7 / 10
対峙
しおりを挟む
「そう。私たち3人を……」
職員室で全員が合流した後、今の状況についての意見交換、主に健斗と綾香の2人による話しが終わった後、沙奈がポツリとつぶやいた。
その声音はいつもの沙奈と比べると低く、落ち込んでいるのが見てとれる。
「綾香が望んだ世界って事は、綾香がここから出たい! と望めば出られるとかないかな?」
「うーん、でもそれなら最初の血文字の時点でずっと帰りたいと思ってるよ? たぶん、この空間が確立された時点で、今の望みは関係ないんじゃないかな?」
――それに、私の望んだ世界と言われても実感がまるでない。だって、今の状況はまったく私が望んだ事じゃないのだから
「ならやっぱり、けんちゃんが見つけてくれた鍵が重要になるって事かな」
「そうだね。これが本当にエントランスの鍵ならいいんだけど……」
「だって『勘』だもんね」
沙奈と優馬のやりとりに、ずっと黙っていた健斗がとうとう我慢の限界を迎えた。
「うるさい。嫌なら俺だけでも帰るぞ」
「嫌だなんて言ってないも~ん。じゃあ、アレが動いていない内に早く移動しよう」
沙奈の言葉に3人は黙って頷いた。
私と健斗が彼女から逃げてから、一度もあの音は聞こえていない。それは彼女があそこから動いていないという事……。だけど、あのままあそこにいるとは到底思えない。
彼女が音を立てずに移動するのは容易な事だろう。だってあの刀を持ち上げればいいのだし、彼女には持ち上げる力もある。わざわざ引き摺って音を立てる必要はそもそもない。けれど、あえてそれをしていた理由は、私を、3人を怖がらせるため。
彼女がこちらの行動を把握しているのであれば、もう徘徊する必要はない。だって――
「な、なんでアンタがここにいるのよ……このバケモノ!」
沙奈が叫ぶ。だって、エントランスで待っていれば3人揃ってやって来るのだから。わざわざ歩き回って逃すリスクを負う必要もない。
私は一歩前に出て、彼女に問いかける。
「ねぇ、ここは私が望んだ世界なんでしょ。なら出してよ。私はこんな風に3人が殺される事は望んでいないわ」
『そう、貴女はまだ邪魔をするのね。けれど大丈夫。貴女が次に目を覚ますと、全てが終わっているわ』
私を殺した後に、みんなを……いや、そもそも、彼女にとって私の意識を無くさせることぐらい造作もない事なのか。
どちらにせよ、彼女とは対峙しないといけないらしい。
『……だけどいいわその「本当!?」……』
私の決意とは裏腹に、彼女は提案をして来た。その内容を聞かないまま沙奈が食いついたので、沙奈を睨み、彼女に次を促す。
「沙奈は黙ってて、それで?」
『その代わりに条件を出させてもらう』
綾香は確認するように3人を見る。3人とも同時に頷いた。
「ええ、その条件は?」
『ここに1人を残す事。残すのは誰でもいいわ。好きに決めてちょうだい』
彼女は……きっと確信している。3人が私を選ぶ事を。そして私も同じ気持ちだった。
けれど、ここで予想していなかった事が起きる。
「……俺が残る」
「ううん、私が残るよ。たぶん、1番怨まれてるのは私だろうし……」
「僕が残るよ。ここまで何もせずずっと逃げてばかりだったから……最後ぐらいは」
3人それぞれがここに残ると言い出した。彼女はその事実に虚をつかれる。
今なら鍵で全員が出る事ができるんじゃないか。そう思えるほど、彼女は固まっていた。
『な、なんで……どうして! またお前たちは!』
自分が残ると言い争っていた3人が彼女の叫びに押し黙り、様子を伺う。
綾香は彼女に向かって歩き出し、そして抱きついた。
「「綾香!」」 「あやちゃん!?」
3人は驚いた声を上げるが、綾香は気にすることなく彼女に語りかける。
「もう大丈夫だよ。大丈夫」
『私は、私たちはこの連中に……』
「大丈夫。私を心配してくれたんだよね。でも大丈夫。だって私の望みは――」
私は彼女に……彼女たちに本当の望みを告げた。
職員室で全員が合流した後、今の状況についての意見交換、主に健斗と綾香の2人による話しが終わった後、沙奈がポツリとつぶやいた。
その声音はいつもの沙奈と比べると低く、落ち込んでいるのが見てとれる。
「綾香が望んだ世界って事は、綾香がここから出たい! と望めば出られるとかないかな?」
「うーん、でもそれなら最初の血文字の時点でずっと帰りたいと思ってるよ? たぶん、この空間が確立された時点で、今の望みは関係ないんじゃないかな?」
――それに、私の望んだ世界と言われても実感がまるでない。だって、今の状況はまったく私が望んだ事じゃないのだから
「ならやっぱり、けんちゃんが見つけてくれた鍵が重要になるって事かな」
「そうだね。これが本当にエントランスの鍵ならいいんだけど……」
「だって『勘』だもんね」
沙奈と優馬のやりとりに、ずっと黙っていた健斗がとうとう我慢の限界を迎えた。
「うるさい。嫌なら俺だけでも帰るぞ」
「嫌だなんて言ってないも~ん。じゃあ、アレが動いていない内に早く移動しよう」
沙奈の言葉に3人は黙って頷いた。
私と健斗が彼女から逃げてから、一度もあの音は聞こえていない。それは彼女があそこから動いていないという事……。だけど、あのままあそこにいるとは到底思えない。
彼女が音を立てずに移動するのは容易な事だろう。だってあの刀を持ち上げればいいのだし、彼女には持ち上げる力もある。わざわざ引き摺って音を立てる必要はそもそもない。けれど、あえてそれをしていた理由は、私を、3人を怖がらせるため。
彼女がこちらの行動を把握しているのであれば、もう徘徊する必要はない。だって――
「な、なんでアンタがここにいるのよ……このバケモノ!」
沙奈が叫ぶ。だって、エントランスで待っていれば3人揃ってやって来るのだから。わざわざ歩き回って逃すリスクを負う必要もない。
私は一歩前に出て、彼女に問いかける。
「ねぇ、ここは私が望んだ世界なんでしょ。なら出してよ。私はこんな風に3人が殺される事は望んでいないわ」
『そう、貴女はまだ邪魔をするのね。けれど大丈夫。貴女が次に目を覚ますと、全てが終わっているわ』
私を殺した後に、みんなを……いや、そもそも、彼女にとって私の意識を無くさせることぐらい造作もない事なのか。
どちらにせよ、彼女とは対峙しないといけないらしい。
『……だけどいいわその「本当!?」……』
私の決意とは裏腹に、彼女は提案をして来た。その内容を聞かないまま沙奈が食いついたので、沙奈を睨み、彼女に次を促す。
「沙奈は黙ってて、それで?」
『その代わりに条件を出させてもらう』
綾香は確認するように3人を見る。3人とも同時に頷いた。
「ええ、その条件は?」
『ここに1人を残す事。残すのは誰でもいいわ。好きに決めてちょうだい』
彼女は……きっと確信している。3人が私を選ぶ事を。そして私も同じ気持ちだった。
けれど、ここで予想していなかった事が起きる。
「……俺が残る」
「ううん、私が残るよ。たぶん、1番怨まれてるのは私だろうし……」
「僕が残るよ。ここまで何もせずずっと逃げてばかりだったから……最後ぐらいは」
3人それぞれがここに残ると言い出した。彼女はその事実に虚をつかれる。
今なら鍵で全員が出る事ができるんじゃないか。そう思えるほど、彼女は固まっていた。
『な、なんで……どうして! またお前たちは!』
自分が残ると言い争っていた3人が彼女の叫びに押し黙り、様子を伺う。
綾香は彼女に向かって歩き出し、そして抱きついた。
「「綾香!」」 「あやちゃん!?」
3人は驚いた声を上げるが、綾香は気にすることなく彼女に語りかける。
「もう大丈夫だよ。大丈夫」
『私は、私たちはこの連中に……』
「大丈夫。私を心配してくれたんだよね。でも大丈夫。だって私の望みは――」
私は彼女に……彼女たちに本当の望みを告げた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
おめでとう。社会貢献指数が上がりました。
水井伸輔(Mizui Shinsuke)
SF
「正しく」生きれば、どこまでも優しいこの国。
17歳のシュウは、社会貢献指数を高め、平穏な未来を手に入れようとしていた。しかし、システムに疑問を抱く父のランクは最低の「D」。
国家機能維持条項が発令された夜、シュウの端末に現れたのは、父の全権利を支配するための「同意」ボタンだった。
支配か、追放か。指先ひとつで決まる、親子の、そして人間の尊厳の行方。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる