【完結】俺は今日、婚約破棄をする

白キツネ

文字の大きさ
31 / 33

満足

しおりを挟む
 目の前で嫌な友情が結ばれた。

 国の事だけを考えるなら悪い事ではない、そのはずなんだが、経緯がアレなだけに嫌な予感しかしない。それどころか、今すぐにでもここから立ち去りたい。

 そう。俺はここで逃げ出すべきだったんだ。

「のぅ、アイリス。他にはないのか?」
「ふふっ、ニーナは欲張りですね」
「仕方ないじゃろう。妾は失恋したんじゃ。だから手元にアイン殿下の姿絵を持っておるわけにもいくまい。じゃが、これなら誰が見てもわからないじゃろう。じゃから――」
「そんなに焦らないでください。大丈夫です。ですが、それだけじゃ勿体無くないですか?」
「勿体無い……?」

 ここまでの会話を聞いて、俺は全てを悟った。鑑賞会が始まると。そんな場所に居られるわけがない。
 そろりそろりと扉に近づき、この部屋から脱出を図る。幸い、彼女たちは俺に気づいていない。

 音を立てないようにそっと扉を開け、俺は抜け出すことに成功し――

「どうしたのですか、殿下?」

 扉の外に悪魔が立ち塞がっていた。

 なぜ、どうして、そんな考えが頭を埋め尽くす。2人は会話に夢中になって気がついていない。アイリスなら俺の行動を予想できるかもしれないが、マリーに話しかける事はしていないはずだ。

「……マリーはどうしてそこに?」
「私ですか? 私は誰も部屋に出入りしないように監視していました」
「入らないように……ではなくてか?」
「そもそも王妃様の命令で結構な数の騎士たちが守っているこの場所に誰が入って来れる……コホンッ、まぁ、中からも出て来るかもしれませんからね。警戒は必要です」

 その場合、手遅れになっていないか? それよりも明確に俺を狙ってマリーが配置されている。さすが母上というべきか。だが、マリーならもう対策を知っている。こうなる事も予測してマリー対策を用意してきたんだ。

「マリー、その場を退け!」

 命令権は俺よりも母上の方が上だ。だが、コイツは俺で儲けを考えるぐらい金に目がない。だから、俺はこの場に金貨を5枚忍ばせてきた。さぁ、これで道を――

「お断りします」
「はっ?」
「お断りします。よくもまあ金貨5枚程度で言うことを聞かせようと思いましたね。酷いです。私をなんだと思って……あっ、金貨はありがたく貰い――「渡すわけないだろ!」――殿下のケチっ」

 コイツ、道を譲らないくせに金貨だけは貰おうとしやがった。それよりもなぜ――

「なぜ私が靡かなかったのか。その答えは簡単です。それは、既に殿下が渡して来るであろう以上のお金をいただいているからです!」

 つまり、俺の用意した金額は足りていなかったという事らしい。言っている事は最低だ。それに堂々と言い放つその姿は無性に腹が立つ。あと顔も。

「ドャァ」
「…………」
「痛っ、痛いです! か弱い乙女になんて事をするんですか!? 痛いっ!」
「か弱い乙女は人の嫌がる事はしない」

 マリーのどこに『か弱い』要素があるというのだ。あるとすればそうだな、『図太い』が相応しい…………やめておこう。これを口にするのはまずい気がする。

 ――ふと、この部屋が静かになっている気がする。振り返ってみると、少しばつが悪い顔をしている2人がいた。

「どうしたんだ2人と――「アイン様。ごと申し訳ありません。私、アイン様の事を考えてなくて……」――ああ、その事か」
「妾も悪かったのじゃ。自分の事しか考えておらんかった」

 2人が頭を下げて謝るが、正直2人に対して思う事は何もない。一言いうのであれば、俺の前で姿絵の事を嬉々として話すのは控えて欲しいぐらいか。

「気にしなくていい。と言いたいところだが、まぁ、ほどほどにしてほしい」
「……申し訳ありません。これからは気をつけます」
「そうだな。これから気をつけてくれれば……」

 そこまで言って、アイリスがニコリと微笑むのが見えた。このタイミングで微笑む彼女に、どことなく不安が過ぎる。今回は言質を取られるような事もしていないはずだ。ならなぜ……

「今日は、もう仕方ありませんものね。たっぷりと堪能するとしましょう」
「アイリス、何を言って――「マリー、準備をお願いします」――おいっ! 放せマリー!」
「さあ、アイリス。絵だけでなく本物も楽しむとしましょうか」
「う、うむ。でも良いのか?」
「……問題ありません」

 問題は大有りだ! 笑っていたのは『これから』に『今日』が含まれていないからか!?

 結局、俺はマリーに連れられ、いつもの衣装部屋に押し込まれ、アイリスたちが満足するまで着せ替え人形にされるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

『婚約もしていないのに婚約破棄ですか? 〜岩塩で殴れば目が覚めます?〜』

しおしお
恋愛
「岩を売る田舎娘と婚約?そんなもの破棄だ!」 ――そう言い放ったのは、まだ婚約すら成立していないのに“婚約破棄”を宣言した内陸王国の王太子。 塩は海から来るもの。 白く精製された粉こそ本物。 岩塩など不純物の塊に過ぎない。 そう思い込んだ彼は、ハライト公国公爵令嬢ヴィエリチカを侮辱し、交易を軽んじた。 だが―― 王都に届くその“白い粉”は、すべてハライト産の岩塩から精製されたものだった。 供給が止まった瞬間、王国は気づく。 塩は保存であり、兵站であり、治療であり、冬越しの生命線であったことを。 謝罪の席で提示された条件はただ一つ。 民への販売価格は据え置き。 だが国家は十倍で買い取ること。 誇りを守るために契約を受け入れた王太子。 守られたのは民。 削られたのは国家。 やがて赤字は膨らみ、担保は差し出され、王国は静かに編入されていく。 処刑はない。 復讐もない。 あるのは――帰結。 「塩は、穢れを流すためのものです」 笑顔で告げるヴィエリチカと、 王宮衛生管理局へ配属された元王太子。 これは、岩塩を侮った物語の、静かな終着点。 --- もしアルファポリス向けにもう少し軽くする版も欲しければ、作ります。 それとも、 ・タグもまとめる? ・もっと煽る版にする? ・文学寄りにする? どの方向で仕上げますか?

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

堅物侯爵令息から言い渡された婚約破棄を、「では婚約破棄会場で」と受けて立った結果

有沢楓花
恋愛
「君との婚約を破棄させてもらう」  子爵令嬢・ミルドレッドは、幼い頃からの婚約者である侯爵家の令息・テレンスからの婚約破棄を以前から覚悟していた。  彼は笑うことをやめてしまっていたから。そもそも何故自分が選ばれたのかすら、分からなかったのだ。 「破棄についての話し合いだが、一週間後でどうだろうか。家を挟まず学院で行いたい」 「ではこの婚約破棄会場の利用申請書に、希望の日時を記入してください。会場の予約開始はひと月前からですが、その日は丁度、空きがあります」  ――ここ数年、王都の学院では婚約破棄の嵐が吹き荒れていた。  特に今年は名だたる貴族の令息令嬢たちが次々に婚約破棄を叩きつけ、9件になる。  注目を集めたい生徒も多く、ところかまわず行われることを防ぐため、風紀委員会が婚約破棄場と立会人まで用意したくらいだ。  ここでの話し合いは、俗に婚約破棄裁判とか婚約破棄決闘などと呼ばれている。  しかしミルドレッドは破棄裁判を受けて立ったものの、真面目な彼が家を通してではなく、直接学院で、と伝えてきたことには疑問を抱いていた。 「堅物と有名なテレンス様がこんなことをするなんて。まさか流行に影響されて……?」  風紀委員会の副委員長たるミルドレッドは、正しい学院の治安維持と正しい婚約破棄のため、弁護人を付けずに一人会場での話し合いに臨むのだが……。

婚約を奪った義妹は王太子妃になりましたが、王子が廃嫡され“廃嫡王子の妻”になりました

鷹 綾
恋愛
「お姉様には、こちらの方がお似合いですわ」 そう言って私の婚約者を奪ったのは、可憐で愛らしい義妹でした。 王子に見初められ、王太子妃となり、誰もが彼女の勝利を疑わなかった――あの日までは。 私は“代わり”の婚約者を押し付けられ、笑いものにされ、社交界の端に追いやられました。 けれど、選ばれなかったことは、終わりではありませんでした。 華やかな王宮。 厳しい王妃許育。 揺らぐ王家の威信。 そして――王子の重大な過ち。 王太子の座は失われ、運命は静かに反転していく。 離縁を望んでも叶わない義妹。 肩書きを失ってなお歩き直す王子。 そして、奪われたはずの私が最後に選び取った人生。 ざまあは、怒鳴り声ではなく、選択の積み重ねで訪れる。 婚約を奪われた姉が、静かに価値を積み上げていく王宮逆転劇。

辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。

コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。 だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。 それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。 ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。 これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。

《完結》初夜をすっぽかされた令嬢は夫を死亡扱いする

さんけい
恋愛
クズ夫の非常識を帳簿で粛々と清算!真実の愛?笑わせるわね! 全14話。

処理中です...