14 / 55
可能性③
しおりを挟む
「これはノートの最初に書かれていた告白めいた記述にあったものです。まずこれが報告③の、川原を誰もが優しいと証言した点に照らし合わせると、これは川原の性癖、つまり愛する人を虐めることの、実は裏返しなのです」
一旦静かになっていた会場が、またざわついた。
「それはどういうことだ?」
会場から声がした。
声に対して後藤は
「先ほど、川原が叔父の養子になったと言いましたが、ここでの川原は優しい人間でした。「虫一匹殺せない平和主義者だった」と、川原は言っています。それは、叔父夫婦をはじめ、周りに愛する者がいないからだと取れる表現が、告白にはありました。それはつまり、今の川原を囲む環境には、愛するに足る者はいないと解釈出来ます。但し、ひとりの例外はいます」
「それは?」
今度は刑事部長が聞いた。
「妻の幸恵さんです」
後藤は応えた。
「ということは、幸恵さんは何かしらの虐めを受けているということか?」
部長が聞く。
「それがおそらく報告⑦の、奥さんの手弁当を食べなかったということではないかと思うのです。後ほど皆さんにノートのコピーをお渡ししますが、川原の性癖の所と、奥さんについての記述の所を読んでいただければ、私がそう思うことをご理解いただけると思います」
「では、噂になったという、奥さんとの不仲は無かったということか?」
「そうです。それどころか川原は、奥さんを大変愛していたと思います。ですから、報告③でお話しした、優しさの裏返しと同じ理屈になるのです」
「なんとも不可解な男だ」
部長は自分の頭が不可解になったような苦い顔をした。
後藤は改まって会場を見渡した。
「次にノートの新聞スクラップについてご報告します。ちなみにこのノートは重ねて言いますが、今回の事件現場で発見された1本の鍵によってもたらされたものです。この鍵は文字通り、この事件の鍵であったと思います。これと同じく、現在開きつつあるUSBメモリにも、何かしら大きな鍵があるように思えます」
後藤の言葉に刑事部長が反応した。
「USBだが、なんとか入口のロックは外れたようだ。ただ、中のフォルダが何重にも、まるでマトリョーシカのように開いても開いても出て来る上に、それぞれに難解なパスワードがあり、とにかく難儀しているらしい。それだけに今、後藤君が言ったように、中には事件の核心に触れるものがあるのではないかと私は思う」
後藤は、最近自分と平井に起こった奇妙な現象、つまり記憶障害のようなものの根源が、もしかしたらUSBの中にあるのでは?と、今の部長の言葉を聞いて直感した。
そして
(そうだ…)と思った。
一旦静かになっていた会場が、またざわついた。
「それはどういうことだ?」
会場から声がした。
声に対して後藤は
「先ほど、川原が叔父の養子になったと言いましたが、ここでの川原は優しい人間でした。「虫一匹殺せない平和主義者だった」と、川原は言っています。それは、叔父夫婦をはじめ、周りに愛する者がいないからだと取れる表現が、告白にはありました。それはつまり、今の川原を囲む環境には、愛するに足る者はいないと解釈出来ます。但し、ひとりの例外はいます」
「それは?」
今度は刑事部長が聞いた。
「妻の幸恵さんです」
後藤は応えた。
「ということは、幸恵さんは何かしらの虐めを受けているということか?」
部長が聞く。
「それがおそらく報告⑦の、奥さんの手弁当を食べなかったということではないかと思うのです。後ほど皆さんにノートのコピーをお渡ししますが、川原の性癖の所と、奥さんについての記述の所を読んでいただければ、私がそう思うことをご理解いただけると思います」
「では、噂になったという、奥さんとの不仲は無かったということか?」
「そうです。それどころか川原は、奥さんを大変愛していたと思います。ですから、報告③でお話しした、優しさの裏返しと同じ理屈になるのです」
「なんとも不可解な男だ」
部長は自分の頭が不可解になったような苦い顔をした。
後藤は改まって会場を見渡した。
「次にノートの新聞スクラップについてご報告します。ちなみにこのノートは重ねて言いますが、今回の事件現場で発見された1本の鍵によってもたらされたものです。この鍵は文字通り、この事件の鍵であったと思います。これと同じく、現在開きつつあるUSBメモリにも、何かしら大きな鍵があるように思えます」
後藤の言葉に刑事部長が反応した。
「USBだが、なんとか入口のロックは外れたようだ。ただ、中のフォルダが何重にも、まるでマトリョーシカのように開いても開いても出て来る上に、それぞれに難解なパスワードがあり、とにかく難儀しているらしい。それだけに今、後藤君が言ったように、中には事件の核心に触れるものがあるのではないかと私は思う」
後藤は、最近自分と平井に起こった奇妙な現象、つまり記憶障害のようなものの根源が、もしかしたらUSBの中にあるのでは?と、今の部長の言葉を聞いて直感した。
そして
(そうだ…)と思った。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる