだよ?」
「男友達でしょ?」
「男性同士だしね」
「あなたの扱いは別格なの」
「そーかな? 私は、ルシーニアに近づく手段だとおもってたけど?」
「ちがうわよ、本命は最初からあなたよ」
「そんな感じじゃないと思うけどな」
「あなたの考えはどうでもいいわ。
とにかくルークにはもう近づけさせさないからね」
「話し相手がいないとルーク泣いちゃうよ?」
「泣かしとけばいいわよ。それにエリューデイルがいるでしょ?」
「ルークとエリューデイルの会話みたことある? プライベートの」
「ないけど?」
「なんというかね、お互いに前向きすぎて全く会話が成立してないんだよね。
側から見てて怖くなるくらいだよ?
本人たちは満足してるみたいだけど、あれはホラーだね一種の」
「満足してるならいいじゃない。それとも彼の奥さんにでもなりたいの?」
「それはかなりの疲労を伴うだろうから、勘弁してほしい。
友達としてなら、いいやつだけど」
「なら、あいつとは距離を置きましょう。決定事項。私の勅命。
私がニダヴェリールにかえるときは、あなたも連れて帰る。
大丈夫、公務はルフィリアに任せておけるし、ルナディアとルカティアも、もうすぐ戻ってくるでしょ?そしたらゆっくりできるわよ?
息がつまるようなら私の休みに合わせて、ここや、ゼディーの宮殿に遊びに行けばいいし。
いい?」
「君がそう言うなら、従うしかないじゃないか」
「よろしい」
「でも、ルシオーヌの羽化があるよ? どうする?
あれはルークの協力がないとどうにもならない。
ムスペルヘイムの膨大なエナジーが必要だしね」
「いつ頃になりそう?」
「そろそろ到着するだろうから、二ヶ月以内ってところかな?」
「じゃ、羽化のときだけ、私と一緒にここに来ましょう。
ルシオーヌの体調管理は、ケイにまかせればいいし。
いずれはヴェルキエーレだけでできるようにしないといけないから、この際だからケイに引き継いじゃいましょう。
できそう?」
「ケイは賢者だから忙しすぎるかも?
ティフォーニアと調整できるなら、いまのケイの仕事をレイに引き継いでもらえらば、羽化の仕事は引き継げるとおもう。
ただ、レイはまだちょっと心配かな」
「オートクレールにサポートさせたら?」
「大丈夫かな? クラウソラスが賢者やってるから、オートクレールは意思決定機関から離しておいたほうが公平だとおもうけど?」
「あの娘たちなら、公私混同しないから大丈夫でしょ?」
「まぁ、そうだけど、ティフォーニアはいいとしてもガイゼルヘルさんからは何か言われるかも?」
「私がティフォーニアとガイゼルヘルに話をつければいいだけでしょ?
今回はニダヴェリールの都合なのだから」
「まぁ、そうだね。
でも何でまた、いきなり私を引き揚げさせようとするのさ?
私、何かやらかしちゃった?」
「そんなはずないじゃない。どちらかというと、良い仕事しすぎって感じかな?
何度断っても、ティフォーニアから正式にラフィノス族の長老として迎え入れたいって要請がくるのよ。
顔をあわせるたびにククリを頂戴っていってくる始末よ?」
「あはは。それは私にはもったいないお誘いだね」
「わかってる? ニダヴェリールでもおなじなのよ?
いつまでもあなたを貸し出しておけるほど、こちらにも余裕はないの。
このまま放っておいたら、ほんとうにアストレアに取られちゃうわ。
ティフォーニア、ヴェルキエーレの娘たちをダシにして、あなたを正式にアストレアに迎え入れようと裏で動いてるみたいなのよ。
なので、すこしだけ距離を置いてニダヴェリールから支援ってかたちにして、ちょっとずつ手離れさせたいのよ。そうしたほうが私も安心できるしね」
「なるほどね。医務室にいる相談係のお婆ちゃん、結構気に入ってたのにな……」
「ニダヴェリールでそれしてくれればいいだけよ」
「アストレアのみんなは来づらそうだね」
「それが狙い」
「厳しいね、ルシーニアは」
「これくらい、忙しいうちに入らないわよ?
