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デザート・ストーム
シャマル#2
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────ククリ(人狼ガルダーガ種、ニダヴェリール宮廷正室、アースバインダー)
私は、孵化したリザードマンの生体データを調査していた。
リザードマンの開発者はアルデバランだ。
アルデバランはノスフェラトゥの生体データを採取していたので、ゼディーやルークもリザードマンの生体についてはかなりの注意を払ってきた。
ルフィリアから発声軸のばらつきが異常と聞いていたが、実際にデータをみてみると、別の種族といってもいいくらい、かけ離れている子もいる。
リザードマンの固有言語は、見直すべきかもしれないな……。
「ククリ、邪魔する。今大丈夫か?」
「ウルさん、珍しいですね。どうされました?」
「生命の基礎法術は、お前以外、どれくらいの数の人狼が使える?
戦士育てるなら、ある程度、想定しておかないとな」
「お師匠様からはシルバーリングでも発声できるのは10%、そのなかでも使いこなせるのはさらに1%に満たないって伺っています。人材が育っていないからもっと減っている可能性が高いですけど。私が筆頭神官やってたときは、ヨトゥンヘイムの生命基礎法術研究所の研究員にとても詳しい人材が5名くらい、発声できるだけで研究員は、20名くらいって感じです」
「遺伝や素質は関係ねぇってはなしだけど、お前、どうやって身につけたんだ?
あのクソじじか?」
「ええ、そうですね。お師匠様に引き取られて最初の3000千年くらいまでは、ひたすら彼を殺すことばかり考えて、彼の知覚を捉えることに必死だったのですよ。
私の方が知覚の帯域、軸数、感度など全て彼より上だという自信はあったのですが、彼の知覚の流れでどうしても捉えきれない領域があったので、それを捉えられないと、絶対に彼を殺すことはできないと感じていました。
そのころは技術資料も読めるようになっていたから、ヒントがないか調べまくりました。ただ、医学書しかアクセスできなかったので、知覚、体組成、法術、生命の根源体の関係だとかが中心でしたね。そのうち、生命の基礎法術に関する情報に辿り着いて、最初はまるでわからなかったけど、根気よく調査したのです。
理解するのに必要な資料はすぐ見つかったのですが、それも難しすぎて本当に苦労しましたよ。実際に発声できないと先に進めないし、発声を知覚できないとあってるかどうかもわからないので、知覚をさらに強化する訓練をしました。
最初に自分の生命の位相軸に水面を奏でられたときはほんとうに嬉しかったですよ。でも、すでにそのときは、お師匠様を殺すことより、もっと先に進みたくて、勉強と訓練をつづけていましたね」
「……お前、あれを自力で身につけたのか?」
「違いますよ。参照できる資料が勝手に増えていったのです。私のレベルに合わせて。しかもお師匠様は私の知覚を刺激してくれていましたから、うまく導いていただいたのですよ」
「クソジジイらしい面倒なやりかただな。お前も知覚の刺激ってのはできるのか?」
「ええ、できます。ただし、発声できない相手には無意味です。知覚が未発達で共鳴しないから。とにかく発声できることが第一歩なのですよ」
「なるほどな。そっから先も長そうだな」
「そうですね」
「水底、月影、一葉。できねえにしても、最低でもこれくらいは知覚して対応できねえと話にならんな」
「たしかに、使い手に出くわしたら危険ですね」
「ルーノは発声できそうなやつはいるか?」
「一番期待している娘も、まだ発声はできないようです。生命の基礎法術は、法術理論でもいちばん習得が困難な領域ですから、苦手意識が邪魔をしているのかもしれませんね」
「苦手とかいってたら、殺されちまうだろうが。見込みのありそうなのは、見分けがつかねえんだよな?」
「素質は全員一緒です。強いていうなら、とにかく知覚を磨いて、特殊発声も特殊言語も使いこなせることってくらいですかね。理論も実践も両方バランスよく身につけて。私の上級シャーマンの育成方法はそれだけです」
「あとで上級シャーマンが、どのレベルか見せてくれ」
「ルフィリアが監督してますからいつでも彼女にいってください」
「お前が期待してるのってルフィリアか?」
「その一人ですね」
「たしかに、いいセンスしてる。
だがあれで、まだ発声できねえのか?
どれだけ鍛えりゃいいんだよ」
「すでに準備はできています。十分すぎますよ。産声をあげられないだけです、ほんとうにそれだけ」
「お前の観測データとって調べられないのか?」
「自分で何度もやってます。進捗は芳しくありません。
でも、コツはあるはずね、きっと。
お師匠様の研究記録も未完でしたから、その記憶を頼りに引き継いでみたのですが、ほんと大変です。
生命の根源体がもつ生命の位相軸が重要な要素になっているらしいのですが、その領域は、ヨトゥンヘイムの生命基礎法術研究所の研究員だって、把握しきれていない領域でしたからね。
ただ、生命の位相軸と、特殊発声の関係性がわかってきたら、もしかしたら解決の糸口が見えてくるかもしれません。お師匠様はそんな観点から研究されていました。
しかし、もうそんなレベルまで理解なされたのですか? さすがですね」
「俺が理解しても、クソガキどもに身につけさせねえと話にならねぇよ。
それが悩みの種だ。特殊発声すらできねえのだから。
ルーノのシャーマンで特殊発声ができるのはどれくらいいる?」
「上級シャーマンは全員。下級シャーマンでも8割以上はできますよ」
「すげーな、みんなクソガキどもより若い娘ばかりだろ? それだけいるならだれか貸してくれ。クソガキどもの心を折りてえ」
「なら、丁度いいのが3人います。発声の指導もしっかりできますよ。
種族の方言は、自力で調整できますから大丈夫です」
「いいのか? そんな優秀なの借りても」
「もちろんですよ。ロデリクの社会に放り込んで刺激を受けさせたかったから、むしろ有り難いくらいです。殺戮の本能を叩き込んでやってください」
「そういうことか。それなら、まかせろ」
私は、孵化したリザードマンの生体データを調査していた。
リザードマンの開発者はアルデバランだ。
アルデバランはノスフェラトゥの生体データを採取していたので、ゼディーやルークもリザードマンの生体についてはかなりの注意を払ってきた。
ルフィリアから発声軸のばらつきが異常と聞いていたが、実際にデータをみてみると、別の種族といってもいいくらい、かけ離れている子もいる。
リザードマンの固有言語は、見直すべきかもしれないな……。
「ククリ、邪魔する。今大丈夫か?」
「ウルさん、珍しいですね。どうされました?」
「生命の基礎法術は、お前以外、どれくらいの数の人狼が使える?
戦士育てるなら、ある程度、想定しておかないとな」
「お師匠様からはシルバーリングでも発声できるのは10%、そのなかでも使いこなせるのはさらに1%に満たないって伺っています。人材が育っていないからもっと減っている可能性が高いですけど。私が筆頭神官やってたときは、ヨトゥンヘイムの生命基礎法術研究所の研究員にとても詳しい人材が5名くらい、発声できるだけで研究員は、20名くらいって感じです」
「遺伝や素質は関係ねぇってはなしだけど、お前、どうやって身につけたんだ?
あのクソじじか?」
「ええ、そうですね。お師匠様に引き取られて最初の3000千年くらいまでは、ひたすら彼を殺すことばかり考えて、彼の知覚を捉えることに必死だったのですよ。
私の方が知覚の帯域、軸数、感度など全て彼より上だという自信はあったのですが、彼の知覚の流れでどうしても捉えきれない領域があったので、それを捉えられないと、絶対に彼を殺すことはできないと感じていました。
そのころは技術資料も読めるようになっていたから、ヒントがないか調べまくりました。ただ、医学書しかアクセスできなかったので、知覚、体組成、法術、生命の根源体の関係だとかが中心でしたね。そのうち、生命の基礎法術に関する情報に辿り着いて、最初はまるでわからなかったけど、根気よく調査したのです。
理解するのに必要な資料はすぐ見つかったのですが、それも難しすぎて本当に苦労しましたよ。実際に発声できないと先に進めないし、発声を知覚できないとあってるかどうかもわからないので、知覚をさらに強化する訓練をしました。
最初に自分の生命の位相軸に水面を奏でられたときはほんとうに嬉しかったですよ。でも、すでにそのときは、お師匠様を殺すことより、もっと先に進みたくて、勉強と訓練をつづけていましたね」
「……お前、あれを自力で身につけたのか?」
「違いますよ。参照できる資料が勝手に増えていったのです。私のレベルに合わせて。しかもお師匠様は私の知覚を刺激してくれていましたから、うまく導いていただいたのですよ」
「クソジジイらしい面倒なやりかただな。お前も知覚の刺激ってのはできるのか?」
「ええ、できます。ただし、発声できない相手には無意味です。知覚が未発達で共鳴しないから。とにかく発声できることが第一歩なのですよ」
「なるほどな。そっから先も長そうだな」
「そうですね」
「水底、月影、一葉。できねえにしても、最低でもこれくらいは知覚して対応できねえと話にならんな」
「たしかに、使い手に出くわしたら危険ですね」
「ルーノは発声できそうなやつはいるか?」
「一番期待している娘も、まだ発声はできないようです。生命の基礎法術は、法術理論でもいちばん習得が困難な領域ですから、苦手意識が邪魔をしているのかもしれませんね」
「苦手とかいってたら、殺されちまうだろうが。見込みのありそうなのは、見分けがつかねえんだよな?」
「素質は全員一緒です。強いていうなら、とにかく知覚を磨いて、特殊発声も特殊言語も使いこなせることってくらいですかね。理論も実践も両方バランスよく身につけて。私の上級シャーマンの育成方法はそれだけです」
「あとで上級シャーマンが、どのレベルか見せてくれ」
「ルフィリアが監督してますからいつでも彼女にいってください」
「お前が期待してるのってルフィリアか?」
「その一人ですね」
「たしかに、いいセンスしてる。
だがあれで、まだ発声できねえのか?
どれだけ鍛えりゃいいんだよ」
「すでに準備はできています。十分すぎますよ。産声をあげられないだけです、ほんとうにそれだけ」
「お前の観測データとって調べられないのか?」
「自分で何度もやってます。進捗は芳しくありません。
でも、コツはあるはずね、きっと。
お師匠様の研究記録も未完でしたから、その記憶を頼りに引き継いでみたのですが、ほんと大変です。
生命の根源体がもつ生命の位相軸が重要な要素になっているらしいのですが、その領域は、ヨトゥンヘイムの生命基礎法術研究所の研究員だって、把握しきれていない領域でしたからね。
ただ、生命の位相軸と、特殊発声の関係性がわかってきたら、もしかしたら解決の糸口が見えてくるかもしれません。お師匠様はそんな観点から研究されていました。
しかし、もうそんなレベルまで理解なされたのですか? さすがですね」
「俺が理解しても、クソガキどもに身につけさせねえと話にならねぇよ。
それが悩みの種だ。特殊発声すらできねえのだから。
ルーノのシャーマンで特殊発声ができるのはどれくらいいる?」
「上級シャーマンは全員。下級シャーマンでも8割以上はできますよ」
「すげーな、みんなクソガキどもより若い娘ばかりだろ? それだけいるならだれか貸してくれ。クソガキどもの心を折りてえ」
「なら、丁度いいのが3人います。発声の指導もしっかりできますよ。
種族の方言は、自力で調整できますから大丈夫です」
「いいのか? そんな優秀なの借りても」
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