37 / 55
対決12
しおりを挟む
再び水が赤くなり、凛の一部の肌色が浮かんだり消えたりした。
水はまた透明に戻った。
僕は凛の最後の一部を、シャバシャバとゆすいで流れのない所に浸けた。それは球体の感触がした。
ガタガタ震えながら僕を見ている少年の前を通り過ぎ、リュックを持ち、元の場所に戻った。リュックからゴミ用のポリ袋を出した。
そこに川の水を入れ、凛を浸した。
半開きの口には、離乳食をスプーンで詰めた。僕は家族にまた、最後の食事を与える羽目になった。
僕は【あいつ】に【これで気が済んだか!】と、心のなかで怒鳴っていた。
袋の口を結んでハンカチで袋の水滴を拭き、風の通る所で乾かした。
少年は腰が抜けたままだった。その腕を掴んで無理矢理立たせた。
僕はポリ袋を指差し
【それを持て!】
脅すように少年に言った。
少年はすっかり怯えていたが、右手首を引っ張り袋の所へ引きずって行った。
【こいつを持つんだ!】
少年の右手を袋の結び目に押し付けて、
また脅すように言った。
少年はブルブル震えるばかりだった。
袋に押し付けられた右手はグーの形をしたまま開かない。それを無理矢理こじ開けた。
【持て!!】
思い切り怒鳴った。
ふと、誰かに見られてやしないかと不安になり、周りを見回した。
幸い川縁には背の高い葦が密生していたので、僕らの姿は葦に隠れていた。
風も吹いていたので、それにそよぐ葦の音がうるさく、声もかき消されているようだ。
【持てこのヤロウ!】
この怒鳴りに少年はビクッと反応し、袋の結び目をグッと掴んだ。
袋を持ち、ガクガク震えて立っている少年に僕は
【どこかに捨てて来い!それで許してやる!】
それだけ言いながら、包丁を思い切り川に投げ、あの大きな岩に向かって歩いた。そして岩にもたれて座り、リュックを覗いた。
麦茶の入った哺乳瓶があった。
(飲ませてやれなかったなぁ)
少年がそれからどうしたかは知らない。
あの時の僕は、半分投げやりになっていた。少年次第では警察行きになるのは分かっていたが、自分が過去と現在に肉親にした仕打ちを思うと、いっそ捕まってしまった方がいいんだという気持ちだった。
リュックから睡眠薬を取り出し、哺乳瓶のお茶で飲んだ。以前、仕事のストレスで眠れなかった時に通った医者で処方された、強めの睡眠薬だった。
勢いで致死量まで飲みそうになったが(あいつに負けたままでいいのか?)という思いと(幸恵との約束は果たさないでいいのか?)という思いが頭をよぎったので、1回半の服用量を飲んだ。
水はまた透明に戻った。
僕は凛の最後の一部を、シャバシャバとゆすいで流れのない所に浸けた。それは球体の感触がした。
ガタガタ震えながら僕を見ている少年の前を通り過ぎ、リュックを持ち、元の場所に戻った。リュックからゴミ用のポリ袋を出した。
そこに川の水を入れ、凛を浸した。
半開きの口には、離乳食をスプーンで詰めた。僕は家族にまた、最後の食事を与える羽目になった。
僕は【あいつ】に【これで気が済んだか!】と、心のなかで怒鳴っていた。
袋の口を結んでハンカチで袋の水滴を拭き、風の通る所で乾かした。
少年は腰が抜けたままだった。その腕を掴んで無理矢理立たせた。
僕はポリ袋を指差し
【それを持て!】
脅すように少年に言った。
少年はすっかり怯えていたが、右手首を引っ張り袋の所へ引きずって行った。
【こいつを持つんだ!】
少年の右手を袋の結び目に押し付けて、
また脅すように言った。
少年はブルブル震えるばかりだった。
袋に押し付けられた右手はグーの形をしたまま開かない。それを無理矢理こじ開けた。
【持て!!】
思い切り怒鳴った。
ふと、誰かに見られてやしないかと不安になり、周りを見回した。
幸い川縁には背の高い葦が密生していたので、僕らの姿は葦に隠れていた。
風も吹いていたので、それにそよぐ葦の音がうるさく、声もかき消されているようだ。
【持てこのヤロウ!】
この怒鳴りに少年はビクッと反応し、袋の結び目をグッと掴んだ。
袋を持ち、ガクガク震えて立っている少年に僕は
【どこかに捨てて来い!それで許してやる!】
それだけ言いながら、包丁を思い切り川に投げ、あの大きな岩に向かって歩いた。そして岩にもたれて座り、リュックを覗いた。
麦茶の入った哺乳瓶があった。
(飲ませてやれなかったなぁ)
少年がそれからどうしたかは知らない。
あの時の僕は、半分投げやりになっていた。少年次第では警察行きになるのは分かっていたが、自分が過去と現在に肉親にした仕打ちを思うと、いっそ捕まってしまった方がいいんだという気持ちだった。
リュックから睡眠薬を取り出し、哺乳瓶のお茶で飲んだ。以前、仕事のストレスで眠れなかった時に通った医者で処方された、強めの睡眠薬だった。
勢いで致死量まで飲みそうになったが(あいつに負けたままでいいのか?)という思いと(幸恵との約束は果たさないでいいのか?)という思いが頭をよぎったので、1回半の服用量を飲んだ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる