短い話たち

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鉛筆

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女の子がシャープペンシルを使うことには意味があった。
それはある鉛筆の記憶が怖かったからだ。
ある鉛筆とは、女の子が小学生になって初めて迎えた誕生日に母親からプレゼントされた鉛筆セットの中の一本だった。10本あったセットの鉛筆はほとんど勉強に使って、とうとう最後の1本になってしまった。それまでは何も考えずに使っていた鉛筆も、最後の1本になるとなんだか悲しくなってきた。それは誕生日にもらったものだから、なんだか誕生日の思い出が消えてしまいそうだったから。
女の子はその鉛筆だけは使わないでずっと取っておこうと思った。だから削らずにさらっぴんのまま眺めていたが、それはどうしても鉛筆に見えなかった。
女の子は半分嫌だったけど頭だけ鉛筆らしく削った。
すると女の子は無性に何か書きたくなってきた。鉛筆が鉛筆らしくなると鉛筆から「何か書いて」と言ってくる。女の子は
「わたしのなまえは?」
と書いてみた。すると手が勝手に動いて
「しってることをきくな」
と書いた。そしてまた勝手に動いて
「はじめまして」
と書いた。
女の子もはじめましてと書こうとしたが手が全然動かない。女の子が首をかしげているとまた勝手に動き出して
「わたししかうごかせないよ」
と書いた。そして
「あなたははなしかけてくれたらいい」
と書いた。
「あなたは誰なの?」
文字が言う通りに女の子は話しかけた。だけどどこに話しかけていいのか分からなかった。仕方がないから紙の上を見ていた。
「あなたはだれって、かいてるのはだれ?」
紙の上にそんな文字が書かれた。
「私よ」
女の子が言うと
「じゃああなただわ」
という文字が現れた。
女の子の声と鉛筆の文字のやり取りが続いた。
「あなたは私?」
「そうよ、わたしはあなた」
「どういうこと?」
「いつかわかるわ」
そこまで話した時、急に鉛筆がわけの分からない漢字を書き始めた。それは延々と続く漢字の羅列だった。女の子の手はまるで機械のように次から次へと漢字を書き、鉛筆はどんどんすり減り、そのたびに女の子は鉛筆を削り、漢字で埋まる紙を替えた。
「もう止まってよ!」
腕の痛みに女の子が叫んだ時、もう鉛筆はほとんどその姿をとどめていなかった。
削るだけ削られた鉛筆は、もう円錐の頭だけになり、しまいに女の子の手は爪で鉛筆を剥き始め、爪が血だらけになる頃には鉛筆の木を剥き切って、中から出て来た芯を指の腹で押してまで漢字を書き続けていた。
そして最後の最後に
「おくってくれてありがとう。いつまでもげんきでね」
と、指の腹が太く大きな文字を押し書いた。
もう芯は無くなっていた。
やっと女の子の手が自由になった。

あとで分かったのは、鉛筆が書いた漢字の羅列は死者を弔うお経だったこと、女の子は生まれつき内臓が悪くて、赤ん坊の時に臓器移植で一命を取りとめたということだが、それは女の子がもう女の子でない、大人になってから分かったことだった。
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