ブルー・クレセンツ・ノート

キクイチ

文字の大きさ
102 / 259
メメント

ウォークライ

しおりを挟む
────レイフ(人狼ルガルロデリク種、殺し屋)


 突然、ククリの動きが止まった。
 まるで殺気もない。
 
「なんのつもりだ? 降参か?」

「こちらのセリフですよ、気づかないのですか?」

「つまらないブラフはやめておけ、殺しの準備はおわってる」

「えー? これじゃ、誰も殺せませんよ?」

「何を言っている、なら殺してやるよ」

 ククリは、無防備にまっすぐ歩いて来た。

「!?」
 罠が何も反応しない??

 おかしい、俺の知覚には完全に存在しているぞ。
 ククリだってデコイじゃない本物だ。

「どういうことだ? なにをやった!」
 
「哀れな方だ、志を断たれて、亡霊になってしまったみたいだ」

 どうなってる、知覚に異常はない。
 どこにも異常はない。
 なぜ、〝血の獣〟は生きている?

 無防備で近づいてくる相手に攻撃が当たらない。
 法術式も素通りする。
 幻術か?
 俺が知覚できない幻術?
 知覚に異常はまるでないぞ?
 
 くそっ、どうなってる?
 練度の低い小娘が、俺に何を仕掛けたのだ?

「気が済みました? 終わりにしてもよろしいですか?
 あなた負けですよ、〝ウル〟さん。
 元族長ルスの忘れ形見メメントさん」

 俺は、仰向けになって倒されていた。
 体は一切動かなかった。
 
「……なぜ、俺のことをしっている?」

「私、グーンデイルさんと昔馴染みなんですよ」

「……そうか。やつは元気にしているか?」

「カインに殺されました。アーグゥインさんとフォールクヴェイルさんと一緒にね」

「惜しいやつらをなくしたな。決着をつけたかったやつらはみんな死んじまったのか……。つまらねぇな」

「……はやく殺せよ」

「どうして?」

「小娘に手玉に取られるとは、俺も焼きが回ったようだ。生きている価値もない」

「殺してあげてもいいけど、その依頼は有料ですよ?」

「何が欲しい」

「私に命を預けてください」

「ならころせ、もう預けた。抵抗はしない」

「だめですよ、その前に仕事の依頼がたくさんあるのですから」

「誰を殺せばいい?」

「あなたの性根を殺してください」

「どうやって?」

「ロデリク族は、今、統一されました。代理で族長をやってください。
 これは命令です」

「俺が? 無理だ、ふざけるな。いいから殺せ!」

「私の命令です。従ってください。
 あなた以外に無法者たちの統治を任せられる方を私は知りません。
 周りのみんなもあなたの正体を知って驚いてますよ?」

 俺は、辛うじて動かせる首を動かして周囲を見渡した。
 昔、戦士たちが親父にしていたように、皆が俺に向かって、膝をつき、首を垂れている。

「今更、俺になにができる?」

「力が足りないなら、努力してください。時間はたくさんあります。
 もう、ロデリク族は鬼子ではありませんし、閉じ込める檻《おり》もなくなるのですから」

「どういうことだ?」

「あなたたちは、すでにニダヴェリールの家族なのです。
 ロクリアン=ルシーニアは、あなた達を眷属として迎い入れることにしたのです。
 なので、ウルさん、あなたの人望と能力が必要です。
 ニダヴェリールを新たな故郷にして頂けませんか?」

「おまえは何者だ? 〝血の獣〟」

「わたしはククリ、ガルダーガ族出身、ニダヴェリール宮廷正室、アースバインダー、少女の頃は『血の獣』とも呼ばれていましたね。そしてフラガ=ラ=ハの最後の弟子でもあります」

「……。お前、どんな人生歩んで来たんだ? ガルダーガ族最大の大罪人で、世界龍オーヴァーロードの正室で、アースバインダー?」

「あなたも似たようなものですよね?」

「お前ほどではないよ!
 お前はイカれすぎだ!
 本当にイカレタ小娘だなぁ、あはははははっ。

 ……。

 気に入った!
 捧げてやるよ! 俺の生命。
 好きなように使ってくれ。
 ニダヴェリールに殺戮の楽園を造ってやる!
 どうだこれで満足か?」

「はい、大満足です。これから家族として、よろしくお願いします」


 周囲の皆が立ち上がり、久しく聞くことのなかったロデリク族のウォークライを合唱していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

結婚前夜に婚約破棄されたけど、おかげでポイントがたまって溺愛されて最高に幸せです❤

凪子
恋愛
私はローラ・クイーンズ、16歳。前世は喪女、現世はクイーンズ公爵家の公爵令嬢です。 幼いころからの婚約者・アレックス様との結婚間近……だったのだけど、従妹のアンナにあの手この手で奪われてしまい、婚約破棄になってしまいました。 でも、大丈夫。私には秘密の『ポイント帳』があるのです! ポイントがたまると、『いいこと』がたくさん起こって……?

婚約破棄された悪役令嬢、手切れ金でもらった不毛の領地を【神の恵み(現代農業知識)】で満たしたら、塩対応だった氷の騎士様が離してくれません

夏見ナイ
恋愛
公爵令嬢アリシアは、王太子から婚約破棄された瞬間、歓喜に打ち震えた。これで退屈な悪役令嬢の役目から解放される! 前世が日本の農学徒だった彼女は、慰謝料として誰もが嫌がる不毛の辺境領地を要求し、念願の農業スローライフをスタートさせる。 土壌改良、品種改良、魔法と知識を融合させた革新的な農法で、荒れ地は次々と黄金の穀倉地帯へ。 当初アリシアを厄介者扱いしていた「氷の騎士」カイ辺境伯も、彼女の作る絶品料理に胃袋を掴まれ、不器用ながらも彼女に惹かれていく。 一方、彼女を追放した王都は深刻な食糧危機に陥り……。 これは、捨てられた令嬢が農業チートで幸せを掴む、甘くて美味しい逆転ざまぁ&領地経営ラブストーリー!

処理中です...