ブルー・クレセンツ・ノート

不死者の影

定例視察

────シンリック＝メイリン＝ミルファ（人狼ルガルベスティア種、ヘルヘイム宮廷司祭、アースバインダー）


　イサナギの刹那せつなに到達する高次元生命体は、ヒューマノイドのイサナミに比べ圧倒的に多いように思われがちだが、実際のところ、イサナギのほうが難易度は異常なほど高い。

　アースバインダーのような反則的な身体能力をもつ化物や、ノスフェラトゥのような生命の根源体と異常に相性の良い化物が混ざっているから、誤解されているのだ。

　実際、彼らを除外して統計をとると、イザナギとイサナミはほぼ堂々の傾向が現れる。当然のことだが、ニダヴェリールの特務機関の関係者は除外している。ククリという反則的な指導者がいるからだ。

　一般的には、いずれかの特性で師範クラスに到達していれば、自治区の市民としても兵士としても十分な能力が身につくのである。

　このほかに家元いえもとと呼ばれる特殊な称号がある。
　家元は、いずれかの特性を極めることで襲名できることになっている。
　水面、一刃、月影の各山の管理者になるには、家元に到達している必要がある。
　家元への道も険しく、そう簡単になれるものでないので、山の監視者になる必要がある者のみが目指す領域である。


　……


　私はニーヴェルング鉱床に視察に来ている。
　ヴェルキエーレの進化状況を把握するためだ。

　ヴェルキエーレは特殊な種族の最たる者であり、イサナギではなく、アマノイワトとアマテラスという超特殊技能を身に付けるのが必須になっており、アマノイワトを完遂して、種としての進化を遂げないと一人前のヴェルキーレと見なされない特殊な状況にある。

　アマノイワトを完遂するには、一刃と水面の両方で家元にならねばならない。
　しかもただ家元になるだけでなく、進化の門を通過するだけの研鑽が必要になるのだ。いかにヴェルキエーレが優秀だと言っても、ハードルが高いどころの話ではない。
　
　事実アストレアのヴェルキエーレ36名のうち、3名しか、まだ進化が済んでいない状況だ。ニダヴェリールの特務のヴェルキエーレ4名はとっくの昔に進化済みなので、かなりのプレッシャーがかけられているようだ。

　主戦力として期待されるのも考えものである。
　人狼ルガルやヒューマノイドの基準でいえば、全員、刹那が必須というレベルだろう。

　グラミア＝フランヴェルジュが進化を果たしてからかなりの時間が経過しているため、情報の蓄積が進み、観測装置なども充実しているので、修練自体はかなりやり易くはなっている。
　知識があれば人狼ルガルでもヴェルキエーレの習熟状況を判別できるようになっている状況だ。私やククリのレベルであればヴェルキエーレの指南すらできる程だ。

　しかし、ククリは、ニダヴェリールのヴェルキエーレの世話ばかり焼いているので、アストレアは、いつのまにか私の担当になってしまっている。

　指導自体は先行している3名が主導して行われており。たまに、ファルシオンが訪れて指南をしてくれる感じになっている。

　私はお目付役といったところだ。

　人狼ルガルや新種族は、早期に修練体系が確立してしまったので、最近は、私に直接指南をうけにくる子はほとんどいなくなった。最上級の技能体系を模索したい子が稀に相談しにくる程度だ。
　かわりに、種族としてとても複雑なヴェルキエーレが、ようやくスタート地点に立てたところなので、今は修練体系を手探りで模索してる状況にある。

　
　ヴェルキエーレは十分頑張っている。
　目標が高すぎるだけだ。

　今日も順調、問題なしと……。　


　……


　アルデバドスのアースバインダー達は、最近はかなり大人しくなった。
　イサナギの効果だろうか？
　元老院での足の引っ張り合いもめっきり減ってしまったそうだ。

　各種族のコロニーの状況もまずまずらしい。
　
　ノスフェラトゥの被害がたまにあるようだが、イサナギを駆使する厄介なレヴィ氏族はニダヴェリールに移住してしまったので、比較的対応は楽なようだ。

　だが、ルキフェル氏族とマモン氏族の受け入れの件は平行線が続いているようだ。
4外界からは、早めに受け入れるようにアドバイスされているようだが、元老院で猛反対されているのは相変わらずのようだ。
　
　ノスフェラトゥのコロニーの特定はほぼ完了しているらしい。
　
　アストレアの元老院では、戦争を支持するものも少なからずいるようだ。
　とはいえアストレアだけでは始祖を確実に倒す戦力が揃えられないので、ノイマン学派に自由自治を認めることを条件にドラッケンを出撃させてもらおうという意見まで出はじめている。


　ヴェルフェゴールが、ルキフェルとマモンを食べたら、どうなるのだろうか？

　ゼディーの話では、ドラッケンですら通用しなくなる可能性すらあるらしい。

　早いうちにアストレアでルキフェルとマモンを取り込み、ヴェルフェゴールを始末するのが一番被害が少なくて済む対応だと思われるが、アストレアの現状を見る限りでは、それは難しい気がしている。