59 / 89
第四十三話
しおりを挟む
昔、アリーシャ様のお使いで市街地に行くことがありました。そこで見かけたのは、甘味を欲しがり、母親に泣きつく少女の姿でした。
周りの迷惑を考えず、自分の要求を対価もなしにただひたすらに求める。その『泣く』という行動が、私にとってはとても無駄なものだと思っていました。
だって、その行動によって得られるものなんてなにもないからです。今の状況が好転するわけでも、自分の要求が必ず叶うわけでもありません。そんな事をしているより、自分の能力を引き上げる方が大切だと、そう思っていたのに……
どうして私は今、泣いているのでしょうか? どうすればこの涙を止める事ができるのでしょうか?
涙が止まらない。止め方なんてわからない。
「リオン……様」
口に出てくるのは何故かリオン様の名前ばかり。
――そういえば、あの子も「ママ」と、泣きながら母親の名前を呼んでいた。それは願いを求める相手? それとも……
「信頼……してる、人?」
どんな姿を見せても自分からは離れないと、信頼信頼している相手……なんて、そんな事を小さい子が考えているはずがありませんよね。私は一体どうしてしまったのでしょうか?
「リーア!」
「リオン様……!」
どうしましょう!? 見つかってしまいました。涙も止まらず、体に力も入らないため、この場から逃げ出すこともできない。
「あっ……あっ……」
思うように声も出せない。怖い。リオン様に拒絶されるのが怖い。
体が震えて、ギュッと自分を抱きしめるように、縮こまる。
「はぁ……はぁ……、よかった」
リオン様はそのまま私を抱きしめる。
「リーア……よかった……」
その言葉に顔を上げると、金色の瞳と目が合う。不安げな顔。息もまだ整っておらず、肩で息をしている。
そんなに必死に私を探してくれていたのですね。私はリオン様に頼られているリリア様に嫉妬し、嫌われたと思ってたのに……
「よかった。今はあの女もいる。君が狙われているんだ。だから、もっと――」
そうでした。リオン様は優しいのです。こんな私にも……それなのに、私はこの優しさに甘えてしまっていました。
「申し訳ありませんでした。リオン様の優しさに甘えすぎていました。これからはできるだけ邪魔をしないようにしたいと思います。それではっ」
まだ、リオン様を前にすると胸が痛くなる。以前のように感情を隠す事も、今は難しい。
一度距離をとって、落ち着けば、きっとまた以前のように……
リオン様を軽く突き放し、逃げようとするけれど、リオン様の腕が解けない。
もう一度、今度は強く押すが全然解ける気がしません。むしろ、さっきよりも強くなっているような……って痛い、痛いです!
「すまない。逃げようとするからつい」
そう言って、リオン様は抱き締めている力を弱める。しかし、離してくれる気配はありません。
「あ、あの……リオン様?」
「どうやら、涙も止まったようだね」
「えっ? あっ、そうですね。そんなことよりもリオン様……」
「んっ? なにかな?」
「腕を……」
「んっ?」
「いえ、なんでもないです」
どうしよう……いつにもなく、リオン様が怖い。今のリオン様からは怒っているお姉様と同じ雰囲気を感じます。
「それで……なんだって? 甘え? 君が? 邪魔をしないって何?」
「それは……今回の手紙の事がわかったからです。あれは私ではなく、リオン様宛ですよね? 下級貴族では、リオン様との婚約話を進める事は難しいので、直接リオン様の元へ届けたかったのでしょう。甘えは……私自身、何もないのにリオン様の近くに居過ぎたこと。邪魔は……リオン様とこれから婚約される方に誤解されないようにです」
「はぁ……何から言っていいのか。どうすればこんな誤解が生まれるのか。とりあえず、手紙の件に関してだが、あれは間違いなくリーア宛だよ」
「どうして私に……」
「リーアが何処かに嫁ぐのが確定しているからだ。そして、支えるのであれば、自分と同じぐらいの年齢であったり、メイドを優遇してくれそうな人物がいいに決まっている。そして君は入学初日、男爵令嬢であるリリア嬢とのやりとりを知っている者がほとんどだ。それに、ひょっとすればシェリア嬢にも自分の名前が伝わるかも知れないだろう? だから君に手紙が渡された」
「ですが、それなら名前だけでは不十分ではないでしょうか? 私は今回一斉に渡されたので、名前とかを顔が一致している方はほとんどいません」
お姉様に紹介というのであれば、名前や特技以外にも書くべきではないのでしょうか?
「貴族は、例え自分より格上の者からの推薦であったとしても、対象の人物は調べるものだ。だから、手紙に書くのは最小限でいい。相手に媚びていると思われる方こそ、見向きされなくなる。君に、「この人はこんな事が得意で、こんな話をしました。」と、例え結果に繋がらなくても、名前が出るだけで十分なのさ。後はその名前の人物を勝手に調べるからね」
王族だけでなく、貴族も雇う人物は選ばないといけません。その者が問題を起こした時に、責任を取らなければいけないのは、雇った側ですから。だからこそ、雇う側も相手の事を調べないといけない。だから、調べる対象として、名前だけは私に覚えて欲しかったという事でしょうか。
それはわかりました。ですがもう一つ、気になる事があります。
「リリア様も狙っているというのはどういう意味でしょうか? リオン様の婚約者の座……ではないのですか?」
だからこそ、手紙の件もリオン様の婚約者になりたい方たちだと思っていたのですが……
周りの迷惑を考えず、自分の要求を対価もなしにただひたすらに求める。その『泣く』という行動が、私にとってはとても無駄なものだと思っていました。
だって、その行動によって得られるものなんてなにもないからです。今の状況が好転するわけでも、自分の要求が必ず叶うわけでもありません。そんな事をしているより、自分の能力を引き上げる方が大切だと、そう思っていたのに……
どうして私は今、泣いているのでしょうか? どうすればこの涙を止める事ができるのでしょうか?
