終末を執行します

キクイチ

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Xデー

 キルケーは、地下世界アングラにある烙印者ネフィリムの本拠にいた。

 キルケーが言う。
「ごきげんよう、ヘカテー」

「あら、キルケー、ようやく復活?」

 二人は抱き合って甘いキスを楽しむ。

「『不毛の大地ノド』には、糸を垂らしてきたの?」

「うん、裏切ってくれたから、根底から社会を崩壊させてやることにしたの。
 最上流階級はほとんど私のお人形になってるわ」

「それは、面白いわね。
 でも、生身で不毛の大地ノドに行くのは、もうやめたほうがいいわね」

「わかってる。さすがに懲りたから」


……


 キルケーが企てたXデーが到来すると、各国から抜擢した最精鋭で組織されたナイトホーク部隊が、パペットの駆逐と富裕層の資産没収を迅速に行った。
 その後、ナイトホーク部隊は、ラプトルに加わり、軌道エレベーター周辺の警護を任されることになった。

 事前にナイトホーク部隊の家族や親族は軌道エレベーター施設にある安全区画のシェルター内に避難済みであり、膨大な太陽エナジーにより大規模栽培される良質な食糧供給システムにより、食糧難に陥ることもなく、これまで以上に贅沢な生活が確約されている。

 ラプトルの任務は、人類の監視だ。

 軌道エレベーターの城下町は、最先端の技術で溢れかえり、周辺の荒廃した都市と比べると300年以上の科学技術の差がついていた。彼らには既存の技術を再発明できないからだ。これからさらにその格差は広がるだろう。

 当初は、ラプトルの軌道エレベーターの城下町を狙って、多くの軍隊が押し寄せてきたが、衛生軌道上のレーザー兵器によって、あっという間に無力化され、その残骸はラプトルの鉱物資源として再利用されてしまった。

 時折、侵入を試みようとするものがいるようだが、高度な生体認証システムが機能しており、権限のない生物は、容赦なく射殺される仕組みだ。

 重量物を乗せた装甲車で突撃しようとしても、先の軍隊の二の舞となり、ラプトルの資源が増えるだけだった。

 核兵器による攻撃を受けても、軌道エレベーター周辺数百km県内では核融合はおろか、臨界状態にすらできず、放射性物質も放射線を無力化されてしまい、資源として再利用されるだけだった。
 
 圧倒的な武力差があったのだ。

 ようやく気付いた人類は、ラプトルには逆らわず、新しい生活基盤を模索し始めることにした。

 その多くが、第一次産業を選んだようだが、商人や盗賊となる者たちも少なくはなかった。

 不動産も保証されるものではなく、良い土地のほとんどは盗賊の支配下となり、農民たちは奴隷として働かされるようになった。

 しかし、手広くやるとラプトルに目をつけられるため、商人や盗賊たちは、分をわきまえた範囲で取引をしていた。

 小規模な商業都市や港町が各地に点在するようになった。

 昔の大都市は、いくつかの盗賊団で分割され個別に統治されたが、インフラを管理しきれず、打ち捨てられ、そのほとんどは廃墟と化した。

 人類の文明レベルは確実に後退していったのだ。

 実現可能な高度技術を有する即戦力の科学者やエンジニアたちは奴隷として高値で取引されるようになった。設計図などの技術資料も同様だ。

 軍人や警官崩れの人々は、盗賊になるか、傭兵として商人や盗賊に雇われることを選んだ。
 
 陸運と海運業が盛んになり、それに伴い文化も変化していった。

 ラプトルが情報統制を止めたため、刻印者エクスシアの目撃情報が一般に広まるようになると、人間には手出しできない存在で、廃人や化け物を生み出す、天の使徒として恐れられるようになっていった。


……


 キルケーが言う。
「あーもー、むかつくー!」

 ヘカテーが答える。
「キルケー、御機嫌斜めね。何かあったの?」

「『不毛の大地ノド』の世界経済を崩壊させて、各国の軍隊にクーデターをおこさせてあげたんだけど、ちっともおもしろくないの」

「まさか、失敗したの?」

「大成功よ!」

「じゃぁ、どうして不機嫌なのよ?」

「奴ら、私の仕掛けに乗って、世界経済の崩壊と戦争をさらに悪化させたの」

「うふふ、なにそれ? なんでそんな事になったの?」

「ラプトルのやつら、私に仕掛けさせた後、クーデターの大混乱に紛れて、金銀財宝を世界中から奪い取って宇宙そらへ持ち逃げしたの」

宇宙そらに影響力のある、お人形はいたのでしょ?」

「仕掛けた直後に狙撃されて、資産を没収されたわ」

「パペッティアはどうなったの?」

「ラプトル最大のパトロンだった名門エルドリッチ家も略奪のターゲットにされて無一文状態。人形増やしてもスナイパーの標的になるだけだから、何の役にも立たないわ」

「思惑通り、世界を転覆させて大混乱にできたけど、肝心のラプトルが大儲けしたから面白くないということかしら?」

「うん。あいつらの情報網どうなってるの?
 パペットに気づくとかありえないわよ?」

「星詠みできる情報屋でもいるのかしら?」

「ウーラニアーだって無理でしょ? 刻印者エクスシア陣営にだってないはずよ。カマエルの配下は?」

「おそらくその手の能力者がいたとしても、審判者アンサラーの直属で誰にも手が出せないはず」

審判者アンサラーが動いた?」

「罪人のために動くはずないとおもうけど?
 星詠みは、ウーラノスの専売特許みたいなものだし、他にいたとしてもまるで心あたりがないわ」

「そういえば、ウーラノスってどうしたの?」

「いまは教育中、能力面はまるで進歩がないみたい。未だに星詠みすらできないらしいわ」

「なにそれ、詳しく説明してくれる?」

「クロノスが、王座を得るために、人間の赤ん坊をさらってきて、ウーラノスの魂と交換したのよ。でも、不適合者だから能力は劣化。しかも人格が赤ん坊だから、昔の記憶はあるけど、白痴状態になったの」

「クロノスもすごいことやるわね。で、赤ん坊になったウーラノスは?」

「人間なんかを神聖な大地に置いておけないから、『不毛の大地ノド』に捨てたらしいわ」

「情報屋ってそいつじゃない?」

「戦場に捨てたらしいから、生き延びてる可能性なんてほとんどないわよ?」

「まー、いまさら見つけ出しても意味ないか。
 しかしムカつく。ラプトルを全滅させてやりたいわ」

「人間なんて100年も生きられないのだからすぐに全滅するわ。小さいことにこだわりすぎよ」

「そうだけど、気に入らない」



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