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満足
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目の前で嫌な友情が結ばれた。
国の事だけを考えるなら悪い事ではない、そのはずなんだが、経緯がアレなだけに嫌な予感しかしない。それどころか、今すぐにでもここから立ち去りたい。
そう。俺はここで逃げ出すべきだったんだ。
「のぅ、アイリス。他にはないのか?」
「ふふっ、ニーナは欲張りですね」
「仕方ないじゃろう。妾は失恋したんじゃ。だから手元にアイン殿下の姿絵を持っておるわけにもいくまい。じゃが、これなら誰が見てもわからないじゃろう。じゃから――」
「そんなに焦らないでください。大丈夫です。ですが、それだけじゃ勿体無くないですか?」
「勿体無い……?」
ここまでの会話を聞いて、俺は全てを悟った。鑑賞会が始まると。そんな場所に居られるわけがない。
そろりそろりと扉に近づき、この部屋から脱出を図る。幸い、彼女たちは俺に気づいていない。
音を立てないようにそっと扉を開け、俺は抜け出すことに成功し――
「どうしたのですか、殿下?」
扉の外に悪魔が立ち塞がっていた。
なぜ、どうして、そんな考えが頭を埋め尽くす。2人は会話に夢中になって気がついていない。アイリスなら俺の行動を予想できるかもしれないが、マリーに話しかける事はしていないはずだ。
「……マリーはどうしてそこに?」
「私ですか? 私は誰も部屋に出入りしないように監視していました」
「入らないように……ではなくてか?」
「そもそも王妃様の命令で結構な数の騎士たちが守っているこの場所に誰が入って来れる……コホンッ、まぁ、中からも出て来るかもしれませんからね。警戒は必要です」
その場合、手遅れになっていないか? それよりも明確に俺を狙ってマリーが配置されている。さすが母上というべきか。だが、マリーならもう対策を知っている。こうなる事も予測してマリー対策を用意してきたんだ。
「マリー、その場を退け!」
命令権は俺よりも母上の方が上だ。だが、コイツは俺で儲けを考えるぐらい金に目がない。だから、俺はこの場に金貨を5枚忍ばせてきた。さぁ、これで道を――
「お断りします」
「はっ?」
「お断りします。よくもまあ金貨5枚程度で言うことを聞かせようと思いましたね。酷いです。私をなんだと思って……あっ、金貨はありがたく貰い――「渡すわけないだろ!」――殿下のケチっ」
コイツ、道を譲らないくせに金貨だけは貰おうとしやがった。それよりもなぜ――
「なぜ私が靡かなかったのか。その答えは簡単です。それは、既に殿下が渡して来るであろう以上のお金をいただいているからです!」
つまり、俺の用意した金額は足りていなかったという事らしい。言っている事は最低だ。それに堂々と言い放つその姿は無性に腹が立つ。あと顔も。
「ドャァ」
「…………」
「痛っ、痛いです! か弱い乙女になんて事をするんですか!? 痛いっ!」
「か弱い乙女は人の嫌がる事はしない」
マリーのどこに『か弱い』要素があるというのだ。あるとすればそうだな、『図太い』が相応しい…………やめておこう。これを口にするのはまずい気がする。
――ふと、この部屋が静かになっている気がする。振り返ってみると、少しばつが悪い顔をしている2人がいた。
「どうしたんだ2人と――「アイン様。ごと申し訳ありません。私、アイン様の事を考えてなくて……」――ああ、その事か」
「妾も悪かったのじゃ。自分の事しか考えておらんかった」
2人が頭を下げて謝るが、正直2人に対して思う事は何もない。一言いうのであれば、俺の前で姿絵の事を嬉々として話すのは控えて欲しいぐらいか。
「気にしなくていい。と言いたいところだが、まぁ、ほどほどにしてほしい」
「……申し訳ありません。これからは気をつけます」
「そうだな。これから気をつけてくれれば……」
そこまで言って、アイリスがニコリと微笑むのが見えた。このタイミングで微笑む彼女に、どことなく不安が過ぎる。今回は言質を取られるような事もしていないはずだ。ならなぜ……
「今日は、もう仕方ありませんものね。たっぷりと堪能するとしましょう」
「アイリス、何を言って――「マリー、準備をお願いします」――おいっ! 放せマリー!」
「さあ、アイリス。絵だけでなく本物も楽しむとしましょうか」
「う、うむ。でも良いのか?」
「……問題ありません」
問題は大有りだ! 笑っていたのは『これから』に『今日』が含まれていないからか!?
結局、俺はマリーに連れられ、いつもの衣装部屋に押し込まれ、アイリスたちが満足するまで着せ替え人形にされるのだった。
国の事だけを考えるなら悪い事ではない、そのはずなんだが、経緯がアレなだけに嫌な予感しかしない。それどころか、今すぐにでもここから立ち去りたい。
そう。俺はここで逃げ出すべきだったんだ。
「のぅ、アイリス。他にはないのか?」
「ふふっ、ニーナは欲張りですね」
「仕方ないじゃろう。妾は失恋したんじゃ。だから手元にアイン殿下の姿絵を持っておるわけにもいくまい。じゃが、これなら誰が見てもわからないじゃろう。じゃから――」
「そんなに焦らないでください。大丈夫です。ですが、それだけじゃ勿体無くないですか?」
「勿体無い……?」
ここまでの会話を聞いて、俺は全てを悟った。鑑賞会が始まると。そんな場所に居られるわけがない。
そろりそろりと扉に近づき、この部屋から脱出を図る。幸い、彼女たちは俺に気づいていない。
音を立てないようにそっと扉を開け、俺は抜け出すことに成功し――
「どうしたのですか、殿下?」
扉の外に悪魔が立ち塞がっていた。
なぜ、どうして、そんな考えが頭を埋め尽くす。2人は会話に夢中になって気がついていない。アイリスなら俺の行動を予想できるかもしれないが、マリーに話しかける事はしていないはずだ。
「……マリーはどうしてそこに?」
「私ですか? 私は誰も部屋に出入りしないように監視していました」
「入らないように……ではなくてか?」
「そもそも王妃様の命令で結構な数の騎士たちが守っているこの場所に誰が入って来れる……コホンッ、まぁ、中からも出て来るかもしれませんからね。警戒は必要です」
その場合、手遅れになっていないか? それよりも明確に俺を狙ってマリーが配置されている。さすが母上というべきか。だが、マリーならもう対策を知っている。こうなる事も予測してマリー対策を用意してきたんだ。
「マリー、その場を退け!」
命令権は俺よりも母上の方が上だ。だが、コイツは俺で儲けを考えるぐらい金に目がない。だから、俺はこの場に金貨を5枚忍ばせてきた。さぁ、これで道を――
「お断りします」
「はっ?」
「お断りします。よくもまあ金貨5枚程度で言うことを聞かせようと思いましたね。酷いです。私をなんだと思って……あっ、金貨はありがたく貰い――「渡すわけないだろ!」――殿下のケチっ」
コイツ、道を譲らないくせに金貨だけは貰おうとしやがった。それよりもなぜ――
「なぜ私が靡かなかったのか。その答えは簡単です。それは、既に殿下が渡して来るであろう以上のお金をいただいているからです!」
つまり、俺の用意した金額は足りていなかったという事らしい。言っている事は最低だ。それに堂々と言い放つその姿は無性に腹が立つ。あと顔も。
「ドャァ」
「…………」
「痛っ、痛いです! か弱い乙女になんて事をするんですか!? 痛いっ!」
「か弱い乙女は人の嫌がる事はしない」
マリーのどこに『か弱い』要素があるというのだ。あるとすればそうだな、『図太い』が相応しい…………やめておこう。これを口にするのはまずい気がする。
――ふと、この部屋が静かになっている気がする。振り返ってみると、少しばつが悪い顔をしている2人がいた。
「どうしたんだ2人と――「アイン様。ごと申し訳ありません。私、アイン様の事を考えてなくて……」――ああ、その事か」
「妾も悪かったのじゃ。自分の事しか考えておらんかった」
2人が頭を下げて謝るが、正直2人に対して思う事は何もない。一言いうのであれば、俺の前で姿絵の事を嬉々として話すのは控えて欲しいぐらいか。
「気にしなくていい。と言いたいところだが、まぁ、ほどほどにしてほしい」
「……申し訳ありません。これからは気をつけます」
「そうだな。これから気をつけてくれれば……」
そこまで言って、アイリスがニコリと微笑むのが見えた。このタイミングで微笑む彼女に、どことなく不安が過ぎる。今回は言質を取られるような事もしていないはずだ。ならなぜ……
「今日は、もう仕方ありませんものね。たっぷりと堪能するとしましょう」
「アイリス、何を言って――「マリー、準備をお願いします」――おいっ! 放せマリー!」
「さあ、アイリス。絵だけでなく本物も楽しむとしましょうか」
「う、うむ。でも良いのか?」
「……問題ありません」
問題は大有りだ! 笑っていたのは『これから』に『今日』が含まれていないからか!?
結局、俺はマリーに連れられ、いつもの衣装部屋に押し込まれ、アイリスたちが満足するまで着せ替え人形にされるのだった。
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