ティフォーニアには期待してるんだから、もっと成長してもらわないとね」
「十分がんばってるとおもうよ?」
「しってる。だからこそでしょ?
これ乗り越えたら、かなり自信つくんじゃない?」
「そうだね。で、いつ帰るの?」
「リシアには1週間ってことでお願いした」
「延長する気満々だね」
「ノスフェラトゥ絡みの問題の進捗次第ってところね」
「ルシーニアがいてくれれば、かなり前進する思うよ?」
「だといいけどね……」
「その様子だと半月くらい滞在するつもり?」
「ううん、1週間と数日ってところかな」
「中途半端だね」
「のこりは、一緒にゼディーの宮殿でゆっくりしましょ」
「おぉ、それは楽しみかも。ルーテシアは大丈夫なの?」
「リシアのほうが私より公務は得意だし。
私もちゃんとした休養取らないといけないしね。
いつも暇してるのだから、たまには手伝ってもらってもいいでしょ?」
「いいお姉さんもったね」
「うん、自慢の姉。すごく頼りになる。
でも、ちょっと元気なかったのよね。何か知ってる?」
「ああ、それね……。
たぶん、審問会のとき、笑顔で話聞いてただけなのに無色のホムンクルスたちがもれなく、ルーテシアに恐怖していたからだよ。ゼディーやルークをはるかに凌ぐ勢いでね。
でもそのおかげで予定より三割も時間を短縮できたよ」
「……そうなんだ、それは災難ね……後でフォローしておかないと」
「そうだね……」
……
無色のホムンクルス達の当面の処遇が決まった。
・研究データは全てアストレアで集中管理すること
・学会はアストレアにて全学派にて開催すること
・他の学派を傘下に加えることを全面的に禁止する
・他の学派を脅して強制的に研究させることを全面的に禁止する
・研究内容はアストレア側に事前申請し、承認が降りない研究は全面的に禁止する
・研究施設内にヒューマノイドが立ち入ることを全面的に禁止する
といった内容だった。
これにより、ドラッケンの都市で監禁されていた傘下の学派の無色のホムンクルスは、アストレアに避難することができ、彼らにはアストレアの隔離区画に新たな研究棟が割り当てられた。
シャノン学派および、傘下の学派については、移動要塞を解体し、アストレア内の隔離区画にて監視付きで研究を継続させることになった。特に新種族の開発については、よほどのことでもない限り新たな研究許可は降りないだろう。
また、空間転移については、シャノン学派からアストレア側を納得させられるだけの提案が出ない限り全面禁止となり、遠隔干渉先の世界に存在するリジル=ケンタウリ=アルファの人格情報構造体に対して、一時的に活動を停止させるよう指示させた。
学会の再建に伴い、アストレア内の隔離区画にノスフェラトゥに関する特別対策研究棟を整備させ、始祖の発見方法や、生体データの検証など本格的なノスフェラトゥ対策の研究チームが発足した。
そして、全ての無色のホムンクルスの統括は、ガイゼルヘルさんが担当することになった。彼の知らない研究や取引をおこなったら厳罰に処されることになっている。
聡明な無色のホムンクルス達にとっては屈辱的な処遇ではあるが、彼らも他の新種族同様、自立可能と判断できるまではアストレアの監視下で、彼らの社会の仕組みを再検討させられることになったのだ。
残った問題の一つに、ノイマン学派のドラッケンの要塞都市の処遇がある。
アストレア側は、研究施設がノスフェラトゥの標的になっている以上、ドラッケンの研究データを全てアストレアに回収し、研究施設を解体することを通告した。
しかしノイマン学派としては、どうしても譲れないらしい。ノイマン学派側は、かなり強気な姿勢をとっており。内部視察も強固な姿勢で拒否した。
強硬手段を取りたくないアストレア側は可能な限り説得を行なったが、ノイマン学派は、一向に譲らなかったのだ。
ノスフェラトゥ、ドラッケン、そしてアストレア勢の3勢力がぶつかり合う構図になりはじめた。
ノイマン学派の強気の姿勢を見ると、すでにドラッケンは複数体製造されているものと考えられる。
ティフォーニアは根気よく最後の望みをかけて交渉を続けている状況だ。
研究理念の成就に直向きな無色のホムンクルスにはよくあることなので、根気よく交渉を続ければ解決することも多々ある。
だが、交渉にはかなりの時間がかかるだろう。
短気なガイゼルヘルさんは、すでにノイマン学派の絶滅しか主張せず、エリューデイルは、ティフォーニアの交渉に期待している。
ルシーニアは、ユグドラシルの重要な決断に関わるわけにはいかないため、あえて見解を示すことを控えている。ゼディー達も同様だ。
だが、いつでも戦力を投入する準備は整えてある。
無色のホムンクルスは、聡明な連中なので追い詰めすぎない程度にうまく手札を切れば、懐柔できる可能性も十分あるのだ。
そして、もう一つの問題として、一時棚上げされていたヒューマノイドの今後の処遇がある。
バベッジ学派の管理方法は、真似しようとしても簡単には真似できるものではない。時間が経つと簡単に悪政と化してしまう危険性が高いからだ。
バベッジ学派は、彼らの管理手法を技術として確立させる試みを始めているらしい。先日ガイゼルヘルさんが、珍しく機嫌が良いので尋ねてみたら、バベッジ学派が面白い研究課題を出してきたと言って概要を教えてくれたのだ。彼はその研究にかなりの期待を寄せているようだった。
だが、ヒューマノイドの本質の是非については、別勘定のようで、ガイゼルヘルさんは依然として、ヒューマノイドの存在について否定的な見解を示している。
ノア計画の是非についても難航しているようで、この大地でのヒューマノイドの立場は以前として、厳しい状況が続いている。
新種族の今後について討論会が開かれることになった。
私は新種族はリザートマンのみだと思い込んでいたので、前日に会議の準備をしようと端末をひらいてみたら、新種族の多さに驚愕した。
アルデバランのように1隻1種族ならまだしも、5種族同時に開発している船もあり、特徴も多種多様で、まさにシャノニアン・エクスプロージョンといったところだった。
幸いなことに、ノスフェラトゥのように扱いの難しい危険な種族はおらず、姿形や特徴はことなるが、リザードマンと同等程度の種族ばかりだった。一安心といったところだろう。
会議では、新種族をシャノン学派とその傘下に預けておくことはできないため、アストレア近郊に、種族毎の隔離区画を新設することになり、そこで、種族の特性を詳細調査して安全性を確認し、彼ら自身に社会の仕組みを確立させ、自立できるようになった種族から随時ギア大陸へ解放することになった。
すでに、ニブルヘイムから工兵部隊を提供してもらい、種族の特徴に合わせた隔離施設の建設が開始されている。
しばらくしたら、アストレア周辺は、シャノン学派と傘下の学派の移動要塞が大集結することになるので、かなり混雑することだろう。
そしてようやく、重要な議題があがった。無色のホムンクルスの今後の扱いについてだ。
ノイマン学派とバベッジ学派は抗議したが、アルデバランの一件や、海賊行為の横行など聡明な賢者であるはずの無色のホムンクルス自身の自治能力に疑問が出た以上、ガイゼルヘルさんは当然のこととして、寛大な容認派のエリューデイルですら、この問題は十分に検討すべきであると主張したのだ。
この議題が挙がった日、ニダヴェリールからロクリアン=ルシーニアが応援に駆けつけていた。激務続きだったルシーニアは、ルーテシアがヘルヘイムに帰る際にルシーニアの宮殿に立ち寄った時、これ幸いと、ルーテシアに自分の代理を押し付け、休養を求めてアストレアに逃げてきたらしい。
私はようやく医務室でゆっくりお茶が飲めると喜んだのだが、ルシーニアが同席を要求したため、私の安息は幻想に帰した。
医務室でゆっくりしたい……。
……
カポーン……。
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「ねえ、ルシーニア。ニダヴェリールの代表が二人して会議に出席する必要ないよね? 明日から医務室でゆっくりさせてもらっていい?
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「だめ!」
「どーして?」
「ルークがいるから。早くあいつに仕事終わらさせて立ち入り禁止にしなきゃ」
「え? ルーク、また何かしでかしたの?」
「ティフォーニアに聞いたわよ? 幻術かけられて男湯に連れ込まれたんだって?」
「なんでしってるの? 私にプライバシーはないの?」
「私からティフォーニアに言っておいたのよ。
ルークがあなたに近づくときは目を光らせるようにって。
あと、あなたにプライバシーなんて一切ないから」
「……」
「あなたはルークに甘すぎるのよ。それと無防備すぎ。
もうフラガじゃないのよ? 自覚してる?」
「あたりまえじゃん、フラガなわけないじゃん」
「……はぁ。ヴェルキエーレの相談役はニダヴェリールで出来ないの?」
「彼女たちにニダヴェリールまで来てもらえればできると思うけど、
ティフォーニアが許可しないでしょ?」
「いいよ、相談してみる」
「せっかくゆっくりできると思ったのにー」
「もーね、我慢の限界」
「なにを怒ってるのさ?」
「あー、あいつの子供なんて産まさせるんじゃなかったー。
ティフォーニアに何と言われても、断固拒否すべきだったわ」
「グラミアはいい子だよ。私が保証する」
「しってる。グラミアはすごーくいい子。私のお気に入り。
でも、父親がダメ」
「なんでそんなにルークを目の敵にしてるの?
ルークも寂しいみたいだし、もっと優しくしてあげてもいいじゃない?」
「その考えが、あいつをつけ上がらせるのよ?
あなた本当に自覚ないの?」
「なにが?」
「ルーク、あなたに気があるのよ?」
「え? そうなの? ただの仲のいい友達って感じだけど?」
「ルークがそこまで心を許すの、あなたくらいでしょ?」
「エリューデイルとは心の友と呼び合うくらいの仲良しだよ?」
「男友達でしょ?」
「男性同士だしね」
「あなたの扱いは別格なの」
「そーかな? 私は、ルシーニアに近づく手段だとおもってたけど?」
「ちがうわよ、本命は最初からあなたよ」
「そんな感じじゃないと思うけどな」
「あなたの考えはどうでもいいわ。
とにかくルークにはもう近づけさせさないからね」
「話し相手がいないとルーク泣いちゃうよ?」
「泣かしとけばいいわよ。それにエリューデイルがいるでしょ?」
「ルークとエリューデイルの会話みたことある? プライベートの」
「ないけど?」
「なんというかね、お互いに前向きすぎて全く会話が成立してないんだよね。
側から見てて怖くなるくらいだよ?
本人たちは満足してるみたいだけど、あれはホラーだね一種の」
「満足してるならいいじゃない。それとも彼の奥さんにでもなりたいの?」
「それはかなりの疲労を伴うだろうから、勘弁してほしい。
友達としてなら、いいやつだけど」
「なら、あいつとは距離を置きましょう。決定事項。私の勅命。
私がニダヴェリールにかえるときは、あなたも連れて帰る。
大丈夫、公務はルフィリアに任せておけるし、ルナディアとルカティアも、もうすぐ戻ってくるでしょ?そしたらゆっくりできるわよ?
息がつまるようなら私の休みに合わせて、ここや、ゼディーの宮殿に遊びに行けばいいし。
いい?」
「君がそう言うなら、従うしかないじゃないか」
「よろしい」
「でも、ルシオーヌの羽化があるよ? どうする?
あれはルークの協力がないとどうにもならない。
ムスペルヘイムの膨大なエナジーが必要だしね」
「いつ頃になりそう?」
「そろそろ到着するだろうから、二ヶ月以内ってところかな?」
「じゃ、羽化のときだけ、私と一緒にここに来ましょう。
ルシオーヌの体調管理は、ケイにまかせればいいし。
いずれはヴェルキエーレだけでできるようにしないといけないから、この際だからケイに引き継いじゃいましょう。
できそう?」
「ケイは賢者だから忙しすぎるかも?
ティフォーニアと調整できるなら、いまのケイの仕事をレイに引き継いでもらえらば、羽化の仕事は引き継げるとおもう。
ただ、レイはまだちょっと心配かな」
「オートクレールにサポートさせたら?」
「大丈夫かな? クラウソラスが賢者やってるから、オートクレールは意思決定機関から離しておいたほうが公平だとおもうけど?」
「あの娘たちなら、公私混同しないから大丈夫でしょ?」
「まぁ、そうだけど、ティフォーニアはいいとしてもガイゼルヘルさんからは何か言われるかも?」
「私がティフォーニアとガイゼルヘルに話をつければいいだけでしょ?
今回はニダヴェリールの都合なのだから」
「まぁ、そうだね。
でも何でまた、いきなり私を引き揚げさせようとするのさ?
私、何かやらかしちゃった?」
「そんなはずないじゃない。どちらかというと、良い仕事しすぎって感じかな?
何度断っても、ティフォーニアから正式にラフィノス族の長老として迎え入れたいって要請がくるのよ。
顔をあわせるたびにククリを頂戴っていってくる始末よ?」
「あはは。それは私にはもったいないお誘いだね」
「わかってる? ニダヴェリールでもおなじなのよ?
いつまでもあなたを貸し出しておけるほど、こちらにも余裕はないの。
このまま放っておいたら、ほんとうにアストレアに取られちゃうわ。
ティフォーニア、ヴェルキエーレの娘たちをダシにして、あなたを正式にアストレアに迎え入れようと裏で動いてるみたいなのよ。
なので、すこしだけ距離を置いてニダヴェリールから支援ってかたちにして、ちょっとずつ手離れさせたいのよ。そうしたほうが私も安心できるしね」
「なるほどね。医務室にいる相談係のお婆ちゃん、結構気に入ってたのにな……」
「ニダヴェリールでそれしてくれればいいだけよ」
「アストレアのみんなは来づらそうだね」
「それが狙い」
「厳しいね、ルシーニアは」
「これくらい、忙しいうちに入らないわよ?
ティフォーニアには期待してるんだから、もっと成長してもらわないとね」
「十分がんばってるとおもうよ?」
「しってる。だからこそでしょ?
これ乗り越えたら、かなり自信つくんじゃない?」
「そうだね。で、いつ帰るの?」
「リシアには1週間ってことでお願いした」
「延長する気満々だね」
「ノスフェラトゥ絡みの問題の進捗次第ってところね」
「ルシーニアがいてくれれば、かなり前進する思うよ?」
「だといいけどね……」
「その様子だと半月くらい滞在するつもり?」
「ううん、1週間と数日ってところかな」
「中途半端だね」
「のこりは、一緒にゼディーの宮殿でゆっくりしましょ」
「おぉ、それは楽しみかも。ルーテシアは大丈夫なの?」
「リシアのほうが私より公務は得意だし。
私もちゃんとした休養取らないといけないしね。
いつも暇してるのだから、たまには手伝ってもらってもいいでしょ?」
「いいお姉さんもったね」
「うん、自慢の姉。すごく頼りになる。
でも、ちょっと元気なかったのよね。何か知ってる?」
「ああ、それね……。
たぶん、審問会のとき、笑顔で話聞いてただけなのに無色のホムンクルスたちがもれなく、ルーテシアに恐怖していたからだよ。ゼディーやルークをはるかに凌ぐ勢いでね。
でもそのおかげで予定より三割も時間を短縮できたよ」
「……そうなんだ、それは災難ね……後でフォローしておかないと」
「そうだね……」
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無色のホムンクルス達の当面の処遇が決まった。
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・学会はアストレアにて全学派にて開催すること
・他の学派を傘下に加えることを全面的に禁止する
・他の学派を脅して強制的に研究させることを全面的に禁止する
・研究内容はアストレア側に事前申請し、承認が降りない研究は全面的に禁止する
・研究施設内にヒューマノイドが立ち入ることを全面的に禁止する
といった内容だった。
これにより、ドラッケンの都市で監禁されていた傘下の学派の無色のホムンクルスは、アストレアに避難することができ、彼らにはアストレアの隔離区画に新たな研究棟が割り当てられた。
シャノン学派および、傘下の学派については、移動要塞を解体し、アストレア内の隔離区画にて監視付きで研究を継続させることになった。特に新種族の開発については、よほどのことでもない限り新たな研究許可は降りないだろう。
また、空間転移については、シャノン学派からアストレア側を納得させられるだけの提案が出ない限り全面禁止となり、遠隔干渉先の世界に存在するリジル=ケンタウリ=アルファの人格情報構造体に対して、一時的に活動を停止させるよう指示させた。
学会の再建に伴い、アストレア内の隔離区画にノスフェラトゥに関する特別対策研究棟を整備させ、始祖の発見方法や、生体データの検証など本格的なノスフェラトゥ対策の研究チームが発足した。
そして、全ての無色のホムンクルスの統括は、ガイゼルヘルさんが担当することになった。彼の知らない研究や取引をおこなったら厳罰に処されることになっている。
聡明な無色のホムンクルス達にとっては屈辱的な処遇ではあるが、彼らも他の新種族同様、自立可能と判断できるまではアストレアの監視下で、彼らの社会の仕組みを再検討させられることになったのだ。
残った問題の一つに、ノイマン学派のドラッケンの要塞都市の処遇がある。
アストレア側は、研究施設がノスフェラトゥの標的になっている以上、ドラッケンの研究データを全てアストレアに回収し、研究施設を解体することを通告した。
しかしノイマン学派としては、どうしても譲れないらしい。ノイマン学派側は、かなり強気な姿勢をとっており。内部視察も強固な姿勢で拒否した。
強硬手段を取りたくないアストレア側は可能な限り説得を行なったが、ノイマン学派は、一向に譲らなかったのだ。
ノスフェラトゥ、ドラッケン、そしてアストレア勢の3勢力がぶつかり合う構図になりはじめた。
ノイマン学派の強気の姿勢を見ると、すでにドラッケンは複数体製造されているものと考えられる。
ティフォーニアは根気よく最後の望みをかけて交渉を続けている状況だ。
研究理念の成就に直向きな無色のホムンクルスにはよくあることなので、根気よく交渉を続ければ解決することも多々ある。
だが、交渉にはかなりの時間がかかるだろう。
短気なガイゼルヘルさんは、すでにノイマン学派の絶滅しか主張せず、エリューデイルは、ティフォーニアの交渉に期待している。
ルシーニアは、ユグドラシルの重要な決断に関わるわけにはいかないため、あえて見解を示すことを控えている。ゼディー達も同様だ。
だが、いつでも戦力を投入する準備は整えてある。
無色のホムンクルスは、聡明な連中なので追い詰めすぎない程度にうまく手札を切れば、懐柔できる可能性も十分あるのだ。
そして、もう一つの問題として、一時棚上げされていたヒューマノイドの今後の処遇がある。
バベッジ学派の管理方法は、真似しようとしても簡単には真似できるものではない。時間が経つと簡単に悪政と化してしまう危険性が高いからだ。
バベッジ学派は、彼らの管理手法を技術として確立させる試みを始めているらしい。先日ガイゼルヘルさんが、珍しく機嫌が良いので尋ねてみたら、バベッジ学派が面白い研究課題を出してきたと言って概要を教えてくれたのだ。彼はその研究にかなりの期待を寄せているようだった。
だが、ヒューマノイドの本質の是非については、別勘定のようで、ガイゼルヘルさんは依然として、ヒューマノイドの存在について否定的な見解を示している。
ノア計画の是非についても難航しているようで、この大地でのヒューマノイドの立場は以前として、厳しい状況が続いている。
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以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
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