刺朗

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対決②

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後藤が驚いて平井を見た。
平井は「これ、これ」と言うように自分のノートパソコンを指差している。
後藤が側に行くと
「見て下さい」
と、平井がパソコンの画面を後藤に向けた。そして
「フォルダが開いたんです」
と言った。
そこには「刺朗」とタイトルされたファイルが1つあった。
「どうやって開けたんだ?」
後藤が聞いた。
「それが、はじめに出たフォルダをダブルクリックしただけで開いたんですよ」
平井が気の抜けたような返事をした。
後藤はしばらく考えて
「私か平井君だから開いたんじゃないか?」
と言った。
「どういうことです?」
平井が聞く。
「逆に言えば、他の誰が試みても永遠に開かないんだ」
後藤は酔ったように言った。
「え?なぜ、私らなんですか?」
「君が言ったろ?選ばれたんだって」
後藤が笑うと平井は
「しかしこのUSBは、この事件が始まる前に作成されていて、しかも作成した川原は私たちを知らないまま死んでいるんです。どうやって私らを選ぶんですか?」
「君は言ったろ?刺朗が選んだって」
「刺朗が?」
「これは三次元の話ではないよ。四次元以上の次元の話だ。そこは時間空間だよ。いろんな地球がある、あの話だ。そこでは予知することだって当たり前なんだ。刺朗はそんな空間にいるんじゃないかな?」
そのようなことを気持ちよさげに言う後藤は、いつもの後藤ではないと平井は感じた。
「ところであれから、刺朗はどこへ行ったんでしょう?」
改まって平井が聞いた。
「さぁな、どこかで私らを見ているのは確かだ。こうやってUSBが開いたんだし…と、さっそく見ようじゃないか、このファイルを」
後藤の言葉で、平井はファイルを開いた。
中身はページもので、縦書き原稿用紙のフォームであった。
その1ページ目は中央に「刺朗」とタイトルだけが書いてあった。
「まるで小説ですね」
平井が茶化すように言った。
「次は?」
後藤が促す。
2ページ目は右から2行目に「第一章 幸恵に宛てて」と小タイトルがあり、1行空けて本文が始まっていた。
「やはり奥さんに言いたいことがあったんだ」
後藤が呟いた。
「第一章ということは、他にもタイトルが出て来るんですね」
そう言いながら平井の目は、既に本文を追っている。後藤は脇から画面を見るのがしんどかったので
「すまんが全文、プリントアウトしてくれないか?」
と、平井に頼んだ。
「分かりました」

プリントアウトの間、後藤は平井に
「一連の悲惨な事件の中でなぜ、幸恵さんだけが生き残ったのかがここで明らかになりそうだが、さて他の章には何が書かれているのやらな」
と苦笑いまじりで言った。
「こんなことなら初めから私たちで開ければよかったですね」
平井も苦笑いした。
「しかしなぁ…なんで私と君なんだろう?…」
プリンターは、まるで舌を何回も出してふたりを嘲るように、原稿を吐き出していた。
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