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白キツネ

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対峙

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「そう。私たち3人を……」

 職員室で全員が合流した後、今の状況についての意見交換、主に健斗と綾香の2人による話しが終わった後、沙奈がポツリとつぶやいた。
 その声音はいつもの沙奈と比べると低く、落ち込んでいるのが見てとれる。

「綾香が望んだ世界って事は、綾香がここから出たい! と望めば出られるとかないかな?」
「うーん、でもそれなら最初の血文字の時点でずっと帰りたいと思ってるよ? たぶん、この空間が確立された時点で、今の望みは関係ないんじゃないかな?」

 ――それに、私の望んだ世界と言われても実感がまるでない。だって、今の状況はまったく私が望んだ事じゃないのだから

「ならやっぱり、けんちゃんが見つけてくれた鍵が重要になるって事かな」
「そうだね。これが本当にエントランスの鍵ならいいんだけど……」
「だって『勘』だもんね」

 沙奈と優馬のやりとりに、ずっと黙っていた健斗がとうとう我慢の限界を迎えた。

「うるさい。嫌なら俺だけでも帰るぞ」
「嫌だなんて言ってないも~ん。じゃあ、アレが動いていない内に早く移動しよう」

 沙奈の言葉に3人は黙って頷いた。

 私と健斗が彼女から逃げてから、一度もあの音は聞こえていない。それは彼女があそこから動いていないという事……。だけど、あのままあそこにいるとは到底思えない。
 彼女が音を立てずに移動するのは容易な事だろう。だってあの刀を持ち上げればいいのだし、彼女には持ち上げる力もある。わざわざ引き摺って音を立てる必要はそもそもない。けれど、あえてそれをしていた理由は、私を、3人を怖がらせるため。
 
 彼女がこちらの行動を把握しているのであれば、もう徘徊する必要はない。だって――

「な、なんでアンタがここにいるのよ……このバケモノ!」

 沙奈が叫ぶ。だって、エントランスで待っていれば3人揃ってやって来るのだから。わざわざ歩き回って逃すリスクを負う必要もない。

 私は一歩前に出て、彼女に問いかける。

「ねぇ、ここは私が望んだ世界なんでしょ。なら出してよ。私はこんな風に3人が殺される事は望んでいないわ」
『そう、貴女はまだ邪魔をするのね。けれど大丈夫。貴女が次に目を覚ますと、全てが終わっているわ』

 私を殺した後に、みんなを……いや、そもそも、彼女にとって私の意識を無くさせることぐらい造作もない事なのか。
 どちらにせよ、彼女とは対峙しないといけないらしい。

『……だけどいいわその「本当!?」……』

 私の決意とは裏腹に、彼女は提案をして来た。その内容を聞かないまま沙奈が食いついたので、沙奈を睨み、彼女に次を促す。
 
「沙奈は黙ってて、それで?」
『その代わりに条件を出させてもらう』

 綾香は確認するように3人を見る。3人とも同時に頷いた。

「ええ、その条件は?」
『ここに1人を残す事。残すのは誰でもいいわ。好きに決めてちょうだい』

 彼女は……きっと確信している。3人が私を選ぶ事を。そして私も同じ気持ちだった。

 けれど、ここで予想していなかった事が起きる。

「……俺が残る」
「ううん、私が残るよ。たぶん、1番怨まれてるのは私だろうし……」
「僕が残るよ。ここまで何もせずずっと逃げてばかりだったから……最後ぐらいは」

 3人それぞれがここに残ると言い出した。彼女はその事実に虚をつかれる。
 今なら鍵で全員が出る事ができるんじゃないか。そう思えるほど、彼女は固まっていた。

『な、なんで……どうして! またお前たちは!』

 自分が残ると言い争っていた3人が彼女の叫びに押し黙り、様子を伺う。

 綾香は彼女に向かって歩き出し、そして抱きついた。

「「綾香!」」 「あやちゃん!?」

 3人は驚いた声を上げるが、綾香は気にすることなく彼女に語りかける。

「もう大丈夫だよ。大丈夫」
『私は、私たちはこの連中に……』
「大丈夫。私を心配してくれたんだよね。でも大丈夫。だって私の望みは――」

 私は彼女に……彼女たちに本当の望みを告げた。
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