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規格外で圧倒的
しおりを挟むネームド・デスナイト・ドノバン=ローウェンは圧倒的だった。
ネームド・リッチ・レオナルド=リーウェイ以外、その場にいるものは、化け物が化け物たる所以を目の当たりにさせられていた。
ローウェン卿の相手をしているネームド・デスナイト・アロンダイト本人が一番よくわかっているようだった。世界には敵に回してはいけない真の化け物がいることを。
現代の勇者の筆頭たるフォールクヴェール=アスタークですら、ローウェン卿の剣戟に見惚れていたほどだ。
勝敗以前の問題だった。
同じネームド・デスナイト同士の戦闘とは思えないほど、実力に圧倒的な差があったのだ。
受肉したばかりだったアロンダイトの体が、見る見るうちに削り取られて行った。
受肉した肉体の肉片は貴重なのものらしく、レオナルド=リーウェイ卿が、隙を見ては大切そうに拾い集めていた。
εは、リーウェイ卿に近寄り、戦闘後にアロンダイトを浄化する儀式を行いたい旨を伝えた。
リーウェイ卿は、アロンダイトの魂を、彼らの巣にバインドして、復活を繰り返させ、1000年くらいは彼で暇つぶしをして遊ぶつもりだったようだ。しかし、εの素性とアロンダイトとの関係を知り、考え直してくれた。「遺恨の根は早めに立つのが良い」と言い、王国の勇者と宮廷魔導士による浄化の儀式をここで執り行うことを許可してくれたのだ。
両者の決着はあっけなかった。
戦いに飽きたローウェン卿が、アロンダイトの剣ごと体を両断してしまったのだ。
アロンダイトはすでに心が折られてしまっていたらしい。
所詮は勇者の急造品だ。
この逆境でこそ湧き立つ、勇者の魂を有していなかったのだ。
リーウェイ卿は急いでアロンダイトの死体から残りの肉片を剥がすと、フォールクヴェール達に死体を引き渡してくれた。
儀式の最中、ローウェン卿は、フォールクヴェールに興味津々の様だったが、リーウェイ卿に止められていた。
浄化の儀式は、無事終了し、εはかつての自分の亡霊とようやく決別することができたのだ。
……
フォールクヴェールと宮廷魔導士達は、ローウェン卿とリーウェイ卿に感謝を捧げるとともに、国王から贈り物を差し上げたいが何が欲しいか伺ってくる様に指示を受けていたことを伝えた。
彼らは、「勇者達が暇なときは、彼らの巣にきて手合わせして欲しい」と願い出た。ローウェン卿とリーウェイ卿は巣から離れたところには行けないので、勇者達と暇つぶしをしたかったらしい。
それを受けたフォールクヴェールはその提案に興味を持ち、是非指南していただきたいと乗り気だった。意気投合したローウェン卿とフォールクヴェールはすぐにでも戦い出しそうな雰囲気だったが、宮廷魔導士が、「王の許可を取ってからにしてください」と泣きながら訴えかけたので、その場で解散することになった。
勇者と宮廷魔導士が帰還したあと、ローウェン卿とリーウェイ卿がεのそばに来て、ぽんぽんと頭を撫でた。
「お二人とも、今日もとても助かりました。本当にありがとうございました」
εは礼を言った。
「なぁに、気にするな。数百年ぶりに楽しめたのだ、礼を言うのはこっちだよ。
これからも楽しませてくれよ、困ったときはいつでもこい」
ローウェン卿が楽しそうに答えた。
εは二人に一礼すると、王都に帰還した。
……
第一線から退いていたとは言え、長年に渡り、前線の一翼を担っていたアロンダイトの死は、王国に活気を取り戻させていた。
また、フォールクヴェール=アスタークの強力な推薦により、ローウェン卿とリーウェイ卿が、勇者達の指南役として正式に任命された。
鍛え甲斐のある若者達が古戦場にやってくるのを見て、ローウェン卿とリーウェイ卿も楽しそうだった。εが昔使っていた古戦場の拠点は、いつの間にか綺麗に整備され、修練中の勇者達の休憩所になっていた。宿泊もできるらしい。
しかし、サキュバス達の動向は相変わらずで、サキュバス狩りの依頼が絶えない状況だ。サキュバス達が必死な様子が伺えた。最近では、サキュバス・クイーン達が自ら動き出すのではないかと噂され始めている。
……
エッタが合流した遊牧民族には、サキュバスの移動民族の一団がいた。
エッタは、ιを見つけ、ηからの伝言と、二人の状況を伝えることができた。ιはとても喜んでいたが、εのことをとても心配していた。
エッタは、会ってもらえるかわからないが、これからεに会いにゆくことを伝えると、ιも一緒に行きたがった。
でも、ιには移動民族の仕事があった。
悩んでいたιに、移動民族の姉に当たるサキュバスがが会いに行くことを勧めた。他の姉妹達も同意見だった様で、いつでも戻ってくるように言われると、ιは姉妹達に感謝して、エッタともに王都を目指すことになった。
……
フォールクヴェール=アスタークは、天才の名を欲しいままにしてきたエリート勇者だ。師匠と呼べるものはおらず、相手の技を一目見ればそれ以上の完成度でその剣技を使いこなせるほどだった。ほとんどの技能は、実戦で勝ち取ってきたものだ。
だがしかし、最近は伸び悩んでいた。
戦場には目指すべき目標がいなかったからだ。本陣の中から戦場を見渡す毎日に飽き飽きしていた。最近は、指揮官として指示を出す役割が多くなっていたこともある。大昔の大将軍達のように自ら最前線で戦いながら軍を率いるスタイルは現代では廃れてしまっていたのだ。
アロンダイトを下したドノバン=ローウェンの戦いは、衝撃的だった。
幼少の頃、憧れた大将軍のイメージがそのまま目の前に再現されていたのだ。
フォールクヴェールをもってしても、ローウェン卿の剣技は真似できなかった。
超越した剣技、卓越した駆け引き、強力無比な魔力、その全てが規格外であり圧倒的だったのだ。
フォールクヴェールは、まだ自分が高みに到達していないことを思い知り、武者震いした。〝筆頭勇者〟と呼ばれることが当たり前になって、戦うことに飽き始めていた自分を恥じると同時に、自分はまだまだ高みに登れると確信し、身体中に喜びが湧きたった。
フォールクヴェールは、ローウェン卿の元に足繁く通った。
彼にとって手を抜かれる相手は初めてだ。
彼は悔しさと楽しさが入り交じる初めての感覚に歓喜した。
……
ローウェン卿はフォールクベールの指南を楽しみにしている。
大昔は当たり前の様にいた規格外の大勇者たらんと、研鑽する若き勇者。
奢りなく純粋に、自分の殻を破ろうと必死で足掻く若者。
それがフォールクベール=アスタークだ。
こんな青年がいまだにいたのかと思うと、嬉しくてたまらないのだ。
昨今の勇者は大昔で言えば普通の騎士だ。
決まり切った枠組みに囚われ、己の限界を勝手に決めつけ思い込み、すぐに成長がとまる、半端者だ。もう、楽しめる相手には出会えないのかと、浄化の道を考えたことが少なからずあった。しかし、思い止まって、待ち続けて、正解だった。
ローウェン卿は、久しく感じることがなかった、魂が湧き立つ感覚を思い出し、噛み締めていた。
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