涙が止まらない。止め方なんてわからない。
「リオン……様」
口に出てくるのは何故かリオン様の名前ばかり。
――そういえば、あの子も「ママ」と、泣きながら母親の名前を呼んでいた。それは願いを求める相手? それとも……
「信頼……してる、人?」
どんな姿を見せても自分からは離れないと、信頼信頼している相手……なんて、そんな事を小さい子が考えているはずがありませんよね。私は一体どうしてしまったのでしょうか?
「リーア!」
「リオン様……!」
どうしましょう!? 見つかってしまいました。涙も止まらず、体に力も入らないため、この場から逃げ出すこともできない。
「あっ……あっ……」
思うように声も出せない。怖い。リオン様に拒絶されるのが怖い。
体が震えて、ギュッと自分を抱きしめるように、縮こまる。
「はぁ……はぁ……、よかった」
リオン様はそのまま私を抱きしめる。
「リーア……よかった……」
その言葉に顔を上げると、金色の瞳と目が合う。不安げな顔。息もまだ整っておらず、肩で息をしている。
そんなに必死に私を探してくれていたのですね。私はリオン様に頼られているリリア様に嫉妬し、嫌われたと思ってたのに……
「よかった。今はあの女もいる。君が狙われているんだ。だから、もっと――」
そうでした。リオン様は優しいのです。こんな私にも……それなのに、私はこの優しさに甘えてしまっていました。
「申し訳ありませんでした。リオン様の優しさに甘えすぎていました。これからはできるだけ邪魔をしないようにしたいと思います。それではっ」
まだ、リオン様を前にすると胸が痛くなる。以前のように感情を隠す事も、今は難しい。
一度距離をとって、落ち着けば、きっとまた以前のように……
リオン様を軽く突き放し、逃げようとするけれど、リオン様の腕が解けない。
もう一度、今度は強く押すが全然解ける気がしません。むしろ、さっきよりも強くなっているような……って痛い、痛いです!
「すまない。逃げようとするからつい」
そう言って、リオン様は抱き締めている力を弱める。しかし、離してくれる気配はありません。
「あ、あの……リオン様?」
「どうやら、涙も止まったようだね」
「えっ? あっ、そうですね。そんなことよりもリオン様……」
「んっ? なにかな?」
「腕を……」
「んっ?」
「いえ、なんでもないです」
どうしよう……いつにもなく、リオン様が怖い。今のリオン様からは怒っているお姉様と同じ雰囲気を感じます。
「それで……なんだって? 甘え? 君が? 邪魔をしないって何?」
「それは……今回の手紙の事がわかったからです。あれは私ではなく、リオン様宛ですよね? 下級貴族では、リオン様との婚約話を進める事は難しいので、直接リオン様の元へ届けたかったのでしょう。甘えは……私自身、何もないのにリオン様の近くに居過ぎたこと。邪魔は……リオン様とこれから婚約される方に誤解されないようにです」
「はぁ……何から言っていいのか。どうすればこんな誤解が生まれるのか。とりあえず、手紙の件に関してだが、あれは間違いなくリーア宛だよ」
「どうして私に……」
「リーアが何処かに嫁ぐのが確定しているからだ。そして、支えるのであれば、自分と同じぐらいの年齢であったり、メイドを優遇してくれそうな人物がいいに決まっている。そして君は入学初日、男爵令嬢であるリリア嬢とのやりとりを知っている者がほとんどだ。それに、ひょっとすればシェリア嬢にも自分の名前が伝わるかも知れないだろう? だから君に手紙が渡された」
「ですが、それなら名前だけでは不十分ではないでしょうか? 私は今回一斉に渡されたので、名前とかを顔が一致している方はほとんどいません」
お姉様に紹介というのであれば、名前や特技以外にも書くべきではないのでしょうか?
「貴族は、例え自分より格上の者からの推薦であったとしても、対象の人物は調べるものだ。だから、手紙に書くのは最小限でいい。相手に媚びていると思われる方こそ、見向きされなくなる。君に、「この人はこんな事が得意で、こんな話をしました。」と、例え結果に繋がらなくても、名前が出るだけで十分なのさ。後はその名前の人物を勝手に調べるからね」
王族だけでなく、貴族も雇う人物は選ばないといけません。その者が問題を起こした時に、責任を取らなければいけないのは、雇った側ですから。だからこそ、雇う側も相手の事を調べないといけない。だから、調べる対象として、名前だけは私に覚えて欲しかったという事でしょうか。
それはわかりました。ですがもう一つ、気になる事があります。
「リリア様も狙っているというのはどういう意味でしょうか? リオン様の婚約者の座……ではないのですか?」
だからこそ、手紙の件もリオン様の婚約者になりたい方たちだと思っていたのですが……
2
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~
白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」
枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。
土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。
「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」
あなた誰!?
やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!
虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!
こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。
そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。
婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。
・・・だったら、婚約解消すれば良くない?
それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。
結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。
「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」
これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。
そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。
※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。
※本編完結しました。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる